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Part2 胸腹部領域
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「nonsurgical pneumoperitoneum」に注意!
〜開腹手術は必要ない腹腔内free air〜

腹腔内free airは大半が消化管の穿孔によるものであり,腹痛や炎症所見もあれば緊急開腹手術!というのがお決まりのコースである.しかしながら開腹手術が必要ない腹腔内free airというものがあり,総称して「nonsurgical pneumoperitoneum」とよばれる22~27).開腹手術が必要ない患者さんに開腹手術を行うことは極力避けたいところであり,nonsurgical pneumoperitoneumはしっかり押さえておきたい.

「nonsurgical pneumoperitoneum」の原因
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女性生殖器を介する経卵管性の経路
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縦隔から食道裂孔などを介する経路
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医原性に腹腔内に挿入される場合
- その他:抜歯や扁桃腺切除後,スキューバダイビング後など22)
free airの原因
「消化管の穿孔がないのに腹腔内free airがみられる」とはどのような場合であろうか?
まずは女性生殖器を介して経卵管性に腹腔内にairが侵入する経路があげられる22,23).膣のなかにある程度のairがありながら,膣の出口が塞がれて,かつ繰り返し圧迫されると,逃げ道を失ったairが子宮から卵管を介して腹腔内に入るという経路が推察されている.具体的には乗馬,knee-chest exercise,婦人科的内診,性交などがあげられる.それ以外にも女性生殖器の感染でairが生じた場合も同じ経路で腹腔内に入りうる.このようなケースでは膣あるいは子宮の腔内にもairが観察されることが多い(図).
外傷,感染,陽圧人工呼吸などさまざまな原因で縦隔気腫が存在する場合も,縦隔と腹腔内とは食道裂孔などを介して連続しているため,縦隔のairが腹腔内に入りうる22,23).また,腹腔穿刺や腹膜透析といった医療行為で医原性に腹腔内にairが入るのは容易に理解できる.抜歯や扁桃腺切除などでも頸部に生じたairが腹腔内に入るとされており23),頸部から縦隔を介して腹腔内に入るのではないかと考えられる.それ以外にスキューバダイビング後に腹腔内free airが生じるという報告もある22).



図 nonsurgical pneumoperitoneumの一例(単純CT,脂肪条件)
90歳代女性で発熱を主訴に来院.下腹部レベル(🅐)では,腸間膜を主体に複数の小さな腹腔内free air が認められる( ).骨盤部レベル(🅑,🅒)では,子宮( )および膣(
)の腔内にもairが認められる.本例は消化管穿孔はなく,女性生殖器の感染により生じたairが腹腔内に移動したものと考えられた.
消化管穿孔との鑑別
nonsurgical pneumoperitoneumの腹腔内free airは少量のことが多く,消化管穿孔との鑑別の一助になるかもしれない.しかしながら多量の腹腔内free airで急性発症の腹痛と炎症所見があったにもかかわらず,結果的にnonsurgical pneumoperitoneumであったという例も報告されており24),注意が必要だ.
なお,「nonsurgical pneumoperitoneum」は別名「idiopathic pneumoperitoneum」24,25),「spontaneous pneumoperitoneum」22,25)ともよばれるが,女性生殖器や縦隔を経由するなど原因が判明している場合は「idiopathic」や「spontaneous」という呼称は適当とはいえず,「開腹手術の適応でない」という意味で「nonsurgical」という総称が最も適していると考えられる.
腹腔内free airがあるのに,「消化管穿孔としてはちょっと非典型的」と思ったら,まずは女性生殖器や縦隔にもairがないかを確認する.「nonsurgical pneumoperitoneum」の知識を備えて,必要のない開腹手術はなるべく避けよう.