症例・導入事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

乳癌術前診断における乳房造影MRIの役割

施設名: 広島平和クリニック
執筆者: 放射線科 大成 妙 先生、長谷川 俊輔 先生
作成年月: 2026年7月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

女性乳癌は全国がん登録2018年報告で98,782例とされ、女性悪性腫瘍の中で最も高頻度である。罹患数の増加に伴い、術前の病変広がり診断における乳房造影MRIの役割は大きくなっており、腫瘤性病変や非腫瘤性造影(non mass enhancement: NME)の評価に加え、乳管内進展、多発病変の把握に有用とされている。乳癌と他の乳腺疾患の鑑別の為に乳房造影MRIが施行されることも多く、BI-RADS MRIに基づくカテゴリー分類は画像所見を標準化し、診療方針決定の一助となっている。本稿では、乳房造影MRIを用いて術前評価を行った症例を提示する。

アムベルビストを用いたMRI検査の方法

手順と撮像 Sequence Parameter

手順と撮像 Sequence Parameter

撮像パラメータ

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撮像名撮像シーケンス撮像
時間
TR (msec)TE (msec)TI (msec)FA (deg)b-value (s/mm²)Fat Sat (種類)ETL,TF (数)Parallel Imaging (倍速数)NEX, Averages (加算回数)
3 Plane loc SSFSESSFSE0:21711809021
Ax T2 FSE fatsatFSE1:56680010272111Special2222
Ax T1 VIBRANTVIBRANT0:327.63.79021
Ax DWIBSDW EPI5:51450082240901500STIR + SSRF212
Ax VIBRANTVIBRANT2:064.32.11415Special31
Ax VIBRANT HRVIBRANT3:375.92.82412Special21
Ax VIBRANT delayedVIBRANT0:314.32.11415Special31

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撮像名FOV
(mm)
面内分解能
(mm)
リード方向
(matrix数)
位相方向
(step数)
Slice厚
(mm)
Slice Gap
(mm)
Slice枚数Deep Learning
Recon
(有無)
Deep Learning
Ai
(有無)
3 Plane loc SSFSE4401.4 × 2.0320224101230
Ax T2 FSE fatsat3100.8 × 1.138428840.434
Ax T1 VIBRANT3100.7 × 1.24482561.2212
Ax DWIBS3400.8 × 1.110012840.434
Ax VIBRANT3100.9 × 1.2320256(90%)1.2212
Ax VIBRANT HR3100.8 × 0.83843840.8372
Ax VIBRANT delayed3100.9 × 1.2320256(90%)1.2212

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MRI装置Discovery 750w 3.0T
自動注入器ソニックショット7
ワークステーションAdvantage Workstation

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造影条件 注入量注入速度撮像タイミング
アムベルビスト0.1mL/Kg2.0 mL/sec造影剤投与後
30秒、60秒、90秒
高分解能相(HR)後に
後期相(360秒)
後押し用
生理食塩水
40mL2.0 mL/sec
注射針G数22G

症例

症例背景

36歳、女性、57kg、乳癌
乳癌術前精査

図1.dynamic造影早期相
右乳腺D区域皮下に11x10㎜の分葉状の腫瘤を認める。早期相で不均一な濃染を認める。
皮膚に浸潤しているが、皮膚表面の連続性は保たれている。

図2.造影高分解能遅延相
D区域の腫瘤は遅延相ではwash outを認める。

図3.造影高分解能遅延相
D区域の腫瘤から深部に向かってDC区域に区域性に分布するclumped patternのNMEを認める。

図4.造影高分解能遅延相の再構成画像(矢状断 冠状断)
NMEの区域性の広がりが明瞭に描出されている。

図5.dynamic造影早期相
右乳腺C区域に16x14㎜の分葉状の腫瘤を認める。早期相で不均一な濃染を認める。

図6.造影高分解能遅延相
高分解能遅延相では腫瘤周囲にスピキュラを認める。

症例解説

36歳女性。右乳房のしこりを自覚し受診した。視触診では右乳房D区域乳輪縁直下に境界やや不明瞭な硬結を触知し、超音波検査では8×10×7 mmの血流を伴う不整形腫瘤を認めた。吸引式乳腺組織生検により浸潤性乳管癌(luminal Aタイプ)と診断された。乳房造影MRIでは皮下の主病変に加え、深部にclumped patternのNMEと16×14 mmのBI-RADSカテゴリー5の腫瘤を認め、乳管内進展および多発病変が示唆された。PET-CTを併用し、UICC第8版に基づきcT1cN0M0 と診断した。これらの画像所見は術式選択に直接的な影響を与え、手術方針が決定された。

