イソビスト®注
イオトロラン注射液
イソビスト製品情報
造影剤とは?
1. X線造影剤の造影の仕組み
造影の原理1)
X線画像のコントラストは物質のX線吸収率が異なることから生じているため、単純X線撮影では部位によっては組織間のコントラストがつかず診断することが困難である。
X線画像で、生体にX線を照射した際に、骨は良好に描出できるが、脈管や臓器の描出、病巣を検出するには体内に造影剤を投与して造影検査を行う必要がある。そのため、十分な造影能を持ち安全性が確立したヨード造影剤が必要となる。
ヨード造影剤は、それ自体がX線を吸収するため、ヨード造影剤が存在する部分では造影剤濃度に比例して高いコントラストを得ることが画像上可能となる。
描出の原理1)
造影効果はX線ヨード造影剤の分布によってコントラストが決定される。そのため、ヨード造影剤の排泄過程(腎臓排泄、肝臓排泄)や輸送過程(血流、脳脊髄液の流れなど)、血流の分布、血管透過性や血液関門の有無など、造影部位により造影効果に違いが生じる。
〈参考文献〉
1) 新津守.吉川宏起編集:造影検査マスター・テキスト:2(2007)
2) Speck.U(翻訳監修 山口昂一):Contrast Media:2(1993)
2. 水溶性ヨード造影剤の基礎
水溶性ヨード造影剤の分類
水溶性ヨード造影剤は、いずれもトリヨードベンゼン環を基本構造にもつ。水溶性をもたせる基(側鎖)のタイプにより、イオン性と非イオン性に分類される。さらに 1 分子中のベンゼン環の数によりモノマー型とダイマー型に分けられる。
イオトロランは非イオン性ダイマー型に分類される。
浸透圧
浸透圧は水溶性ヨード造影剤の安全性に密接に関係しているといわれている。
イオン性造影剤から非イオン性造影剤になることで、大幅な浸透圧の低減に成功したが、それでも生体の浸透圧に比べ数倍高い浸透圧 であった。非イオン性ダイマー型造影剤は、非イオン性造影剤をダイマー型にすることで、さらに浸透圧を低減し、臨床使用できる濃 度で体液と等張の浸透圧にすることができ、等浸透圧造影剤と呼ばれる。
粘稠度
造影剤の粘稠度は分子量やベンゼン環に付く置換基の大きさや形状に依存する。非イオン性ダイマー型はモノマー型に比べ分子量も大 きく、粘稠度も高い。
粘稠度は造影剤の投与のし易さにも関わるが、検査の種類によっては粘性が高いことが利点になる場合もある。
浸透圧の原理
水溶液の浸透圧は溶液中の溶質の粒子数に比例する。したがって、造影剤の浸透圧は造影剤 1 分子当たりのヨード原子数(I)と溶液 中の粒子数(P)の関係で表すことができる。
ヨード造影剤の浸透圧を下げるには 2 つの方法がある。1 つは非イオン性にすることで水溶液中での粒子数を減じる方法であり、もう 1 つはダイマー型にすることで 1 分子中のヨード原子数を増やす方法である。
造 影 剤 の タ イ プ | 陰イオン | 陽イオン | 1分子中の ヨード 原子数(I) |
粒子数 (P) |
I/P | 等ヨード数 での 浸透圧比* |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
イ オ ン 性 |
モ ノ マ ー 型 | Na+ または meglumine+ |
3 | 2 | 1.5 | 1 | ||
ダ イ マ ー 型 | Na+ または meglumine+ |
6 | 2 | 3 | 1/2 | |||
非 イ オ ン 性 |
モ ノ マ ー 型 | 3 | 1 | 3 | 1/2 | |||
ダ イ マ ー 型 | 6 | 1 | 6 | 1/4 |
Na:ナトリウム mgl:メグルミン(メチルグルカミン)
*イオン性モノマー型ヨード造影剤の浸透圧を1 とした場合の比率
.
- イソビストとは?
- イソビストの使い方は?
- イソビストを投与するにあたって注意することは?
