第82回 画像診断クイズ(頭部)
正解
正解は選択肢3 造影剤の静脈内投与から15分経過後に再度造影T1強調像の撮影を行う、と選択肢4:造影FLAIR像の撮像を行う。
解説
頭部MRI 造影T1強調像では右側頭葉の硬膜に沿って転移性脳腫瘍と考えられる造影病変を認めた。しかし同病変が痙攣発作、構音障害、右上下肢の感覚障害、失調症状、失語症の責任病巣とは考え難く、神経症状の原因検索のためには何らかの追加検査がぜひとも必要であった。最初に提示した造影T1強調像(画像1)は造影剤の静脈内投与直後に撮影を行った画像である。この画像では右側頭葉以外には明らかな造影される病変は認めなかった。しかし再度造影剤の静脈内投与から15分後にT1強調像の撮影を行うと、大脳半球の脳表に沿って多数の造影所見を認め、肺大細胞神経内分泌癌に対して化学療法を施行していることを考慮し、髄膜癌腫症の診断となった(画像2)。また同時に撮影を行った造影FLAIR像ではより多数の大脳半球の脳実質内造影所見および脳表に沿った造影所見を認めた(画像3)。
以上の画像所見から、痙攣発作、構音障害、右上下肢の感覚障害、失調症状、失語症の神経症状は髄膜癌腫症による症状と考えられ、頭蓋内病変に対する治療としては定位放射線治療ではなく全脳照射を行った。
Kushnirskyら、Cohen-Inbarら、Zachらの検討では、頭部MRIの撮影においては造影剤の静脈内投与直後よりも10-15分程度経過してからMRIの撮影を行う方が適正な転移性脳腫瘍の描出が可能となり、微小病変を含む正確な腫瘍数の検出および腫瘍体積の算出のために推奨すると報告している。Kushnirskyらの報告では、腫瘍数に関しては、造影剤の静脈内投与直後と比較して15分後の撮影では43%の症例で増加を認めている。また腫瘍体積に関しては、造影剤の静脈内投与直後と比較して10分後の撮影では平均25%の増加を認め、さらに10分後の撮影と比較して15分後の撮影では平均9%の増加を認めている。Cohen-Inbarらの報告では、造影剤の静脈内投与から20±5分後での撮影は、微小な転移性脳腫瘍の描出に有用であることを示している。
またErcanら、Tomura Nら、Gilらは頭蓋内の転移病変の検出において造影FLAIR像の有用性を報告している。髄膜の造影効果は主に軟膜毛細血管の血液脳関門の破綻によってガドリニウム造影剤が軟膜近傍の髄液に漏出することにより生じるとされている。ガドリニウムの造影効果は、髄液により希釈され低濃度となった場合はFLAIR 像の方がT1強調像よりも大きいとされている。さらに、造影FLAIR像は造影T1 強調像と比較して、脳溝の正常な血管の増強効果がほとんどないため、血液脳関門の破綻を来しているような髄膜癌腫症などの検出には造影FLAIR 像の方が適している場合がある。そのため髄膜に炎症や変性を認めるような髄膜癌腫症や髄膜炎などの病態に対しては、造影T1強調像のみならず、より検出能に優れた造影FLAIR像の撮影を推奨している。
画像2:造影T1強調像(造影剤の静脈内投与から15分後に撮影)
画像3:造影FLAIR像(造影剤の静脈内投与から15分後に撮影)
参考文献
- Kushnirsky M, et al, J Neurosurg 124(2):489-495, 2016
- Cohen-Inbar O, et al, J Neurooncol130(3):485-494, 2016
- Zach L, et al, PLoS One 7(12):e52008. doi: 10.1371/journal.pone.0052008, 2012
- Ercan N, et al, AJNR Am J Neuroradiol 25(5):761-765, 2004
- Tomura N, et al, Acta Radiol. 48(9):1032-7,2007
- Gil B, et al, PLoS One, 11(10):e0163081. doi: 10.1371/journal.pone.0163081, 2016
出題者からのコメント
担癌患者において、神経症状と頭部画像所見が一致しない(今回の症例においては、右側頭葉のみに病変が認められているにも関わらず、同病変が責任病変とは考え難い痙攣発作、構音障害、右上下肢の感覚障害、失調症状、失語症などの多岐にわたる神経症状を呈している )場合には、髄膜癌腫症の可能性を考慮してMRIを再検すべきである。その場合、造影剤の静脈内投与から撮影までのタイミングを15分程度あけて行う、および造影剤投与後はT1強調像のみならず、FLAIR像の撮影も考慮すべきである。そのためには脳神経外科医と放射線科医、さらには放射線技師において現在治療中の疾患の情報、神経症状などを共有し、より適した撮影条件でのMRIを行うべきである。特に、転移性脳腫瘍のMRI撮影に関しては、病変がより明確に描出される造影T1強調像が一般的に最も重視される傾向にある。しかしMRI所見によって転移性脳腫瘍の治療方針は、開頭手術、定位放射線治療、全脳照射など大きく変更される可能性が極めて高く、その撮影条件や撮影するシークエンスに関してはより慎重になるべきである。