第59回 画像診断クイズ(頭部)
正解
正解は選択肢2 高濃度酸素吸入による変化が観察される
所見及び経過
FLAIRで脳脊髄液(CSF)の信号がびまん性に上昇している(A, B→)。但し、両側の側脳室内のCSF信号変化の随伴は認めない。翌日のフォローアップMRI(機器が異なりFLAIRの信号コントラストが若干異なる)ではCSF信号は良好に抑制されている (C, D)。前日に認めたCSF信号上昇は一過性の変化であった事の確定が成された。
画像1-A (解説画像):→に示す様に、CSFの信号上昇が見られる。一方、両側の側脳室の信号変化は見られない。
画像1-B (解説画像):→に示す様に、CSFの信号上昇が見られる。
画像1-C、1-D (解説画像):翌日のMRIではCSFの信号変化は消失
診断
FLAIRでのCSF信号の上昇の鑑別としては血腫(くも膜下出血)・髄膜炎の他に今回の高濃度酸素吸入に伴うparamag-netic効果(T1短縮効果)が挙げられる。
本症例は、血腫としては、信号変化の拡がりがびまん性で信号上昇が軽微である点が合致しない。CSF flow artifactとしては、びまん性の信号変化である点と局在が合致しない。選択肢には無かったが、髄膜炎としては病歴が異なる。高濃度酸素吸入との病歴と、翌日に信号変化消失した事と合わせて、上記の如く診断した。なお、提示していないが、T1WI/T2*WIなど、他のシークエンスでは異常は認めなかった。
実臨床での注意事項
本所見は救急症例を扱っている施設では比較的良く遭遇するにもかかわらず、そもそも所見に気付かれない事の方が多い。しかし、時にpitfallに陥り、くも膜下出血が疑われ3D CTAの施行が検討された症例、全く別個のrare diseaseの特徴的所見と誤認されていた症例を経験している。高濃度酸素吸入の実施の有無は電子カルテにも特記しては記載されていない事が多い。読影依頼文章・患者状態から連想し、撮影担当技師に確認する事が出来れば、診断の助けとなり得る。
CSFへの酸素の移行について
本現象は2004年に安西らによる詳細な検討が報告されている (Anzai Y. Paramagnetic effect of supplemental oxygen on CSF hyperintensity on fluid-attenuated inversion recovery MR images. AJNR Am J Neuroradiol. 2004;25(2):274–279.)。同論文では、高濃度酸素吸入5分後から所見が生じる事、本症例と同様に脳表側に信号変化が生じる一方、脳室内の信号変化が見られない事が述べられている。この急速な変化・脳表側有意の分布から、脈絡叢より産生されるCSF bulk flowによる変化では無く、脳表脳血管からのCSFへの酸素移行が示唆されていた。近年、glymphatic systemを始めとした脳脊髄液動態の解明が進み、CSFと脳間質液は比較的自由に交換が成される事が明らかになってきた。この交換経路と信号変化との関連も推測され、興味深い現象である。
FLAIRのコントラストについて
FLAIRは反転パルスを印可し、CSF信号をnullにしているため、同構造のT1短縮に非常に鋭敏である。言い換えると、僅かな組織構成の変化を最も鋭敏に捉える事が可能なシークエンスである。このため、例えば、微量のくも膜下出血においては感度が非常に高い。この様なコントラストメカニズムの理解に至ると、本現象の理解の助けとなり得る。他シークエンスとの信号変化の対比の際にも確信を持った診断が行える。更に、同概念を発展させ、心筋におけるlook lockerを併用した心筋遅延造影の評価も同様の発想である事を認識しておくと、更にMRIシークエンスへの理解が深まる。