画像診断クイズ

画像診断クイズ

第54回 画像診断クイズ(頭頸部)

正解

正解は選択肢3 原発性脳腫瘍は中高年に発生する

 

画像所見

左顎骨内に骨膨隆性変化を伴う低吸収病変を認める。頭蓋内においては、硬膜の石灰化と思われる線状の高吸収域を認める。

 

経過

左顎骨嚢胞に対する摘出術が施行され、歯原性角化嚢胞と診断された。
顎骨嚢胞と硬膜の石灰化があり、さらに巨頭症や顔貌からも母斑基底細胞癌症候群(Gorlin症候群)が疑われた。遺伝子検査によりPTCH1遺伝子の変異が確認され、母斑基底細胞癌症候群の確定診断となった。

 

解説

母斑基底細胞癌症候群(Gorlin症候群)は常染色体優性の高発癌性遺伝性疾患である。その多くで9q22.3のPCTH1遺伝子の変異がみられる。
頻度の高い臨床症状としては若年での皮膚の基底細胞癌、顎骨の歯原性角化嚢胞、硬膜の石灰化、種々の骨格異常、手掌や足底の小陥凹などが知られ、他にも多様な臨床症状をきたしうることが知られている。20歳以上の症例での検討では、欧米では基底細胞癌の頻度が高い(73~91%)のに対して、本邦で基底細胞癌の頻度は比較的低く(51%)、一方で歯原性角化嚢胞の頻度が高い(91%)ことが報告されている。硬膜の石灰化としては大脳鎌の石灰化が有名だが、小脳テントにも石灰化が生じうる。また、頻度は3~4%ほどではあるが髄芽腫を合併する事がある。母斑基底細胞癌症候群に生じる髄芽腫は2歳までに生じることが多く、これは散発性の髄芽腫と比較して若い傾向にあることが知られている。
本症例においては顎骨において嚢胞性病変が(既往も含めると多発性に)生じており、また撮像範囲上端で硬膜の石灰化があり、母斑基底細胞癌症候群が疑われる。高発癌性疾患である本疾患においては不必要な放射線被ばくや紫外線への曝露を避ける必要があり、放射線被ばくをともなう検査は必要最小限にするよう特に留意が必要である。

 

参考文献

  1. Rehefeldt-Erne S, Nageli MC, Winterton N, et al. Nevoid Basal Cell Carcinoma Syndrome: Report from the Zurich Nevoid Basal Cell Carcinoma Syndrome Cohort. Dermatology. 2016; 232: 285-292.
  2. Endo M, Fujii K, Sugita K, et al. Nationwide survey of nevoid basal cell carcinoma syndrome in Japan revealing the low frequency of basal cell carcinoma. Am J Med Genet A. 2012; 158: 351-357.
  3. John AM, Schwartz RA. Basal cell naevus syndrome: an update on genetics and treatment. Br J Der-matol. 2016; 174: 68-76.
  4. Foulkes WD, Kamihara J, Evans DGR, et al. Cancer Surveillance in Gorlin Syndrome and Rhabdoid Tumor Predisposition Syndrome. Clin Cancer Res. 2017; 23: 62-67.

出題者からのコメント

母斑基底細胞癌症候群(Gorlin症候群)は不必要な放射線被ばくや紫外線への曝露を避ける必要があり、早期診断が重要な疾患です。多発性の顎骨の歯原性角化嚢胞と硬膜(大脳鎌)の石灰化からその可能性を指摘することで、放射線診断医が早期診断に貢献できる可能性があります。広く放射線診断医に知って欲しい疾患と考えましたので提示しました。