症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

腎機能低下を伴う高BMI患者において低keV仮想単色X線画像により早期濃染を検出し得た原発性肝細胞癌の一例

施設名: 広島大学病院
執筆者: 広島大学 放射線診断学研究室 前田 章吾 先生、中村 優子 先生
作成年月: 2026年8月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

症例背景

70歳代、女性、身長157 cm、体重73 kg、BMI 29.8、原発性肝細胞癌

検査目的

アルコール性肝硬変を背景とする患者。定期サーベイランスとして施行された腹部超音波検査で肝S5/8に腫瘤を指摘されたため、精査目的に肝ダイナミック造影CTを施行した。

使用造影剤

イオプロミド300注80 mLシリンジ「BYL」/ 70 mL
※腎機能低下を考慮し、当院標準の600 mgI/kgから総ヨード量を約52%減量(288 mgI/kg)。

症例解説

アルコール性肝硬変を背景とし、腎機能低下を伴う高BMI患者。肝ダイナミック造影CTで肝S5/8に早期濃染とwashoutを呈する腫瘤を認め、原発性肝細胞癌と診断された。肝動脈化学塞栓術(TACE)が施行されたが、その後再発を認めた。肝機能および腎機能の低下により追加治療は困難と判断され、best supportive care(BSC)の方針となった。

画像所見

図1.単純CT 横断像
肝S5/8に淡い低吸収域が認められる。

図2.動脈相 横断像(70keV仮想単色X線画像(VMI)DLR併用)
70keVのVMIでは病変部の早期濃染は不明瞭である。

図3.動脈相 横断像(45keV VMI DLR併用)
病変部に淡い早期濃染が認められる。低keV画像であるが、図2と比較して画像ノイズの増加は目立たない。

図4.動脈相 横断像(ヨード密度画像)
ヨード密度画像では、病変部の早期濃染がより明瞭に描出されている。

図5.平衡相 横断像(45keV VMI DLR併用)
病変部は淡い低吸収を呈している(washout)。

撮影プロトコル

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使用機器CT機種名/メーカー名Revolution CT / GEヘルスケア・ジャパン
CT検出器の列数256
ワークステーション名/メーカー名なし(CT本体を使用)

撮影条件

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撮影時相単純後期動脈相門脈相平衡相
管電圧 (kV)Dual energy: 80-140Dual energy: 80-140Dual energy: 80-140Dual energy: 80-140
AECGSI AssistGSI AssistGSI AssistGSI Assist
(AECの設定)11111111
ビーム幅80808080
撮影スライス厚(mm)5555
焦点サイズLargeLargeLargeLarge
スキャンモードHelicalHelicalHelicalHelical
スキャン速度(sec/rot)0.50.50.50.5
ピッチ0.9920.9920.9920.992
スキャン範囲上腹部上腹部上腹部胸部から骨盤部
撮影時間 (sec)1.61.61.64.8
撮影方向頭→足頭→足頭→足頭→足

再構成条件

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 単純(70keV)後期動脈相(45keV)門脈相(45keV)平衡相(45keV)
ルーチン:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)5 / 55 / 55 / 55 / 5
ルーチン:再構成関数/逐次近似応用法STD / TFI-MediumSTD / TFI-HighSTD / TFI-HighSTD / TFI-High
3D/MPR用:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)0.625 / 0.6250.625 / 0.6250.625 / 0.6250.625 / 0.625
3D/MPR用:再構成関数/逐次近似応用法STD / TFI-MediumSTD / TFI-HighSTD / TFI-HighSTD / TFI-High

造影条件

自動注入器機種名/メーカー名デュアルショットGX / 根本杏林堂
造影剤名イオプロミド300注シリンジ 80mL「BYL」

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撮影プロトコル後期動脈相門脈相平衡相
造影剤:投与量 (mL)70(腎機能低下のため造影剤量を減量)
造影剤:注入時間 (sec)30
生食:投与量 (mL)なし
生食:注入速度 (mL/sec)、注入時間 (sec)なし
スキャンタイミングBT法(大動脈/造影剤到達確認時に手動スタート)ーー
ディレイタイムCT閾値到達後17秒後期動脈相終了後25秒門脈相終了後100秒
留置針サイズ (G)22
注入圧リミット (kg/cm2)10

