Clinical Safety of Gadobutrol:
Review of Over 25 Years of Use
Exceeding 100 Million Administrations

ガドブトロールの臨床的安全性(海外データ)

Endrikat J, et al. Invest Radiol.2024 Mar 1 Online ahead of print.
COI:著者にバイエルの社員が含まれる.

「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は電子添文をご参照ください.
安全性情報の紹介にあたり、一部国内の承認用量と異なる用量と成績が含まれています.

Point of Article

ガドブトロールは,環状構造を有する非イオン性MRI用造影剤である.1998年2月にスイスで初めて承認されて以来,2023年12月末までに世界中で累計1億2,010万回の投与が行われており,ガドブトロールの安全性に関しては豊富なデータが蓄積されている.
本研究では,ガドブトロールの安全性に関する評価を行い,最新情報を提供することを目的として,ガドブトロールに関する45の第II~IV相臨床試験及び市販後調査からの安全性データを解析した.
その結果,承認された適応症及び患者集団において,ガドブトロールは臨床使用可能なMRI造影剤としてのリスクとベネフィットのプロファイルが示された.

試験概要

安全性解析に
用いたデータ

本研究では,下記のガドブトロールに関する安全性データを記述的に解析するとともに,特殊な患者群でのガドブトロールの安全性に関する文献検索を行った.
①45の第II~IV相臨床試験(1993年~2022年末)
②ガドブトロールの国際的な市販後調査

第II~IV相
臨床試験

本研究の解析対象:臨床試験において,ガドブトロールを投与された7,856例(第II相:1,352例,第III相:6152例,第IV相:352例),ならびに比較対照として他のガドリニウム(Gd)造影剤(ガドペンテト酸ジメグルミン※1,ガドジアミド※1,ガドベルセタミド※2,ガドテリドール,ガドテル酸のいずれか)を投与された2,340例

※1 販売中止 ※2 国内未承認

市販後調査

本研究の解析対象:ガドブトロールの国際的な市販後調査において,医療関係者,保健当局,患者,科学的な文献等,あらゆる情報源からバイエル社に報告された全ての自発的報告

本研究における
限界

  • 一般的に,臨床試験で報告される有害事象発現率は市販後調査に比べて高い.特に軽度の有害事象の場合,市販後調査での過少報告は避けられない.
  • 脳や体内のGd残存に関する長期データ(前向き,対照)は得られていない.
  • ガドブトロールや他のGd造影剤の適応外使用に関するデータのほか,ガドブトロールと現在臨床開発中のGd造影剤との安全性比較データについて議論はされていない.
  • ガドブトロールのジェネリック医薬品の安全性に関する公表データは確認されていない.

第II~IV相臨床試験における有害事象と副作用

ガドブトロール投与症例7,856例における副作用発現率は3.4%であった.重篤な副作用発現率は0.1%未満であり,薬剤に関連しない死亡が1例報告された.主な副作用は悪心(0.7%)及び味覚異常(0.4%)で,その他の副作用はいずれも0.3%以下の発現率であった(表1

表1 第II~IV相臨床試験:有害事象・副作用発現率

 ガドブトロール投与症例(7,856例)
有害事象(%)副作用(%)
合計800(10.2)264(3.4)
重篤25(0.3)2(<0.1)
死亡1( <0.1)0( 0.0)
主な症状
頭痛133(1.7)23(0.3)
悪心89(1.1)54(0.7)
眩暈42(0.5)10(0.1)
熱感32(0.4)21(0.3)
味覚異常30(0.4)29(0.4)
下痢29(0.4)7(0.1)
嘔吐27(0.3)10(0.1)
呼吸困難24(0.3)4(0.1)
胸部不快感23(0.3)1(<0.1)
発熱23(0.3)1(<0.1)
疲労感15(0.2)0(0)
高血圧14(0.2)0(0)
胸痛13(0.2)0(0)
注射部位疼痛13(0.2)10(0.1)
四肢痛13(0.2)0(0)
感覚異常13(0.2)7(0.1)
発疹13(0.2)11( 0.1)
腹部不快感12(0.2)1(<0.1)
咳嗽11(0.1)1(<0.1)
紅斑11(0.1)4(0.1)
背部痛10(0.1)0(0)
蕁麻疹10(0.1)9(0.1)
狭心症10(0.1)0(0)

