環状型非イオン性MRI用造影剤
ガドブトロール注射液
ガドビスト®静注1.0mol/L( 以下ガドビスト静注1.0M) は、ドイツBayer社が開発したガドブトロール(略号:Gd-BTDO3A)を有効成分とする環状型非イオン性MRI用造影剤です。
ガドビスト®静注1.0Mは、MRI装置の技術的性能の向上に伴い、撮像の高速化が進んだことによる急速投与(ボーラス投与)撮像に適した高濃度ガドリニウム造影剤に対する臨床ニーズを考慮し、高濃度でT1短縮効果の高い第2世代のガドリニウム製剤として開発が進められました。
本邦では2007年に第I相臨床試験を開始し、国内外で実施した臨床試験の成績から本剤の有効性と安全性が確認され、2015年3月、「磁気共鳴コンピューター断層撮影における脳・脊髄造影,躯幹部・四肢造影」の効能・効果を有するMRI用造影剤として承認され、2015年6月30日に5mL, 7.5mL, 10mLのプレフィルドシリンジ製剤として発売されました。
その後、小児用の剤型として2mLバイアルが2018年2月に承認され、8月23日に発売されました。ガドビスト®静注1.0Mは、静脈内投与後、血管内と細胞外液に分布する細胞外液性造影剤として既に100ヵ国以上で承認*されているガドリニウム造影剤です。
磁気共鳴コンピュータ断層撮影による下記造影
通常、本剤0.1mL/kgを静脈内投与する
ガドビスト®静注1.0M中のガドリニウムイオン(Gd3+) は常磁性を示すため、磁気共鳴現象において水素原子核(プロトン)の緩和を 促進し、緩和時間を短縮します。このため特に、T1強調画像においてコントラストが増強します。
一般名:ガドブトロール
略号: Gd-BT-DO3A
構造式:
分子式:C18H31GdN4O9
分子量:604.71
溶解性:本品は水に極めて溶けやすく、エタノール(99.5)に極めて溶けにくい
ガドビスト®静注 1.0mol/L 2mL |
ガドビスト®静注 1.0mol/L シリンジ 5mL |
ガドビスト®静注 1.0mol/L シリンジ 7.5mL |
ガドビスト®静注 1.0mol/L シリンジ 10mL |
|
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内容量(mL) | 2 | 5 | 7.5 | 10 |
内容量(mL) | 1mL 中,ガドブトロール 604.720mg 含有 | |||
1シリンジ中の 成分量(mg) |
1209.44 | 3023.6 | 4535.4 | 6047.2 |
添加物 | ロメタモール,カルコブトロールナトリウム,pH 調整材 | |||
色・性状 | 無色~微黄色澄明の注射液 | |||
浸透圧比 | 約 6(生理食塩液に対する比) | |||
pH | 6.6~8.0 |
本剤の水溶液中、および血漿中におけるT1緩和度(r1値)、およびT2緩和度(r2値)について、2.0Tの磁場強度下で測定しました。 その結果、血漿中では、ガドビスト®静注1.0Mのr1値は6.68を示し、一方、マグネビスト*のr1値は5.31を示しました。1.5T、および3Tにおいてもマグネビスト*に比べて高いT1短縮効果(r1値)を示します。
*マグネビストは国内での販売を終了しました
T1緩和度(r1値)及びT2緩和度(r2値)に対する効果
薬剤 | 2.0T(21~25°C) | ||
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r1 | r2 | ||
水溶液中 | ガドビスト | 4.26 | 5.05 |
マグネビスト* | 3.73 | 4.54 | |
血漿中 | ガドビスト | 6.68 | 9.15 |
マグネビスト* | 5.31 | 6.80 |
*マグネビストは国内での販売を終了しました
非イオン性MRI用造影剤のガドビスト®静注1.0Mは、静脈内注射後、血管内と細胞外液に分布する細胞外液性造影剤です。その後、尿中に未変化体として排泄され、代謝を受けないことが示されています。
健康成人男子に本剤0.1、0.2及び0.3mmol/kgを単回静脈内投与したところ、血漿中ガドリニウム濃度は2相性の消失を示し、最終相半減期は約1.8時間でした。
ガドブトロールを単回静脈内投与した際の血漿中ガドリニウム濃度推移(日本人健康成人男子)
健康成人男子に本剤0.1、0.2及び0.3mmol/kgを単回静脈内投与したところ、尿中ガドリニウム排泄率は、投与12時間後で投与量の90.4%~99.3%であり、ガドブトロールの尿中排泄は12時間でほぼ完了しました。
ガドブトロールを単回静脈内投与した際のガドリニウムの累積尿中排泄率(日本人健康成人男子)
摂取時間(h) | 平均累積中排泄率(%) | ||
---|---|---|---|
0.1mmol/kg (n=8) |
