
画像診断に絶対強くなる
ツボをおさえる!
Part2 胸腹部領域
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外傷パンスキャンCT読影のツボ

高エネルギー外傷の救急診療では全身CT(パンスキャンCT)を撮影し,「時間が勝負!」という観点から3段階に分けて読影を行う2,11).第1段階の読影(primary reading)は3分程度で全身CTを読影する迅速読影であり,外傷の救急診療にかかわるすべての臨床医が熟知しておく必要がある.画像診断医にとってはprimary readingはあまり馴染みのない領域であるが,その存在を知っておく必要がある.また画像診断医がかかわる第2段階の読影(secondary reading)にも外傷パンスキャンCT独特の「ツボ」が存在する.本項ではprimary readingとsecondary readingを中心に,外傷パンスキャンCTの読影について述べる.

外傷パンスキャンCTの読影
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primary reading,secondary reading,tertiary readingの3段階に分けて読影する.
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primary readingはCT室のモニタを使用し,撮影開始から3分程度で読影する.
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primary readingはFACT(focused assessment with CT for trauma)とよばれ,超音波検査のFAST(focused assessment with sonography for trauma)に相当する.
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secondary readingは読影システムを利用して,撮影開始から30分程度で読影する.
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secondary readingではbleeding spaceの概念に注意して読影する.
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tertiary readingは今回の外傷とは関係のない,急がない所見を検査当日中あるいは翌日までに読影する.
2009年のLancetに「外傷時に全身CTを撮影することで,予測生存者を上回る実際生存率が得られた」という論文が掲載されてから12),外傷パンスキャンCTが脚光を浴び,primary reading,secondary reading,tertiary readingの3段階読影が行われるようになった2).外傷初期診療ガイドライン(Japan advanced trauma evaluation and care:JATEC)の第4版13)からFACTという用語が明記されるようになり,超音波検査でのFASTに相当する.すなわちFACTとは緊急処置を要する項目だけを3分以内に評価することを指す.
primary reading
FACT,すなわちprimary readingは画像サーバに転送されたCT画像を気の利いた読影システムで読影するのではなく,CT室で目の前に現れたCT画像を決められた順序で決められた項目を読影していく(図1,表).最初のCT画像が目の前に現れてから3分以内に読影を終了するというのは,高エネルギー外傷の患者さんをCT室から出したときに,次にどこへ運ぶか―①初療室に戻るのか,②血管内治療をするため血管造影室に運ぶのか,それとも③緊急手術のため手術室に運ぶのか―といった方針を決めるための読影とイメージしてもらえばよい.
primary reading(FACT)は表のような手順で読影する2,11).パンスキャンCT検査は頭部から骨盤に向かって撮影するため,最初にCT画像がモニタ画面に現れる頭部から評価する.
まず①頭部では緊急開頭を要するような粗大な頭蓋内血腫の有無のみを確認し,「脳溝が1~2本高吸収になって外傷性くも膜下出血かもしれない」といった読影はsecondary readingにまわす.続いて②大動脈弓と下行大動脈との移行部,すなわち大動脈峡部を主体に大動脈損傷や縦隔血腫の有無を確認する(大動脈峡部は大動脈損傷の好発部位).そして同じ胸部レベルである③心嚢血腫,血気胸,広範な肺挫傷の有無を評価する(心嚢血腫,血気胸は後述するfree spaceへの出血であり,超音波検査のFASTの評価項目でもある),次に上腹部は飛ばして骨盤の読影に入り,同じくFASTの評価項目でもある④ダグラス窩(男性では膀胱直腸窩)の血腫の有無を確認する.上腹部は評価項目が多く読影に時間がかかるが,上腹部のどこかに重要な出血があればダグラス窩/膀胱直腸窩に血腫を生じるという考え方から,上腹部は飛ばして先にダグラス窩/膀胱直腸窩を先に確認する.次に上腹部に戻るため頭側方向にスライスを上がりながら,⑤骨条件にて骨盤骨や腰椎の骨折,およびそれら周囲血腫の有無を評価する.そして残った時間(エキスパートであれば全部で3分のprimary reading読影時間のうち1分以上残っているかもしれないし,不慣れな人であれば20秒しか残っていないかもしれない)で,⑥上腹部(脾,肝,腎,膵,腸間膜)の臓器損傷や血腫をチェックする.