Endrikat J, et al. Invest Radiol 2024;Online ahead of print. 一部改変

市販後調査における副作用

ガドブトロールは,2022年12月31日時点で1億600万回以上投与されていた.自発的報告による副作用は計37,840件であり,市販後調査全体(臨床試験を含む)の副作用報告率は0.0356%であった.主な副作用は,アナフィラキシー様/過敏症反応(0.0147%),悪心(0.0032%),嘔吐(0.0025%),呼吸困難(0.0010%)で,その他の副作用はいずれも0.001%未満の報告率であった(表2)

表2 市販後調査:副作用発現件数及び報告率

副作用発現件数報告率(%)
アナフィラキシー様/過敏症反応15,5600.0147
悪心34080.0032
嘔吐26700.0025
呼吸困難11140.0010
咳嗽6630.0006
眩暈5060.0005
咽喉刺激感4400.0004
頭痛3560.0003
熱感3170.0003
倦怠感2830.0003
感覚異常2830.0003
ほてり2380.0002
多汗症2330.0002
胸部不快感2010.0002
意識喪失1690.0002
適応外使用1640.0002
鼻閉1550.0001
胸痛1420.0001
口腔咽頭不快感1390.0001
灼熱感1370.0001
嚥下障害1320.0001
異常感1300.0001
感覚鈍麻1230.0001
疼痛1210.0001
薬剤の効果不十分1190.0001
寒気1180.0001
振戦1170.0001
頻脈1130.0001
動悸1110.0001
吐気1070.0001
疲労感1020.0001
関節痛1010.0001
発声障害1010.0001
口腔感覚異常1000.0001
合計37,8400.0356

投与:1億610万回(2022 年12月31日現在),カットオフ:100件(≥0.0001%)
*血管浮腫,アナフィラキシー/アナフィラキシー様反応/ショック,低血圧,気管支痙攣,結膜炎,過敏反応,紅斑,発疹,そう痒症,喉頭浮腫,くしゃみ,蕁麻疹,造影剤アレルギー等を含む
†報告率(%):件数/ 1億610万×100
‡表1の副作用発現症例(n = 264)を含む

腎障害患者における安全性

ガドブトロールの薬物動態(PK)は2つの二重盲検無作為化プラセボ対照第I相試験で検討されており,男性健康ボランティア91名において,ガドブトロールの忍容性は0.5mmol/kg b.w.の用量まで良好であった1).血漿中Gd濃度の半減期は約90分,総クリアランスは120mL/分であり,定常状態における分布容積から,ガドブトロールは主に細胞外液中に分布すると考えられた1).なお,ガドブトロールは代謝を受けないことが示された1)
軽度から重度の腎機能障害を有する少数例の患者を対象とした4つの臨床試験において,eGFR(推算糸球体ろ過値)の低下に伴い血漿中Gd濃度の半減期は延長したものの2),有害事象の発現率上昇を示唆する結果は認められなかった2~5).また,末期腎障害患者11例において,3回の透析後にガドブトロールはほぼ完全に除去され,血清中除去率は98%であったことが報告されている6)

