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転移性肝癌の診断

外科医のための肝臓MRI入門

外科医に必要とされる画像

大腸癌肝転移の治療方針

 大腸癌に対する化学療法の進歩により,進行大腸癌に対する化学療法の奏効率は向上したが,大腸癌 肝転移の治癒は化学療法単独では困難であり,肝切除を中心とした集学的治療を行う必要がある .
 切除不能肝転移に対して,化学療法は切除不能病変を切除可能とし,肝切除が行えれば予後は当初から切除可能であった症例と比べても遜色ないと報告2)されている(conversion).われわれの行った多施設共同の前向き試験では,切除不能肝転移に対して,KRAS 野生型では抗 EGFR抗体薬であるセツキシマブを,KRAS 変異型では抗血管新生薬であるベバシズマブを選択した3).その結果,奏効率は 64.7% で,肝切除不能症例の 67.6% で肝切除を施行することができた.R0/1 conversion 症例の 5 年全生存率は 71.1% であり,非 R0/1 conversion 症例の 8.3% と比較して有意に良好であった4)

 

治療方針及び術式決定のための検査

  大腸癌肝転移の切除可能性に関して,MDCT や PET/CT にて原発巣の切除可能性や肝転移以外の転移の有無の精査を行うとともに,肝転移の存在診断が最も重要になる.MDCT を施行し,絶対的手術適応外因子がなければ,EOB-MRI にて CT で検出できない小病変をチェックする.多発例では,MDCT に EOB-MRI を追加することにより小病変が新たに検出されることがしばしばあるため,EOB-MRI は必須である.
  MDCT 及び EOB-MRI による腫瘍の存在診断のもと,MDCT より再構築画像を作成し,予定残肝容積を計算のうえ術式を決定する.
  術中ペルフルブタン造影超音波検査は,深部の小病変の検索に有用であるだけでなく,腫瘍境界の描出に優れていることから複雑な肝切除には必要不可欠である.

 

Conversion 肝切除の注意点

 Conversion 肝切除において悩ましいのは,肝切除のタイミングと画像上消失した結節(radiologicalCR)の扱いである.
 Conversion 肝切除の適応に関しては肝臓外科専門医との良好なコミュニケーションが必要で,専門医が最初に切除可能と判断した時点が最も適切な切除のタイミングである.やみくもに化学療法を継続すると化学療法誘導性肝障害をきたしやすい.さらに,遺残のない肝切除のためにも化学療法前の存在診断が重要で,治療前に EOB-MRI を撮影することを推奨する.なぜなら,切除不能であっても適切な化学療法を行えれば約 2/3 の症例で切除可能になるからである3)
 Radiological CR は真の CR を意味しないが5),EOB-MRI 及び造影超音波を駆使すれば,radiological CR と判断した結節が viable なのは,20 ~ 30% である6)

CT で診断に苦慮する患者 画像提供:兵庫医科大学

70 歳代男性
現病歴:201X 年 9 月切除不能肝転移を伴う上行結腸癌の診断で腹腔鏡下右半結腸切除術施行.その後,mFOLFOXIRI+bev 11コース施行もS4 に新規病変を認め,FOLFIRI+AFL 4コース後,手術目的に紹介受診.
 

図 2. 化学療法前の EOB-MRI による腫瘍の精査

目的:CT で確認できない腫瘍をあらかじめ同定.化学療法後の消失病変の評価にも有用.

転移性肝癌の診断
A ~ C 及び G ~ I)造影 CT.D ~ F 及び J ~ L)EOB-MRI. arrow-red :CT,MRI とも確認できる腫瘍. arrow-yellow :EOB-MRIのみで確認できる腫瘍.

9. 特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋)
9.8 高齢者
患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下している。
 

図 3. 化学療法後の EOB-MRI による評価

目的:化学療法後の新規病変,消失病変の評価.

転移性肝癌の診断
化学療法前造影 CT は図 2 を再掲. arrow-red 確認できる腫瘍.破線 arrow-red CT 又は EOB-MRI 上は消失.arrow-yellow EOB-MRI のみで確認できる腫瘍

図 4. EOB-MR(I 肝細胞造影相)と Heavily T2 強調像との比較による肝嚢胞の鑑別

目的:適切な術式の選択のため(切除する標的を確認).

転移性肝癌の診断
arrow-red :肝細胞造影相で低信号. arrow-yellow :Heavily T2 強調像で高信号.

図 5.腫瘍と脈管との関係を評価

目的:適切な術式の選択のため(血管合併切除が必要かどうか).

転移性肝癌の診断

造影 CT(A)では下大静脈・肝静脈との関係が不明瞭.EOB-MRI 移行相(B)では下大静脈・肝静脈に浸潤なし.

図 6.EOB-MRI で確認した腫瘍を 3D-CT に反映

目的:手術のシミュレーション.

転移性肝癌の診断

手術計画:10又は11ヵ所の肝部分切除+2ヵ所のラジオ波焼灼療法(RFA)を予定.