図1 FACTでのチェックポイント(スカウトビュー)
①~⑥の順序で読影する.上腹部を最後にするところがポイント.
文献2より作成.
表 FACTでの読影の順序および項目
①頭部 | 緊急開頭を要するような粗大な頭蓋内血腫の有無 |
---|---|
②大動脈 | 大動脈峡部を主体に大動脈損傷や周囲血腫の有無 |
③縦隔・肺 | 心嚢血腫,血気胸,広範な肺挫傷の有無 |
④骨盤 | ダグラス窩(男性では膀胱直腸窩)の血腫の有無 |
⑤骨盤骨や腰椎 | 骨折や周囲血腫の有無(骨条件) |
⑥上腹部 | 脾,肝,腎,膵,腸間膜の臓器損傷や血腫の有無 |
secondary reading
secondary readingはCT画像がいったん画像サーバに飛んだ後に,読影ビュワーソフトを使いながら電子カルテ上で主治医が,あるいは読影端末で画像診断医が至急読影として30分程度で読影する.ダイナミックCTで動脈優位相と遅延相を比較してextravasation(造影剤の血管外漏出)があるかどうか,といった読影はsecondary readingになる.腹腔内free airの有無ですらprimary readingではなくsecondary readingで読影する項目になる(外傷性の消化管穿孔自体が稀ではあるが).要するに「10~20分後には急変してしまう」ような所見のみをprimary readingで読影し,30分後に読影すればよいものはsecondary readingでという感じである.
secondary readingにおいて重要なのがbleeding spaceの概念である(図2).同じ出血でも,それが生じた部位や年齢により緊急性が異なる.若年者の筋肉のように組織構築がtightな部位では自然止血が十分に期待されるのに対して(tight space),後腹膜や縦隔のように組織構築がややlooseだと止血されにくくなる(loose space).さらに胸腔,心膜腔や腹腔などでは圧迫止血的な効果がほとんど期待されず(free space)最も緊急性が高いため,まずこの胸腔,心膜腔や腹腔内の出血をFACTやFASTで見つけるのだ.若年者の筋肉と並んで,肝臓もtight spaceに分類されているが,脾臓は軟性構造のため圧迫止血が効きにくくloose spaceとなる.脾臓はちょっとした外傷(例えば転倒して腹部を打撲したなど)でも血腫を形成しやすい.そして年齢も重要で,同じ筋肉でも若年者はtight spaceになるが,高齢者では1段階上のloose spaceになる.また後腹膜腔は通常はloose spaceであるが,高齢者ではfree spaceになる.さらにDIC(disseminated intravascular coagulation:播種性血管内凝固症候群)などの凝固障害を合併すると若年者の筋肉内でも止血されにくいなど,bleeding spaceの概念だけでは説明しにくくなるので注意が必要だ.

循環動態不安定化までの時間的猶予がない
tight space | 若年者の筋肉内 肝実質内・被膜下 |
---|---|
loose space | 後腹膜腔 縦隔 皮下 高齢者の筋肉内 脾実質内・被膜下 |
free space | 胸腔,心膜腔 腹腔 高齢者の後腹膜腔 |
図2 bleeding space
同じ出血でも,それが生じた部位や年齢により緊急性が異なる.
文献2より引用.
tertiary reading
tertiary readingは外傷とは直接関係のない急を要さない所見の読影であり,検査当日中あるいは翌日にでも読影すればよい.例えば「腎臓に充実性腫瘤が疑われる」といった所見をtertiary readingとして読影する.
3段階読影の考え方
昔は重症の外傷患者さんは厳重に経過観察をして急変したら,「急変した.心臓マッサージ!」「ボスミン®静注!」とやっていたわけであるが,急変してから対処するのではなく,急変しそうな異常所見を事前に捉えて処置することで急変を防ぐ,すなわち「preventable trauma shock」や「preventable trauma death」は未然に防ぐという考え方がこの3段階読影の根幹にあるといえる.つまり高エネルギー外傷の治療は「時間が勝負」なので30分かけて読影をする前に,まず3分間で急変しそうな異常だけを拾い上げましょう,という考え方である.
外傷パンスキャンCTの読影は3段階に分けて行う.primary reading (FACT)では決められた項目を決められた順序で3分程度で読影する.secondary readingは30分程度で外傷に関連した重要な所見をすべて拾い上げる.急がない所見はtertiary readingとして後でゆっくり読影する.