  • 6.用法及び用量
    通常、本剤0.1mL/kgを静脈内投与する。
  • 9.特定の背景を有する患者に関する注意
     9.2 腎機能障害患者
  •  9.2.1 重篤な腎障害のある患者
    診断上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。本剤の主要排泄経路であり、排泄遅延と腎機能を悪化させるおそれがある。[1.2、11.1.3参照]
    9.2.2 長期透析が行われている終末期腎障害、eGFR(estimated glomerular filtration rate:推算糸球体ろ過値)が
    30mL/min/1.73m2未満の慢性腎障害、急性腎障害の患者(重篤な腎障害のある患者を除く)
    本剤の投与を避け、他の検査法で代替することが望ましい。ガドリニウム造影剤による腎性全身性線維症の発現のリスクが上昇することが報告されている。[1.2、11.1.3参照]
    9.2.3 腎障害のある患者又は腎機能が低下しているおそれのある患者(重篤な腎障害のある患者を除く)
    患者の腎機能を十分に評価した上で慎重に投与すること。排泄が遅延するおそれがある。[1.2、11.1.3、16.6.1参照]

肝障害患者における安全性

肝酵素が上昇した患者におけるガドブトロールの安全性については,メタ解析の結果が報告されている7).ALT/AST上昇の程度が重度(正常範囲上限[ULN]の3倍超)の患者,中等度(ULNの1.8倍超~3倍以下)の患者において,ガドブトロールに関連する有害事象の発現率はそれぞれ4.1%及び4.3%であった.一方,肝酵素が正常(ULNの1.8倍 以下)の患者における発現率は5.1%であった.以上の結果から,肝酵素が上昇した患者における安全性プロファイルは,一般集団と同程度であることが示唆された.

小児患者における安全性

7つの臨床試験において、18歳以下の小児患者を対象としたガドブトロールの安全性が報告されている(表3)8~14).その結果,全体として7,292例(2歳未満:112例,2歳以上7歳未満:230例,7歳以上18歳未満:1,446例)中61例(0.84%)で副作用の発現が認められた.高頻度で認められた副作用は悪心及び嘔吐であった.また,副作用は一過性 であり,重症度は軽度から中等度であった.重篤な副作用は,アナフィラキシー反応(紅斑、呼吸困難)及び尿中結晶が各1例で報告された.尿中結晶については,他の併用薬剤(複合抗生物質製剤)に起因する可能性も考えられた.

表3 小児患者における安全性を検討した臨床試験

表は横スクロールでご覧いただけます。

臨床試験
著者(報告年)
目的年齢層副作用
発現症例
副作用
n2歳未満2歳以上
7歳未満
7歳以上
18歳未満
n(%)n
Bhargava and Noga8)
(2013)(海外データ)
安全性/有効性60600000
Glutig et al9)
(2016)(海外データ)
安全性114241689708(0.7)3:嘔吐
2:悪心
1:蕁麻疹
1:呼吸困難
1:眼瞼浮腫
Glutig et al10)
(2019)(海外データ)
安全性40441638422(0.59)9:悪心
3:嘔吐
2:味覚異常
2:くしゃみ
2:熱感
1:アナフィラキシー反応
17:その他
Hahn et al11)
(2009)(海外データ)
薬物動態、
安全性
138046928(5.8)1:悪心
1:尿中結晶
1:そう痒
1:発疹
1:頭痛
2:味覚異常
2:熱感
Kunze et al12)
(2016)(海外データ)
薬物動態、
安全性
4444001(2.3)1:嘔吐
McDonald et al13)
(2021)(海外データ)
 4880   16(0.33)7:アレルギー反応
9:生理的反応
Neeley et al14)
(2016)(海外データ)
安全性624   6(1.0)1:悪心
1:嘔吐
1:複数の影響
3:その他
  7292112230144661(0.84) 

*1例で複数の副作用が発生する可能性がある。
†安全性解析対象集団: 2~6 歳 n = 46、7~11 歳 n = 44、12~17 歳 n = 48
‡重篤な副作用

  • 9.特定の背景を有する患者に関する注意
    9.7 小児等
    2~17歳の患者を対象とした臨床試験では、138例中8例(5.8%)に副作用が認められた。発現した主な副作用は、味覚異常2例(1.4%)、熱感2例(1.4%)であった。また、0~2歳未満の患者を対象とした臨床試験では、44例中1例(2.3%)に嘔吐が認められた(外国人データ)。
    9.8 高齢者
    患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下している。