- 子宮卵管造影検査におけるイソビスト®注300の使用例
- イソビスト®注300を用いた子宮卵管造影検査において より読影しやすい画像を得た症例
イソビストは非イオン性ダイマー型のイオトロランを主成分とする水溶性ヨード造影剤である。 240mgI/mLと300mgI/mLのヨード濃度を有する2製剤があり、製剤により適応が異なる。
3. 有効成分に関する理化学的知見
構造式:
- 一般名:
- イオトロラン(Iotrolan)
- 化学名:
- A diastereomeric mixture of 5,5’ - 〔malonylbis-(methylimino)〕 bis
〔N,N ’ -bis 〔 2,3-dihydroxy-1-(hydroxymethyl)propyl〕
-2,4,6-triiodoisophthalamide〕 (IUPAC)
- 分子式:
- C37H48I6N6O18
- 分子量:
- 1626.23
- CAS登録番号:
- 79770-24-4
- 性 状:
- 本品は白色の粉末または塊で、においはなく、味は甘い。
- 溶解性:
- 本品は水に極めて溶けやすく、メタノールにやや溶けにくく、エタノール (95) に溶けにくく、ジエチルエーテルにほとんど溶けない。
親水性
分配係数は親水性の指標とされる。親水性が高いほど蛋白結合性や細胞表面の刺激性が少なくなると考えられ、造影剤の生物学的活性にかかわる物理的特性といえる。
Mützel, W. et al.:RöFo suppl.128:28-32(1989)
*metrizamideは世界初の非イオン性モノマー型造影剤として使用されたが現在は市販されていない。
【MEMO】
50% 神経機能障害誘発量(ED50(ラット))
ラットの脳槽内にイオトロラン、metrizamideを投与し、50%のラットに反射・運動障害や痙攣などの神経機能障害を惹起する造影剤量(ED50)を求めた。イオトロランのED50値は他剤に比し有意に高かった(P<0.05)。
Muetzel, W.et al.: Invest. Radiol. 19: S140-141(1984)より作図
4. 組成・性状
イソビストの組成・性状
販売名 | イソビスト®注240 | イソビスト®注300 | |
---|---|---|---|
内容量(mL) | 10 | ||
イオトロラン(mg/瓶) | 5125.9 | 6407.5 | |
ヨード濃度(mg/mL) | 240 | 300 | |
1瓶中のヨード含有量(g) | 2.4 | 3.0 | |
添 加 物 |
エデト酸カルシウム 二ナトリウム(mg/瓶) |
1.0 | |
炭酸水素ナトリウム(mg/瓶) | 4.0 | ||
塩化ナトリウム(mg/瓶) | 6.0 | - | |
pH調整剤(2成分) | 適量 | ||
pH | 6.5~8.0 | ||
浸透圧比(生理食塩液に対する比) | 約1 | ||
粘稠度(mPa・s,37℃) | 約3.9 | 約8.6 | |
比重(37℃) | 1.279 | 1.353 |
5. 薬物動態
イソビストの吸収・排泄
1) クモ膜下腔内投与(髄腔内投与)
腎機能の正常な脊髄疾患患者 6 例に腰椎穿刺によりクモ膜下腔内にイオトロラン(190mgI/mL)8mL を投与し、腰部脊髄撮影を行った。続いて血中ヨード濃度、尿中総ヨード排泄量を経時的に測定し、薬物動態を検討した。 その結果、イオトロランのクモ膜下腔から血中への移行は速やかであり、投与後 24 時間までに投与量の約 84% が、48 時間後には約 94% が尿中に排泄された。
渡部恒夫ほか: 薬理と治療14(6):4317-4326(1986)
[MEMO] 造影剤の誤投与
医療事故として脊髄造影にイオン性造影剤を誤って使用したため、不幸な結果を招いた事例が知られている。このような事例から脳・脊髄造影に適応を有さない造影剤には警告欄に脳槽・脊髄造影に使用しない旨の記載がされている。
2)子宮腔内投与(ウサギ)
イオトロラン(300mgI/mL)をウサギ子宮腔内(n=3)に 100mgI/kg を投与したところ、1 日以内に尿及び膣からの流出液中に投与量の約 97%が排泄された1)。本剤は子宮腔内投与後、主に膣口から直接排泄されるとともに、一部腹腔内に移行して、その後速やかに血中に吸収されて尿中に排泄される。
3) 関節腔内投与(ウサギ
イオトロラン(300mgI/mL)をウサギ後肢膝関節腔内(n=3)に 100mgI/kg を投与したところ、24時間以内にほぼ全量が尿中に排泄され、糞中への排泄あるいは投与部位での残存は認められなかった1)。
〈参考文献〉
1) 宮本好明ほか:基礎と臨床27(12):4669-4674(1993)
開発の経緯
イオトロラン(イソビスト240)は脳槽・脊髄撮影を目的として、シエーリング AG(現:バイエル)により開発された2量体型の水溶性非イオン性造影剤です。非イオン性造影剤としてメトリザミド(アミパーク※)、イオパミドール(イオパミロン)等につぐ造影剤で、1987年、世界ではじめて本邦で承認・市販されました。
引き続いて1991年イソビスト240の効能として関節撮影が追加承認されました。同時にイソビスト300が子宮卵管・関節造影剤として承認されました。
※本邦では既に販売を終了しています。
製品の特徴及び有用性
イオトロランは1分子中に6個のヨウ素を含む2量体型非イオン性化合物で、2個の3ヨ-ド芳香環が4個の大きな親水基でマスクされた構造を有しています。このため300mgI/mLの濃度までその浸透圧濃度を体液と等張にすることができ、生体成分との相互作用も弱く、化学的にも安定した造影剤です。
副作用等発現状況の概要は以下の通りです。
イソビスト®注240
脊髄撮影
コンピューター断層撮影における脳室、脳槽、脊髄造影
承認時及び使用成績調査での調査症例6,158例中、493 例(8.0%)に副作用が認められ、主な副作用は頭痛303件(4.9%)、 嘔気86件(1.4%)、頭重感42件(0.7%)、嘔吐38件(0.6%)、発疹32件(0.5%)、そう痒20件(0.3%)、背部痛20件(0.3%)等であった。(再審査終了時)
関節撮影
承認時及び使用成績調査での調査症例648例中6例(0.9%)に副作用が認められ、主な副作用は発疹2件(0.3%)、そう痒感2件(0.3%)、嘔気2件(0.3%)等であった。(再審査終了時)
イソビスト®注300
子宮卵管撮影
承認時及び使用成績調査での調査症例3,548例中206例(5.8%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められ、主な副作用は腹痛[注入中]109件(3.1%)、腹痛[注入後]56 件(1.6%)、嘔気28件(0.8%)、発熱22件(0.6%)、発疹15件(0.4%)等であった。(再審査終了時)
関節撮影
承認時及び使用成績調査での調査症例637例中5例(0.8%)に副作用が認められ、主な副作用は発疹3件(0.5%)、疼痛2件(0.3%)等であった。(再審査終了時)