症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

肝細胞癌の診断におけるMRダイナミック造影の役割

施設名: 浜松医科大学
執筆者: 放射線診断学講座 尾崎 公美 先生、放射線部 大石 直樹 先生
作成年月: 2026年7月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

肝細胞癌は世界的に頻度が高く、がん関連死亡の主要な原因である。MRIは検出・診断に重要な役割を担うが、肝硬変や高齢者では呼吸停止不良により検査協力が困難で、アーチファクトが画像品質を低下させる。高空間分解能を有するMRIでも非造影画像のみでは診断困難な場合が多く、各学会の診断基準においてもダイナミック造影所見が診断の中核を担っており、正確な診断には不可欠である。

アムベルビストを用いたMRI検査の方法

手順と撮像 Sequence Parameter

手順と撮像 Sequence Parameter

撮像パラメータ

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撮像名撮像シー
ケンス
撮像
時間
(sec)
TR
(msec)
TE
(msec)
FA
(deg)
b-value
(s/mm²)
Fat Sat
(種類)
ETL,TF
(数)
Parallel
Imaging
(倍速数)
NEX,
Averages
(加算回数)
息止め
(有無)
T2WI CORsingle-shot TSE16801312690--54Smart Speed Precise 51有
mDIXON
Quant TRA
3D FFE95.656 Echoes3---CS-SENSE 31有
Dual Echo
TRA
FFE141481.13/2.345---Smart Speed Precise 21有
T2*WI TRAFFE162996.925---Smart Speed Precise 2.81有
3D T1WI TRAmDIXON133.671.31/2.410-DIXON-Smart Speed Precise 3.21有
DWI TRAEPI横隔膜同期shortest46.48900/200/800SPIR-Smart Speed Precise 2.81/1/2無
T2WI TRAsingle-shot TSE18773793.9290-SPAIR49Smart Speed Precise 5.21有
T2WI TRAsingle-shot TSE18795315090-SPAIR47Smart Speed Precise 5.31有
Dynamic TRAeThrive1631.5110-SPAIR-Smart Speed Precise 7.51有
CE T1WI
TRA
eThrive1331.5210-SPAIR-Smart Speed Precise 4.51有
CE T1WI
TRA
eThrive1331.5210-SPAIR-Smart Speed Precise 4.51有
CE T1WI
COR
eThrive182.81.4110-SPAIR-Smart Speed Precise 51有

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撮像名FOV
(mm)
面内分解能 (mm)RECON matrix (mm)リード方向位相方向 (step数)Slice厚 (mm)Slice Gap (mm)Slice枚数Deep Learning Recon (有無)
T2WI COR3201.40×1.800.63×0.62281785032有
mDIXON Quant TRA4002.50×2.501.25×1.251601327030無
Dual Echo TRA3602.00×1.600.70×0.701801815134有
T2*WI TRA3601.70×2.200.70×0.702121375134有
3D T1WI TRA3601.38×1.600.64×0.642601694-110有
DWI TRA4002.78×2.951.39×1.3914410250135有
T2WI TRA3601.45×1.800.64×0.642482005132有
T2WI TRA3601.45×1.850.64×0.642481955038有
Dynamic TRA3601.50×2.010.70×0.702401504-100有
CE T1WI TRA3601.20×1.500.60×0.603001983.4-118有
CE T1WI TRA3601.20×1.500.60×0.603001983.4-118有
CE T1WI COR3601.10×1.430.55×0.553282694-100有

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MRI装置PHILIPS MR7700 3.0T
自動注入器根本杏林堂 ソニックショット7
ワークステーション-

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造影条件 注入量注入速度撮像タイミング
アムベルビスト0.1mL/Kg1.0 mL/secDynamicについて備考へ記載
後押し用
生理食塩水
20mL1.0 mL/sec

Dynamicは冠状断にてBolus撮像を開始し続いて造影剤の注入を開始。リアルタイムでモニタリングし造影剤がbifurcationに到達したタイミングで息止めアナウンス(約10秒)を行い撮像開始(1回の息止め中に4秒×3相撮像)。引き続き90秒後、180秒後の撮像を行う。

症例

症例背景

80歳代、男性、61kg、肝細胞癌
多発肝細胞癌に対して免疫複合療法を施行中。前回6カ月前の造影MRIでSD(stable disease)を得ており、治療を継続している。今回、治療効果判定目的に造影MRIを施行した。