高齢患者における安全性

高齢患者における安全性については,38の臨床試験に基づく統合安全性解析データ(ガドブトロール投与症例:計5,608例),6つの前向き市販後調査データ(PMS,ガドブトロール投与症例:計14,064例),ファーマコビジランスデータ(2007年から2011年の間に施行したガドブトロール造影MRI:計1,300万件)を用いて,ガドブトロール投与後の有害事象/副作用の発現率を高齢者(65歳以上)群と成人(18~64歳)群で比較した研究が行われている15).その報告によると,3つのデータベースのいずれにおいても,高齢者群の副作用発現率は成人群と比較して低いことが示された(臨床試験:2.7% vs 3.8%,PMS:0.3% vs 0.5%,ファーマコビジランス:0.005% vs 0.011%).なお、重篤な副作用の発現率は,ファーマコビジランスデータにおいて高齢者群,成人群ともに0.005%未満であった.

腎性全身性線維症の報告

2022年12月31日時点で,ガドブトロールを投与された患者(1人当たり 平均 3.1 回,合計 58 回投与)において腎性全身性線維症(Nephrogenic Systemic Fibrosis;NSF)またはNSF様症状が19件報告されている.このうち8件はガドブトロール単剤投与による報告であり,8件中4件はNSFの診断基準またはNSFと一致する基準を満たしていた(図1)16).これらの患者4例(男女各2例)はいずれも重度の腎不全を伴う多疾患併存患者であり,3例は透析が行われ,1例は急性腎障害を有していた.NSFまたはNSF様症状の発現までの期間は14日~18ヵ月で,ガドブトロールの累積投与量は0.14~0.66mmol/kg であった.
なお,中等度から重度の腎機能障害を有する患者908例を対象とした多施設共同前向き研究においては,NSFの発現リスクが高い患者集団であっても,ガドブトロールの投与後2年以内にNSFの発現は認められなかったことが報告されている17)

図1 ガドブトロール投与に関するNSFの報告(2006年から2022年12月31日まで)

図1 ガドブトロール投与に関するNSFの報告(2006年から2022年12月31日まで)

脳及び体内におけるGd残存

脳や体内にGdが存在するという症例報告や,Gdの存在を示す証拠の有無にかかわらず,様々な持続的症状についての報告がある.しかし,それらの報告の質は概して低く,現在までにガドブトロールの投与と症状発現の明確な因果関係は示されていない.また,これまでにはGd沈着症)(Gd deposition disease;GDD)として報告された症例もあったが,GDDは科学的に証明されていないGdへの暴露と有害事象との因果関係を示唆する不適切な用語であるとみなされ,2021年にACRは,Gdへの曝露に関連する症状(symptoms associated with Gd exposure;SAGE)という中立的な用語をGDDに代えて用いることを提唱した18).国際的ファーマコビジランスのデータベースを用いてSAGEの重要性を評価した最近の研究によれば,保健当局に報告された有害事象の大部分はSAGEが占めていた19).また,SAGEの発現は環状型Gd造影剤よりも直鎖型Gd造影剤でより多い可能性が示唆された.
現在までのところ、GDDと呼ばれる非特異的な症状とGd造影剤の投与との因果関係は、医学的・科学的な努力にも関わらず,証明されていない.

結論

世界中で1億回を超える投与により,MRI用造影剤としてのガドブトロールはリスクとベネフィットのプロファイルは,承認された適応症及び様々なリスクのある患者集団において示された.

