症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

中枢神経原発悪性リンパ腫(PCNSL)の1例

施設名: 広島市立北部医療センター安佐市民病院
執筆者: 放射線診断科 滝本 龍 先生
作成年月:2025年7月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

中枢神経原発悪性リンパ腫(PCNSL)は増加傾向にあり、現在では原発性脳腫瘍の6%程度といわれている。PCNSLの90%以上は組織学的にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫であり、免疫染色ではCD19、20、22、79aが強陽性を示しMIB-1陽性率が高い。男性にやや多く(1.5:1)、50-60代に好発する。免疫不全患者ではより若年層に好発し、AIDS患者に合併しやすい。PCNSLは中枢神経系のどこにでも生じるが、テント上の脳脊髄液に接する部分にみることが多い(95%)。
※青木茂樹 編著:よくわかる脳MRI,p.106-107,学研メディカル秀潤社,(2020)

ガドビストを用いたMRI検査の方法

手順と撮像 Sequence Parameter

手順と撮像 Sequence Parameter

撮像パラメータ

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撮像名撮像シーケンス撮像時間
(min:sec)
TR
(msec)
TE
(msec)
TI
(msec)
FA
(deg)
b-value
(sec/mm2)
Fat Sat
(種類)
ETL,TF
(数)
Parallel Imaging
(倍速数)
NEX,Averages
(加算回数)
T2WI Ax PROPELLERFSE
PROPELLER
1:3660001241602421
DWI Ax b= 1000EPI0:40500087.8100022
FLAIR Ax PROPELLERFSE
PROPELLER
2:34900012423701603221
SWAN AxGRE4:3874.247.7152
3D ASL PLD=20253D ASL1:47484310.520251552
SPGR Ax 3D PreGRE Fast
SPGR
3:04104.515special1.751
+Gd SPGR 3D PostGRE Fast SPGR3:04104.515special1.751
MRS SV TE=35PROBE-P3:00150035908
MRS SV TE=144PROBE-P3:001500144908

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撮像名FOV
(mm)
面内分解能
(mm)
リード方向
(matrix数)
位相方向
(step数)
Slice厚
(mm)
Slice Gap
(mm)
Slice枚数
T2WI Ax
PROPELLER
2200.57*0.5738438461.519
DWI Ax b=
1000
2201.72*1.38RL
128
AP
160
61.519
FLAIR Ax
PROPELLER
2200.76*0.7628828861.519
SWAN Ax2400.83*0.98AP
288
RL
244
2.6-1.3116
3D ASL
PLD=2025
2404036
SPGR Ax 3D Pre2200.69*1.15AP
320
RL
192
1.20.6304
+Gd SPGR
3D Post
2200.69*1.15AP
320
RL
192
1.20.6304
MRS SV
TE=35
MRS SV
TE=144
MRI装置Signa Explorer 1.5T MRI - GE Healthcare
自動注入器Spectris Solaris EP - MEDRAD
ワークステーションSYNAPSE VINCENT - FUJIFILM

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造影条件 注入量(mL)注入速度(mL/sec)撮像タイミング
ガドビスト5.7手押し・造影T1強調画像(3D SPGR Ax.)
→造影剤投与後2分
・MRS SV(TE=35)
→造影剤投与後6分
・MRS SV(TE=144)
→造影剤投与後10分
後押し用
生理食塩水

症例

症例背景と造影MRI検査の目的

70歳代、女性、57kg、中枢神経原発悪性リンパ腫(PCNSL)
1ヶ月前から左不全麻痺、右眼瞼下垂、左同名半盲を認めた患者。近医脳外科でMRI施行し脳腫瘍を指摘されたため、当院に紹介となった。生検前の精査目的で造影MRI施行となった。

図1.造影T1強調画像、水平断
均一で強いリング状増強効果を呈する腫瘤を認める。

図2.造影T1強調画像、冠状断
右基底核~視床~右中脳腹側にかけて腫瘤を認める。

図3.FLAIR画像
腫瘤はFLAIR 等信号で、周囲に浮腫と思われるFLAIR 高信号域あり。

図4.拡散強調画像
腫瘤はDWIで高信号を呈している。

図5.ADCmap
腫瘤はADCmapで低信号を呈している。

図6.ASL
腫瘤には血流の顕著な上昇は認めない。

図7.MRS(TE=144)
Choが上昇、CrとNAAが低下している。

症例解説

右基底核~視床~右中脳腹側にかけて均一で強いリング状増強効果を呈する腫瘤を認める。周囲に浮腫と思われるFLAIR 高信号域を認める。主病変の濃染部分はFLAIR等信号、DWI 高信号、ADCmap 低信号を呈している。MRS(TE=144)でChoが上昇、CrとNAAが低下している。ASLでは血流の顕著な上昇は認めない。中枢神経原発悪性リンパ腫(PCNSL)が疑われた。脳腫瘍生検の結果、中枢神経原発悪性リンパ腫(PCNSL)と診断された。

当該疾患の診断における造影MRIの役割

造影MRIにより腫瘍の範囲を正確に確認でき、腫瘍生検を行う際に病変を的確に捉えることができるようになると思われる。本症例のように浮腫を伴う脳腫瘍の場合、単純MRIのみでは浮腫と腫瘍の境界が不明瞭であり、腫瘍の範囲を把握するために造影MRIが必要と思われる。

  • 9.特定の背景を有する患者に関する注意【電子添文より抜粋】

    9.8 高齢者
    患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下している。