図1.脂肪抑制併用T2強調画像
S8に約9㎜と約10㎜の高信号結節が並ぶようにして存在する(矢印)。

図2.拡散強調画像(b = 800 s/mm²)
脂肪抑制併用T2強調画像で高信号を呈する結節は拡散強調画像でも高信号を呈する(矢印)。

図3.脂肪抑制併用T1強調画像(造影前)
対象となる結節は周囲肝と等信号を呈する。

図4.ダイナミック造影(動脈相)
S8の2か所の結節は結節全体に動脈相造影増強効果(non-rim Arterial Phase Hyperenhancement: non-rim APHE)を認める(矢印)。

図5.ダイナミック造影(門脈相)
S8の2か所の結節は周囲肝実質と比較して造影効果が低下しており、動脈相からのwashoutを認める(矢印)。被膜様造影効果を伴う。

図5.ダイナミック造影(平衡相)
S8の2か所の結節は周囲肝実質と比較して造影効果が低下しており、動脈相からのwashoutを認める(矢印)。被膜様造影効果を伴う。

図7.ダイナミック造影(動脈相)
アブレーションによる焼灼領域に接して動脈相造影増強効果を認める(矢印)。

図8.ダイナミック造影(門脈相)
動脈相造影増強効果領域は周囲肝実質と比較して造影効果が低下しており、動脈相からのwashoutを認める(矢印)。被膜様造影効果を伴う。

症例解説

食道癌術前スクリーニングで偶発的にS8に25mmの肝細胞癌(背景の肝硬変の原因は不明)を指摘され2回アブレーション治療を施行した一例である。約6か月後、焼灼域近傍および周囲に多発する早期濃染結節を認め、多発再発と診断。Up to 7 criteria外・Barcelona Clinic Liver Cancer (BCLC) Stage Bで肝動脈化学塞栓療術による制御は困難と判断し、免疫複合併用療法を開始した。以降、約1年間画像上はRECIST・mRECISTのいずれでもSDを維持し、PIVKA-II低下傾向、明らかな有害事象は認められず、現在も治療を継続中である。

当該疾患の診断における造影MRIの役割

慢性肝障害を背景とした肝内結節に対して、肝細胞癌診療ガイドライン2025年版(日本肝臓学会)の診断アルゴリズムおよびLI-RADS CT/MRI v2018(American College of Radiology)では、双方とも①動脈相造影増強効果、②門脈相・平衡相でのwashout、の2つの主要所見(LI-RADSでは病変径などの基準を併用)により、典型例では肝細胞癌と画像診断可能としている。T2強調画像・拡散強調画像での高信号は典型的だが特異的ではなく、画像での確定診断にはダイナミック造影による特徴的な血行動態の把握が必須である。
この血行動態評価において、肝細胞癌の診断には、短時間での明瞭な動脈相濃染と、それに続くwashoutの描出の双方に、十分なコントラストと安定した造影効果が求められる。優れた緩和能は、これら動脈相濃染・washoutの描出に加えて、被膜様増強(capsule appearance)の明瞭な描出にも寄与しうる。
動脈相は造影剤到達のタイミングを逸すると診断能が大きく低下するため、ボーラストラッキング等による適切なタイミング設定が重要である。また、小型血管腫・動脈門脈シャントなどによる偽病変や、非典型的所見を呈する結節では慎重な解釈を要する。これらの特性を理解し、背景肝と病変を総合的に評価することが的確な診断につながる。

MRI技術や撮像プロトコル設定について

当院のMRI装置(Philips MR7700, 3T)はハイスペックな傾斜磁場性能と高チャンネルコイルを備えており、その性能を活かした肝ダイナミック造影を行っている。肝細胞癌の診断では動脈優位相のタイミング把握が最も重要であり、これを逸しないよう、動脈相・門脈相・平衡相の3相をそれぞれ約16秒、13秒、13秒の息止めで撮像し、安定した血行動態評価を可能としている。
今回は経過観察症例であるが、全例で精査プロトコルに準じた撮像条件を採用している。具体的には、chemical shift imaging により結節内の脂肪成分の有無を評価し、6-point Dixon 法により背景肝の脂肪沈着を定量している。これにより、経過観察例においても背景肝の状態把握と結節の質的評価を同時に行えるよう配慮している。
脂肪抑制併用T2強調画像については、ベンダー提供の深層学習再構成技術を用いた single-shot T2強調画像で診断に十分な画質が得られると判断し、約18秒の息止めで撮像することで、呼吸性アーチファクトの低減と検査の安定化を図っている。
これら深層学習再構成技術の活用により、画質を担保しつつ全体の撮像時間を短縮でき、患者負担の軽減と検査効率の向上の両立を実現している。

  • 9.特定の背景を有する患者に関する注意【電子添文より抜粋】

    9.8 高齢者
    患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下している。