References

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    COI:著者にバイエルの社員が含まれる.
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  • 3) Balzer JO, et al. Eur Radiol. 2003; 13: 2067‒2074.
    COI:著者にバイエルの社員が含まれる.
  • 4) Tombach B, et al. Radiology. 2001; 218: 651‒657.
    COI:著者にScheringの社員が含まれる.本研究はScheringの一部支援を受けた.
  • 5) Tombach B, et al. Eur Radiol. 2002; 12: 1550‒1556.
  • 6) Tombach B, et al. AJR Am J Roentgenol. 2002; 178: 105‒109.
  • 7) Voth M, et al. Invest Radiol. 2011; 46: 663‒671.
    COI:著者にバイエルの社員が含まれる.
  • 8) Bhargava R, et al. Magn Reson Insights. 2013; 6: 1‒12.
    COI:本稿の編集協力においてBayer HealthCareの資金援助を受けた.
  • 9) Glutig K, et al. Pediatr Radiol. 2016; 46: 1317‒1323.
    COI:著者にBayer Pharmaから助成金による支援を受けた者,講演料等を受領している者が含まれる.また,Bayer Pharmaのアドバイザリーボードメンバー,ならびに社員が含まれる.
  • 10) Glutig K, et al. Acta Radiol. 2019; 60: 873‒879.
    COI:著者にバイエルの社員が含まれる.
  • 11) Hahn G, et al. Invest Radiol. 2009; 44: 776‒783.
    COI:本稿はBayer Schering Pharma AGの支援を受けた.
  • 12) Kunze C, et al. Invest Radiol. 2016; 51: 50‒57.
    COI:著者にBayer HealthCareから支援を受けた者,ならびにバイエルの社員が含まれる.
  • 13) McDonald JS, et al. AJR Am J Roentgenol. 2021; 216: 1363‒1369.
  • 14) Neeley C, et al. Br J Radiol. 2016; 89: 20160027.
  • 15) Endrikat J, et al. Clin Radiol. 2015; 70: 743‒751.
    COI:本稿の編集協力においてBayer HealthCareの資金援助を受けた.著者にバイエルの社員,Bayer AGから謝礼を受領している者,ならびにBayer Pharmaceuticalsから特許料を受領している者が含まれる.
  • 16) Girardi M, et al. J Am Acad Dermatol. 2011; 65: 1095‒106.e7.
    COI:本プロジェクトの資金の一部はBayer HealthCareから提供された.
  • 17) Michaely HJ, et al. Invest Radiol. 2017; 52: 55‒60.
    COI:著者にバイエルより謝礼及び/又は研究費を受領している者,ならびにバイエルの社員が含まれる.本試験はBayer Pharma AGの支援を受けた.
  • 18) McDonald RJ, et al. Radiology. 2022; 302: 270‒273.
    COI:著者にBayer Healthcareより謝礼を受領している者が含まれる.
  • 19) Shahid I, et al. Invest Radiol. 2022; 57: 664‒673.
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新生児を含む2歳未満児でのガドブトロールの薬物動態・安全性の評価:年長集団との比較(海外データ)

Kunze C, et al. Invest Radiol 2016; 51(1): 50-57.

Point of Article

造影MRIは,形態学的異常を非侵襲的に高精度で検出可能な検査であり,小児では,先天性奇形,腫瘍,感染症,炎症性疾患などの診断に用いられる.造影MRIで使用される細胞外液性Gd造影剤であるガドブトロールはキレート安定性の高い環状構造を有することが知られており,その有効性および安全性について,2歳以上を対象とした臨床試験で確認されているものの,2歳未満児では十分に検討されていない.
本研究の目的は,新生児を含む2歳未満児にガドブトロール(0.1mmol/kg)を投与し,その薬物動態と安全性を評価することである.その結果,薬物動態において2歳未満児は2歳以上と同様であり,MRI造影剤としての安全性・耐用性プロファイルが確認された.

試験概要

試験デザイン前向き,非盲検,多施設共同試験(米国,カナダ,ドイツ;9施設)
対 象本研究では,造影MRIが予定される腎機能が正常な新生児および生後24ヵ月未満の乳幼児47例が登録され,44例に対しガドブトロール(0.1mmol/kg)が投与された.
うち43例を対象に薬物動態解析が,また44例全例を対象に安全性解析が行われた.
試験方法

1)薬物動態解析
2歳未満の患児に対し,ガドブトロール投与後,計3回(15-60分後,2-4時間後,6-8時間後)の血液採取が行われた.血液検体をもとにガドブトロールの薬物動態評価を行うため,ポピュレーション薬物動態(PPK)モデル1)を用いた.ガドブトロール投与後の薬物動態パラメータ(PKパラメータ)として,血中濃度時間曲線下面積(AUC),全身クリアランス(CL),定常状態の分布容積(Vss),血中濃度半減期(t1/2),投与後20分および30分の血漿中濃度(C20,C30)を推定した.