0.2mmol/kg (n=8) |
0.3mmol/kg (n=8) |
|
0 - 2 | 57.8 | 64.8 | 66.6 |
0 - 4 | 76.8 | 84.4 | 86.2 |
0 - 6 | 84.9 | 92.0 | 93.8 |
0 - 12 | 90.4 | 97.7 | 99.3 |
0 - 24 | 91.6 | 98.8 | 100 |
0 - 48 | 91.8 | 99.1 | 101 |
0 - 72 | 91.8 | 99.2 | 101 |
本剤の承認用量は、0.1mL/kg〔0.1mmol/kg〕である。
ガドブトロールの全身クリアランスは1.63〜1.78mL/min/kgであり,腎クリアランス(1.49〜1.79mL/min/kg)及びクレアチニンクリアランスと同程度であったことから,ガドブトロールの主排泄経路は尿中排泄であり,主に糸球体ろ過により未変化体として尿中に排泄されるものと考えられました。
国内で実施された第II/III相試験、第III相試験及び国際共同第III相試験2試験の計4試験において、本剤が投与された国内症例555例中24例(4.3%)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められた。主な副作用は、頭痛3例(0.5%)、発疹3例(0.5%)、熱感2例(0.4%)、潮紅2例(0.4%)、注射部位反応2例(0.4%)でした。(承認時)
重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、痙攣発作、腎性全身性線維症(NSF)が報告されています。
国内第II/III相試験、国内第III相試験及び国際共同第III相試験2試験における副作用一覧※)
調査症例数 | 555例 |
---|---|
副作用発現症例数 | 24例 |
副作用発現件数 | 29例 |
副作用発現症例率(%) | 4.3% |
副作用の種類 | 発現例数(%) |
---|---|
心臓障害 | 1(0.2) |
頻脈 | 1(0.2) |
眼障害 | 1(0.2) |
霧視 | 1(0.2) |
胃腸障害 | 4(0.7) |
下痢 | 1(0.2) |
口内乾燥 | 1(0.2) |
悪心 | 1(0.2) |
嘔吐 | 1(0.2) |
一般・全身障害および投与部位の状態 | 6(1.1) |
悪寒 | 1(0.2) |
熱感 | 2(0.4) |
注射部位反応 | 2(0.4) |
発熱 | 1(0.2) |
臨床検査 | 2(0.4) |
アラニンアミノトランスフェラーゼ増加 | 1(0.2) |
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加 | 1(0.2) |
血圧上昇 | 1(0.2) |
筋骨格系および結合障害 | 1(0.2) |
筋痙攣 | 1(0.2) |
神経系障害 | 3(0.5) |
頭痛 | 3(0.5) |
呼吸器、胸部および縦隔障害 | 1(0.2) |
喀血 | 1(0.2) |
皮膚および皮下組織障害 | 7(1.3) |
接触性皮膚炎 | 1(0.2) |
湿疹 | 1(0.2) |
手掌紅斑 | 1(0.2) |
発疹 | 3(0.5) |
蕁麻疹 | 1(0.2) |
血管障害 | 2(0.4) |
ほてり(潮紅) | 2(0.4) |
〈参考〉欧州泌尿生殖器放射線学会(ESUR)によるガドリニウム造影剤のNSFリスク分類 (国内未承認薬及び他社製品は除く)
ESUR Contrast Media guidelines version 10.0
ESURでは,ガドブトロールは環状構造を有する造影剤として,NSFリスクが低いガドリニウム造影剤に位置づけられています.
ガドビストの緩和時間短縮作用(in vitro)
T1緩和度(r1値)及びT2緩和度(r2値)に対する効果
薬剤(一般名) | 2.0T (21〜25℃) | ||
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r1 | r2 | ||
血漿中 | ガドブトロール | 6.68 | 9.15 |
ガドペンテト酸メグルミン | 5.31 | 6.80 |
躯幹部・四肢造影における有効性
ガドビスト造影画像/非造影画像の組み合せとガドペンテト酸メグルミン造影画像/非造影画像との組み合せとの比較(国際共同第Ⅲ相試験,非劣性試験)
ガドビスト造影画像/非造影画像の組み合せとガドペンテト酸メグルミン造影画像/非造影画像との組み合せとの比較
(国際共同第Ⅲ相試験,非劣性試験)
「ガドビスト造影画像と非造影画像の組み合せ」は「ガドペンテト酸メグルミン造影画像と非造影画像の組み合せ」に対し,造影効果・辺縁明瞭度・内部構造の評価において非劣性が示されました.