当該疾患の診断における造影CTの役割

原発性肝細胞癌は、B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎・肝硬変や、MASLD / MASHを含む非ウイルス性慢性肝疾患を背景に発生することが多い。これらの背景疾患を有する高リスク患者では、定期的な肝サーベイランスが行われ、肝ダイナミック造影CTは病変の精査や経過観察に広く用いられる。肝ダイナミック造影CTでは、典型的な原発性肝細胞癌は動脈相における濃染と、門脈相または平衡相におけるwashoutを示し、高リスク患者ではこれらの画像所見に基づいて非侵襲的に診断することが可能である。加えて、肝細胞癌に対して薬物療法を施行した場合、治療に伴う腫瘍の血流低下を画像上の治療効果として評価することが可能であり、肝ダイナミック造影CTは肝細胞癌の診断のみならず治療効果判定においても重要な役割を担う。肝ダイナミック造影CTは、同じく肝腫瘍の画像診断に用いられるMRIと比べて検査時間が短くスループットに優れるほか、必要に応じて広範囲の撮像が可能であるという利点を有する。一方で、肝腫瘍と肝実質とのコントラストが低く、病変の検出が難しい場合がある。そのため、造影コントラストの増強や画像ノイズの低減を可能とする技術を併用し、病変検出能の向上を図ることが重要である。

CT技術や撮像プロトコル設定について

本症例の肝ダイナミック造影CTはdual-energy CT (DECT)を用いて撮像した。X線のエネルギーの変化に伴うCT値の変化は物質ごとに異なる特性を示す。
DECTでは、同一の対象を異なる2種類のX線エネルギーで撮影することで、任意のエネルギーレベルに相当する仮想単色X線画像(VMI)やヨード密度画像を作成することができる。高BMI患者をsingle-energy CTで撮像した場合、相対的な線量不足による画像ノイズの増加やビームハードニングの影響により、動脈相における病変の濃染が不明瞭となり、病変の視認性が低下することがある。DECTによるVMIではビームハードニングの影響を低減することができるほか、低keV VMIを用いることでヨードによる造影コントラストを増強することができる。また、腎機能低下を伴う患者に対して造影剤量を減量した場合でも、低keV VMIやヨード密度画像を用いることでヨードによる造影効果を強調できるため、病変の視認性向上が期待できる。当院では、DECTで肝ダイナミック造影CTを撮像した場合、患者のBMIや造影剤投与量に応じて低keV(40-55keV)のVMIを作成し、必要に応じてヨード密度画像も作成している。低keV VMIは造影効果が増強される一方、画像ノイズの増加に伴い画質が劣化する。特に高BMI患者では画像ノイズの増加が顕著となり得るため、当院では低keV VMIに対してdeep learning reconstruction(DLR)の強度を通常より一段階高く設定することで画像ノイズを低減し、高い造影コントラストを維持しつつ良好な画質を確保している。

使用上の注意【電子添文より抜粋】

9.特定の背景を有する患者に関する注意

  • 9.2 腎機能障害患者
  • 9.2.1 重篤な腎障害のある患者
  • 診断上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。本剤の主たる排泄臓器は腎臓であり、急性腎障害等の症状が悪化するおそれがある。[8.6、9.8、11.1.3 参照]
  • 9.2.2 腎機能が低下している患者(重篤な腎障害のある患者を除く)
  • 腎機能が悪化するおそれがある。[8.6、9.8、11.1.3参照]
  • 9.3 肝機能障害患者
  • 9.3.1 重篤な肝障害のある患者
  • 診断上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。症状が悪化するおそれがある。[11.1.8 参照]
  • 9.3.2 肝機能が低下している患者(重篤な肝障害のある患者を除く)
  • 肝機能が悪化するおそれがある。[11.1.8 参照]
  • 9.8 高齢者
  • 患者の状態を観察しながら使用量を必要最小限にするなど慎重に投与すること。本剤は主として、腎臓から排泄されるが、高齢者では腎機能が低下していることが多いため、高い血中濃度が持続するおそれがある。[8.6、9.2.1、9.2.2 参照]