2)安全性解析
ガドブトロール投与後の有害事象(AE)評価のため,投与後7±1日までモニターを行った.そのほか,臨床検査値,身体検査,バイタルサイン,投与前のeGFR,血中酸素飽和度,心調律などもあわせて評価した.臨床検査値等の評価のため,2回の採血(ベースラインまたは投与直前,投与後24±4時間)を行った.

造影剤投与方法
ガドブトロール0.1mmol/kg(0.1mL/kg)を約0.5~1mL/秒の注入速度で静脈内投与後,同注入速度で5mL以上の生理食塩液による後押しを行った.
なお,MRIは全例で鎮静下に撮像された.

評価項目

主要評価項目
2歳未満児へのガドブトロール(0.1mmol/kg)投与による薬物動態

副次評価項目
2歳未満児へのガドブトロール(0.1mmol/kg)投与による安全性など

9.7 小児等
2~17歳の患者を対象とした臨床試験では、138例中8例(5.8%)に副作用が認められた。発現した主な副作用は、味覚異常2例(1.4%)、熱感2例(1.4%)であった。また、0~2歳未満の患者を対象とした臨床試験では、44例中1例(2.3%)に嘔吐が認められた(外国人データ)。

患者背景

対象患児44例におけるeGFRのベースライン値(年齢調整後)は正常範囲内であった.性別の内訳は男児26例,女児18例,平均月齢は8.8ヵ月(0.2~23ヵ月)で,うち2ヵ月未満児は9例であった.平均体重は7.7kg(2.8~14.2kg),平均身長は68.5cm(49.0~91.5cm)であった.造影MRI検査での撮像部位による内訳は,脳21例,後腹膜7例,脊髄5例,頭頸部5例,胸部2例,骨盤2例,腹部1例,リンパ系1例であった.

主要評価項目:2歳未満児における薬物動態

2歳未満児集団における,PPKモデルから推定したガドブトロール投与後のPKパラメータを表3に示す.
各パラメータの中央値は,CLが0.128L/h/kg,Vssが0.277L/kg,AUCが776μmol・h/L,t1/2が1.62時間であった.AUCは,2ヵ月~2歳児で月齢に関係なくほぼ一定であったが,2ヵ月未満児では他の月齢児と比べて高くなる傾向が見られた.
また,C20およびC30は339 μ m o l / Lおよび292μmol/Lと推定された.

表3 2歳未満児集団におけるガドブトロールのPKパラメータ

パラメータ中央値最小値最大値
 CL/kg(L/h/kg)0.1280.06660.184
 Vss/kg(L/kg)0.2770.2360.409
 AUC(μmol・h/L)7765441,470
 t1/2(h)1.621.163.37

副次評価項目:2歳未満児における安全性

対象患児44例中18例(40.9%)で,それぞれ1件以上のAEが報告された(表4).主なAEは,咳嗽5例,発熱5例,鼻咽頭炎3例,鼻炎2例,嘔吐2例であった.なお,18例中13例におけるいずれのA E も軽度と評価された.また44 例中3 例(6.8%)では重篤なAE(SAE)が報告されたが,全てガドブトロールとの関連性は否定され,併存疾患との関連性が疑われた.副作用(ガドブトロール関連AE)と評価されたのは,軽度の嘔吐1例(2.3%)であった.
18例中14例については,試験終了までに症状が回復した.試験中止に至るAEや,臨床検査値(血液学検査,生化学検査など)またはバイタルサインなどに臨床的意義のある異常は認められなかった.