「造影画像と非造影画像の組み合せ」の3つの視覚パラメータの総スコア(被験者ごとの3名の読影医の平均値を合計した総スコア)はガドビスト群で9.39±1.06(平均値±標準偏差),ガドペンテト酸メグルミン群で9.34±1.23でした.また,ガドビスト群とガドペンテト酸メグルミン群の総スコアの差が0.05,95%信頼区間は−0.195~0.298であり,下限値があらかじめ設定した非劣性マージンである−1.2を上回ったため,ガドビストのガドペンテト酸メグルミンに対する非劣性が示されました.
総スコア:3つの視覚パラメータ(造影効果,辺縁明瞭度,内部構造)スコアの合計.
総スコアの差:「ガドビスト群の総スコア」−「ガドペンテト酸メグルミン群の総スコア」.
3名の読影医による身体領域別の「造影画像と非造影画像の組み合せ」の総スコアの差(ガドビスト群−ガドペンテト酸メグルミン群)は,いずれの身体領域でも95%信頼区間下限値は−0.783以上でした.
総スコア:3つの視覚パラメータ(造影効果,辺縁明瞭度,内部構造)スコアの合計.
総スコアの差:「ガドビスト群の総スコア」−「ガドペンテト酸メグルミン群の総スコア」.
バイエル薬品社内資料:[国際共同第III相試験](承認時評価資料)
躯幹部・四肢造影における検出病変個数は,ガドビスト群とガドペンテト酸メグルミン群で同様の結果を示しました.
「造影画像と非造影画像の組み合せ」による検出病変個数(被験者ごとの3名の読影医の平均値)は,ガドビスト群で3.26±4.90(平均値±標準偏差),ガドペンテト酸メグルミン群で3.05±4.24と,同様の結果を示しました.
ガドビスト群 | ガドペンテト酸メグルミン群 | |||||
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非造影画像 | 造影画像と非造 影画像の組み合せ |
変化量 (組み合せ−非造影) |
非造影画像 | 造影画像と非造 影画像の組み合せ |
変化量 (組み合せ−非造影) |
|
読影医1 | 2.48±4.63 (168) |
3.18±5.23 (168) |
0.70±4.03 (168) |
2.19±3.59 (178) |
3.15±4.70 (178) |
0.96±3.22 (178) |
読影医2 | 2.60±5.28 (168) |
3.46±5.94 (168) |
0.87±3.28 (168) |
2.69±5.08 (178) |
3.33±5.95 (178) |
0.63±5.46 (178) |
読影医3 | 2.64±5.13 (168) |
3.13±5.27 (168) |
0.48±5.76 (168) |
2.22±4.23 (178) |
2.69±4.09 (178) |
0.47±3.20 (178) |
読影医 平均 |
2.57±4.73 (168) |
3.26±4.90 (168) |
0.68±3.61 (168) |
2.37±3.96 (178) |
3.05±4.24 (178) |
0.69±2.73 (178) |
日本人部分集団において,治験薬と関連性のある有害事象は,ガドビスト群で7.9%(5/63例:熱感2例,発熱・頭痛・発疹各1例),ガドペンテト酸メグルミン群で1.8%(1/57例:四肢不快感)にみられました.また,外国人部分集団では,治験薬と関連性のある有害事象は,ガドビスト群で1.7%(2/115例),ガドペンテト酸メグルミン群で1.6%(2/128例)にみられました.
日本人と外国人で発現した有害事象及び発現率が比較されましたが,特定の傾向は認められませんでした.
対象 | 躯幹部・四肢(乳腺,心臓,腹部,腎,骨盤又は四肢)の造影MRI検査が適応となる患者 〔有効性解析例数(346例:ガドビスト群168例,ガドペンテト酸メグルミン群178例)〕 |
---|---|
試験デザイン | 多施設・国際共同(日本,中国,韓国),無作為化,単盲検,ガドペンテト酸メグルミン対照,群間比較 |
試験方法 |
身体領域(乳腺,心臓,腹部,腎,骨盤又は四肢)と組み入れ時に疑われた疾患を層別因子とし,無作為にガドビスト又はガドペンテト酸メグルミンのいずれかに層別割り付け.
乳腺・腹部・腎・骨盤・四肢の撮像の手順 |
評価 |
|
体重(kg) | 用量(mL) | 規格 |
---|---|---|
5 | 0.5 | |
10 | 1.0 | |
15 | 1.5 | |
20 | 2.0 | |
25 | 2.5 | |
30 | 3.0 | |
35 | 3.5 | |
40 | 4.0 | |
45 | 4.5 | |
50 | 5.0 | |
55 | 5.5 | |
60 | 6.0 | |
65 | 6.5 | |
70 | 7.0 | |
75 | 7.5 | |
80 | 8.0 | |
85 | 8.5 | |
90 | 9.0 | |
95 | 9.5 | |
100 | 10.0 |