症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

急性下肢動脈閉塞に対する血栓回収術/経皮的血管形成術を施行した1例

施設名: 奈良県立医科大学附属病院
執筆者: 放射線診断・IVR学講座 大島 圭裕 先生、田中 利洋 先生
作成年月:2024年11月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

症例背景

70歳代、男性、60kg、急性下肢動脈閉塞

検査目的

主訴:突然の左膝~足先の疼痛
現病歴:当科で過去に複数回下肢閉塞性動脈疾患(LEAD)に対する治療を繰り返されている患者。今回突然の左膝~足先の疼痛が出現し、緊急受診。左下肢蒼白・冷汗を認め、左膝窩動脈が触知不可のため、血管精査目的に造影CTを撮像する方針となる。

使用造影剤

イオプロミド370注シリンジ80mL「BYL」/ 60mL

症例解説

既往にLEADに対する複数回の治療歴があり、急性発症の下肢疼痛で来院した急性下肢動脈閉塞の患者。術前CTで左浅大腿動脈(SFA)~膝窩動脈(PA)に留置されたステントおよびステント遠位端より3cm尾側に閉塞が認められるほか、Pop. A P3部および腓骨脛骨動脈幹にも閉塞が認められた。緊急でIVRによる血栓回収術/経皮的血管形成術が施行され、治療後より症状は消失し、術後経過問題なくABIも改善し、術翌日に退院となった。

画像所見

図1.下肢造影CT MIP(maximum intensity projection)像 (腸骨・大腿・膝窩領域)
両側外腸骨動脈(EIA)、左SFA-Pop. Aステント留置後。左SFA-Pop. Aステント遠位端より尾側に閉塞が認められる

図2.下肢造影CT MIP像 (膝窩・膝下領域)
左SFA-Pop. Aステント遠位端より尾側とPop. A P3部に閉塞が認められる。左膝下領域の動脈描出が不良である

図3.下肢造影CT(左SFAステント近位部レベル)
テント内の造影効果が消失しており、閉塞が認められる

図4.左SFA~Pop. A血管造影(治療前)
左SFA~Pop. Aステント内およびステント遠位部の閉塞が認められる

図5.左SFA~Pop. A血管造影(PTA治療後)
治療前にみられた閉塞部は良好に拡張している

撮影プロトコル

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使用機器CT機種名/メーカー名Definition Flash / SIEMENS
CT検出器の列数/スライス数128
ワークステーション名/メーカー名VINCENT / Fujifilm

撮影条件

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撮影時相単純動脈相平衡相
管電圧 (kV)120140/80120
AECCARE Dose4DCARE Dose4DCARE Dose4D
(AECの設定)ref.mAs 210ref.mAs 440/187ref.mAs 210
ビーム幅 (mm)38.438.438.4
撮影スライス厚 (mm)0.60.60.6
焦点サイズ
スキャンモードHelicalHelicalHelical
スキャン速度(sec/rot)0.50.330.5
ピッチ0.60.60.6
スキャン範囲横隔膜から足趾横隔膜から足趾横隔膜から骨盤
撮影時間 (sec)303515
撮影方向頭→足頭→足頭→足

再構成条件

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単純動脈相平衡相
ルーチン:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)5.0 / 5.03.0 / 3.05.0 / 5.0
ルーチン:再構成関数/逐次近似応用法B30fB30fB30f
3D/MPR用:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)1.0 / 1.01.0 / 1.01.0 / 1.0
3D/MPR用:再構成関数/逐次近似応用法B30fD30fB30f

造影条件

自動注入器機種名/メーカー名
造影剤名イオプロミド370注シリンジ

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撮影プロトコル動脈相平衡相
造影剤:投与量 (mL)60
造影剤:注入速度(mL/sec)3.5
生食:投与量 (mL)80
生食:注入速度(mL/sec)3.5
スキャンタイミングBT法(大腿動脈/100HU)固定法
ディレイタイムCT値到達から5秒後造影剤注入開始120秒後
留置針サイズ (G)20
注入圧リミット (psi)200

本症例はeGFR 21mL/min/1.73m²と腎機能が低下しており、造影剤の使用量を必要最小限とする必要があった。少量の造影剤でも造影コントラストを上昇させるため、Dual energy撮影,低keV画像を行っている。

当該疾患の診断における造影CTの役割

急性動脈閉塞による急性下肢虚血((ALI:acute limb ischemia))は、迅速な診断と適切な治療を行わなければ、肢のみならず生命予後も不良となる疾患である。原因としては塞栓症、下肢閉塞性動脈疾患の血栓症、複合的要因、ステント/グラフト血栓症などが挙げられる。
急性下肢動脈閉塞の術前画像検査として、造影CTの有用性が知られている。閉塞部位の評価のみならず、閉塞の原因となる疾患や塞栓源の鑑別および多発塞栓症の鑑別のため、下肢のみならず頭部から胸腹部、骨盤を含めた精査を可能な限り行う。また、急性下肢動脈閉塞患者では、腎機能障害を有する可能性があるため、造影CTを実施する前には確認しておく必要がある。

参考文献:2022 年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン

CT技術や撮像プロトコル設定について

CTA検査では腹部から下肢にわたって広範囲の動脈を撮影するため、撮影のタイミングが非常に重要となる。急性下肢動脈閉塞の患者では不整脈や心疾患、動脈硬化性変化が伴っていることもしばしばみられ、患者個々の血流状態に応じた撮像のタイミングが必要であるため、当院ではbolus tracking法を用いた撮像を行っている。bolus tracking法を用いても造影剤到達速度の加減でスキャンが造影剤到達を追い越してしまい、良好な画像が得られないことがある。当院ではdelay時間を調整することで撮影しているが、test injection法が用いられている施設もある。

使用上の注意【電子添文より抜粋】

  • 9.特定の背景を有する患者に関する注意

    9.8 高齢者
    患者の状態を観察しながら使用量を必要最小限にするなど慎重に投与すること。本剤は主として、腎臓から排泄されるが、高齢者では腎機能が低下していることが多いため、高い血中濃度が持続するおそれがある。[8.6、9.2.1、9.2.2 参照]