第57回 画像診断クイズ(肝臓)
正解
正解は選択肢1 造影CT動脈優位相で認める腫瘍内部の線状構造物はいわゆる中心瘢痕である可能性がある。
画像所見
背景肝は脂肪肝であり、単純CTでS6結節は周囲肝より軽度高吸収、dynamic studyで結節全体が早期濃染し、門脈相~平衡相でも造影効果が持続している。ただし、背景肝が脂肪肝のために低吸収であることは造影画像でも留意する必要がある。MRでは、脂肪抑制併用T2強調像で高信号、拡散制限を伴う。Atoll singは炎症性肝細胞腺腫に特徴的な所見だが本例では認めない。In/opposed phaseで腫瘍周囲に高信号を認めるが、これは脂肪肝を背景とする多血性腫瘍でしばしば認められるperitumoral fat spared areaであり (Gabata T, et al. Abdominal Imaging 2001)、被膜とは無関係である。MRI dynamic studyではCTと同様の造影パターンを呈する。EOB肝細胞相では一見低信号だが、腫瘍辺縁部には厚みの薄いリング状の軽度取り込み亢進領域を認め、内部の「低信号」も完全な取り込み欠損ではなく、脈管と比較すると「軽度低下」と捉えられる。増大傾向にあることから腫瘍生検が施行された。
診断
肝限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia; FNH)
解説
C型慢性肝炎はSVR後も肝細胞癌が発生し得る。しかし、背景に慢性肝障害を有する多血性結節の全てに「肝細胞癌を否定できない」とせず、画像所見を詳細に読み取る必要がある。本例では、経過で増大しているが、悪性腫瘍としては緩慢な経過である。動脈優位相で結節全体が濃染しているが、wash outは認めず、被膜も指摘できない。これだけでは遷延性濃染を呈する硬化型肝癌を否定できないが、CT動脈優位相内部の線状構造物は中心瘢痕を見ている可能性があり、更に一見低信号の見えるEOB肝細胞相で、辺縁部に薄いリングといえる取り込み亢進領域が存在することを捉えれば、FNHと診断可能である。
出題者からのコメント
肝特異性造影剤であるEOB・プリモビストが登場してから、肝細胞相における高~等信号、もしくはリング状高信号という特徴的所見によってFNHの診断は容易になったといえます。リング状高信号は中心瘢痕及びその周囲を含めた領域がEOB取り込み低下を呈する病理学的背景 (Yoneda N, et al. Jpn J Radiol. 2012)を理解していれば、症例によっては取り込みを呈するリングが非常に「薄く」、周囲肝と同程度の信号~軽微な高信号を呈る場合、中心部の取り込み低下域の占める領域が大きなり、結節としては一見「低信号」に見えてしまうことがあることが理解できると思います。一方、肝細胞相の所見のみに捕らわれる傾向も見受けられますが、血行動態の詳細な評価が鑑別診断に有用であることを再認識できる症例と思い、出題しました。