表4 2歳未満児集団におけるガドブトロール投与後の有害事象

例(%)2ヵ月未満(n=9)2~23ヵ月(n=35)全体(n=44)
 AE51318(40.9)
 ガドブトロール関連AE011(2.3)
 試験プロトコル関連AE145(11.4)
 SAE213(6.8)
 ガドブトロール関連SAE000
 試験プロトコル関連SAE101(2.3)

まとめ

本研究は,新生児を含む2歳未満児に対するガドブトロール(0.1mmol/kg)投与後の薬物動態および安全性評価を目的とした臨床試験である.2~17歳および成人を対象にガドブトロール(0.1mmol/kg)投与後の薬物動態を検討した報告1,2)と本研究で得た2歳未満児のデータとを比較すると(表5),ガドブトロールの薬物動態は年齢とは関係なくほぼ同様であり,投与後は細胞外液に分布し,さらに血漿中から急速に消失後,速やかに経腎的に体外に排泄されると考えられた.なおガドブトロールは腎糸球体濾過で排泄されるため,その薬物動態には体重に加え,年齢に応じた腎機能が影響を及ぼすと予想される.
AUCについても,2歳未満児のガドブトロール曝露量は2歳以上児や成人と同程度と評価された.
2歳未満児集団の中でも,特に2ヵ月未満児では,2ヵ月以上~2歳児と比べてわずかにAUCが高く,低年齢ほど薬剤曝露量が増える傾向が認められたものの,成人と同様の安全性プロファイルが得られたため,本試験においては安全性に差がなかったと報告された.
また,年長児および成人と比べて,2歳未満児では投与後20分および30分での血漿中ガドブトロール濃度はわずかに低値を示した.これは,ガドブトロールの主な分布スペースである細胞外液分画に,年齢によって差があることが影響している可能性が考えられた. 新生児における細胞外液分画は約37%, 成人では約20%と報告されており3),2歳未満児で血漿中ガドブトロール濃度が低値を示す傾向は,ガドブトロールの分布容積の大きさに起因すると推測された.
以上より,2歳以上で使用されるガドブトロール標準用量を2歳未満児に適用することは妥当であると考えられた.

表5 2歳未満児と,2~17歳,成人との薬物動態の比較

パラメータ成人2)
(n=101)
2~17歳1)
(n=130)
2歳未満
(n=43)
2ヵ月未満
(n=9)
2~23ヵ月 
(n=34)
 CL/kg(L/h/kg)0.09(0.05, 0.15)0.10(0.05, 0.22)0.13(0.07, 0.11)0.09(0.07, 0.11)0.13(0.09, 0.18)
 Vss/kg(L/kg)0.22(0.10, 0.42)0.20(0.09, 0.29)0.28(0.24, 0.41)0.33(0.31, 0.41)0.27(0.24, 0.34)
 AUC(μmol・h/L)1,110(724, 1,956)999(397, 2,163)776(544, 1,470)1,070(916, 1,470)751(544, 1,140)
 t1/2(h)1.80(1.20, 6.55)1.69(1.17, 2.62)1.62(1.16, 3.37)2.63(2.34, 3.37)1.46(1.16, 2.16)
 C20(μmol/L)446(287, 659)490(226, 876)339(230, 456)313(208, 421)‡§341(234, 457)‡§
 C30(μmol/L)385(277, 670)404(182, 704)292(194, 394)279(176, 371)‡§293(195, 396)‡§

後半のデータは,年齢に基づく層別化により示した.
‡中央値(5パーセンタイル,95パーセンタイル)
§ 2,400例のシミュレーションの結果(2ヵ月未満児200例,2ヵ月以上児2,200例を仮定し,それぞれの体重中央値および典型的なCLに基づいて求めた.)

References

1)

Hahn G, et al. Invest Radiol 2009; 44(12): 776-783.

2)

Staks T, et al. Invest Radiol 1994; 29(7): 709-715.

3)

Hill LL. Pediatr Clin North Am 1990; 37(2): 241-256.