4.1. 類洞閉塞症候群(Sinusoidal obstruction syndrome, SOS)

類洞閉塞症候群は肝臓の静脈内皮細胞の損傷によって引き起こされる病態である(いわゆるblue liver)。様々な化学療法薬が類洞閉塞症候群の原因となりうる。類洞閉塞症候群の症状は非特異的であり、臨床診断は困難である。リスク因子には、術前のγ-GTP高値、高齢、女性、ICG停滞率高値、化学療法サイクル数などが報告されている14)。類洞閉塞症候群の治療には化学療法の休止が最も有効である。類洞閉塞症候群はEOB造影MRIの動脈相で肝右葉辺縁を主体としたモザイク状の造影効果を示し、肝細胞相で網目状の低信号を呈する特徴的な像を呈する(図8)。限局性の病変では肝転移との鑑別を要することもある。類洞閉塞症候群は拡散制限がないこと、病変辺縁部にEOBの取り込みを認めること、病変内に血管が貫通すること、が肝転移との鑑別点となる15)

図8. 49歳男性、類洞閉塞症候群(横行結腸癌術後化学療法中、EOB造影MRI)

(a) 造影前脂肪抑制T1強調像、(b) 動脈相、(c) 門脈相、(d) 移行相、(e) 肝細胞相

図8. 49歳男性、類洞閉塞症候群(横行結腸癌術後化学療法中、EOB造影MRI)

造影前、動脈相、門脈相では異常を指摘できないが、移行相および肝細胞相で肝右葉に網目状の低信号域を認める(矢印)。肝細胞相でより明瞭である。

4.2. Focal nodular hyperplasia (FNH)-like lesions

FNH-like lesionは、化学療法後類洞閉塞症候群の末期像と考えられている16)。肝障害は門脈周囲肝細胞の過形成を誘発する。複数の病変が観察されることが多い。化学療法終了後、診断までの平均期間は48か月とされる。病変は動脈相で均一な濃染を示し、門脈相、平衡相、移行相では等濃度または等信号を示す。肝細胞相では病変全体または辺縁主体(ドーナツ状)に高信号を呈する(図915)。多発することもあるが、肝細胞相の信号から肝転移と鑑別可能である。

図9. 67歳男性、FNH like lesion(直腸癌術後化学療法後、EOB造影MRI)

(a) 造影前脂肪抑制T1強調像、(b) 動脈相、(c) 門脈相、(d) 移行相、(e) 肝細胞相、(f) 化学療法前肝細胞相

図9. 67歳男性、FNH like lesion(直腸癌術後化学療法後、EOB造影MRI)

術後化学療法12コース施行後4か月時のEOB造影MRI。肝S3に最大径7mmの結節を認める。動脈相で全体が均一に濃染しており、門脈相および移行相では軽度高信号を呈している。肝細胞相では辺縁主体に高信号を呈している(ドーナツ状)(矢印)。化学療法前の肝細胞相では同部に病変を認めていない。

4.3. Chemotherapy-associated steatohepatitis

化学療法に関連した脂肪性肝炎が報告されている16,17)。この病態の発現は肝細胞における脂質代謝の障害およびリポ蛋白合成の変化と関連しており、肝細胞脂質含量の増加を引き起こす。化学療法に伴う脂肪性肝炎は、術後の罹患率および死亡リスクを増加させる16,17)。画像所見は通常の脂肪肝と同様であり、CTでは肝実質のびまん性濃度低下を認める(図10)。MRIは脂肪沈着の検出感度がより高く、chemical shift imagingやproton density fat fractionが有用である。化学療法に伴う脂肪性肝炎は、化学療法を中止すれば一般に可逆的である18)

図10. 54歳女性、Chemotherapy-associated steatohepatitis(直腸癌術後化学療法施行、非造影CT)

(a) 化学療法導入前、(b) 化学療法9コース施行後(ここでレジメン変更)、(c) レジメン変更後3か月

図10. 54歳女性、Chemotherapy-associated steatohepatitis(直腸癌術後化学療法施行、非造影CT)

化学療法導入前には脂肪肝を認めない。化学療法9コース施行後のCTでは肝実質と肝内血管のコントラストが不明瞭であり、脂肪肝の像である。レジメン変更後のCTでは肝内血管が低濃度域として同定でき(矢印)、脂肪肝が改善している。

9.特定の背景を有する患者に関する注意【電子添文より抜粋】
9.8 高齢者
 患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下している。

参考文献

  • 14) de Lédinghen V, Villate A, Robin M, et al. Sinusoidal obstruction syndrome. Clin Res Hepatol Gastroenterol 2020;44:480-485.
  • 15) Ichikawa S, Goshima S. Key CT and MRI findings of drug-associated hepatobiliary and pancreatic disorders. Jpn J Radiol 2024;42:235-245.
  • 16) Donati F, Cioni D, Guarino S, et al. Chemotherapy-induced liver injury in patients with colorectal liver metastases: findings from MR imaging. Diagnostics (Basel) 2022;12.
  • 17) Vernuccio F, Dioguardi Burgio M, Barbiera F, et al. CT and MR imaging of chemotherapy-induced hepatopathy. Abdom Radiol (NY) 2019;44:3312-3324.
  • 18) Meunier L, Larrey D. Chemotherapy-associated steatohepatitis. Ann Hepatol 2020;19:597-601.

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