当該疾患の診断における造影MRIの役割

乳癌の診断および術前評価において、乳房造影MRIは病変の広がりを把握するための重要な検査として位置づけられている。造影MRIでは、腫瘤性病変の形態、境界、内部構造を高い空間分解能で描出でき、ダイナミック撮像による造影早期相の観察は、腫瘤の造影パターンを評価する上で不可欠である。早期濃染の程度や造影後の時間信号曲線は、腫瘤の性状を理解するための補助的情報として広く用いられている。

造影MRIはNMEの評価にも優れており、区域性の分布や clumped pattern などの所見は、乳管内進展の可能性を検討する際に有用である。
当院では後期相までの空き時間を利用し、高分解能遅延相を撮像している。これによってスピキュラなどの腫瘤の辺縁構造やNMEの性状や分布をより詳細な観察が可能となる。高い空間分解能は再構成画像でも維持されており、矢状断、冠状断、MIPによって病変の分布の把握が容易となる。マンモグラフィや超音波検査では把握が難しい乳管内の広がりを視覚化できる点は、造影MRIの特徴の一つである。さらに、乳房全体を均質に観察できるため、多発病変の有無を確認する際にも有効であり、術式選択に必要な情報を提供する。

造影MRIでは、皮膚や胸壁との境界の描出も可能であるが、真皮と表皮の識別には限界があり、皮膚浸潤の評価には臨床所見を併用することが推奨される。
このように、乳房造影MRIは主病変、乳管内進展、多発病変、皮膚・胸壁との関係など、乳癌診断に必要な複数の情報を一度の検査で得られる点に特徴があり、術前評価において重要な役割を果たしている。

MRI技術や撮像プロトコル設定について

乳房のMR検査において、病変を明瞭に描出するために、均一な脂肪抑制が非常に重要である。当院で使用している装置においてはT2強調画像およびdynamicではSpecial法を、DWIではSTIRとSSRF(GE社の水選択励起)を併用させた手法を使用している。
脂肪抑制を併用していないT1強調画像では血性乳汁や腫瘤内部の血性成分の判断や、特異的な所見であるリンパ門の脂肪の存在を同定することが可能であり、3Dでの薄いスライスでの撮像をすることが望ましいと考えられる。
DWIでは高いb値を使用することで、線維線種や濃縮嚢胞などを除外し、細胞密度が高い乳がんを特異的に描出できるような条件設定としている。

dynamic撮像において、k-space trajectoryはlinearとし、造影剤投与後15秒後に撮像開始することでk-space中心を30秒、60秒、90秒となるようにしている。 造影剤投与後30秒前後が最もBPE(背景乳腺造影効果)の影響も少なく、悪性を疑う腫瘤が濃染し始めることが多いと感じており、最も優先すべき早期相のタイミングである。その後0.8mm iso voxelの高分解能相を撮像し、最後にtime intensity curve用にdynamicと同条件の後期相を撮像している。高分解能相、後期相に関しては、後期相でdynamicと信号値を比較する必要があるため、manual prescanを用いてshimやgainが同条件になるようにしている。
dynamic撮像は腫瘍の血行動態をみることが目的であり、pre画像はややnoisyであるくらいが淡い造影効果を評価しやすく、その点も考慮してSNRを多少犠牲にしてでも撮像時間は可能な限り短縮させることが望ましいと考えている。

dynamicで病変が濃染された最も早いphaseと高分解能相で両側乳房のMIP、および病側乳房の再構成画像(Sagittal、Coronal)を作成している。対側乳房にtime intensity curveが求められる悪性を疑う所見を認めた際は、そちらの側もMPRを作成するようにしている。