第51回 画像診断クイズ(頭部)
正解
正解は選択肢3 本疾患では脊髄病変を伴うことは稀である。
解説
所見
T1強調像では白質病変の一部に神経脱落を疑う低信号域がみられた。FLAIR像では深部白質や側脳室白質優位に高信号を認め,同部に一致した拡散強調像高信号あり。ADC値は低値であった。T2*強調像では微小出血を伴っている。造影MRIでは一部にのみ造影効果あり。
診断
血管内リンパ腫(intravascular lymphoma:IVL)
もしくは 血管内大型細胞型B細胞リンパ腫(intravascular large B-cell lymphoma:IVLBCL)
この疾患のポイント
血管内リンパ腫(intravascular lymphoma:IVL)はリンパ腫細胞が小動脈や小静脈内に存在し,血管内で顕微鏡的な腫瘤を形成する,節外性非ホジキンリンパ腫の稀な一亜型である。中枢神経や皮膚に生ずることが多く,ほとんどがB細胞由来である。平均年齢70歳で性差はない。臨床的には亜急性血管性認知症の容態を呈し,進行性の認知機能低下を見ることが多いが,意識障害,痙攣,片麻痺,発熱等その症状は多彩である。アジアと西洋で傾向が異なり,Asian variant, Western variantと分類される。Asian variantは血球貪食症候群を高頻度で認め,Western variantは皮膚・神経浸潤を主体とするとされる。70~85%で中枢神経症状を合併するとされ,進行性・多巣性脳血管障害76%,脊髄・神経根障害38%,亜急性脳症 27%,脳神経障害21%,末梢神経障害5%と報告される(Cancer 1994;71:3156 -3164)。LDHやsIL-2レセプターの上昇をみるが,血液検査でも非特異的である。Yamamotoらは本症のMRI所見を5型(梗塞様・白質病変・髄膜造影効果・腫瘤病変・橋病変)に分類している(AJNR 2012;33:292-296)。またSWIで大脳皮質,皮質直下に低信号を認めた症例も報告され,IVLの特徴的な画像所見の可能性を指摘されている(臨床神経 2017;57:504-508)。脊髄内出血が疑われた症例(臨床神経 2012;52:344-350),脳出血を併発した症例(Neurol Sci (2010) 31:793‒797)の報告があり,血管壁の炎症・変性・ヒアリン化・線維化による血管壁の損傷・血管拡張・微小動脈瘤の形成・破綻が出血に関与している可能性が考えられる。
鑑別診断にCNSループスの急性増悪,原発性中枢神経系血管炎(primary angiitis of the central nervous system:PACNS),進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy:PML)等が挙げられるが,白質病変の分布や脊髄病変の有無,軟膜や硬膜の増強効果などが鑑別点となる。
本例ではNPSLEの既往があり, 今回は提示していないが胸髄MRIではTh1-2レベル, 脊髄円錐レベルで造影効果を伴う脊髄病変がみられたことからCNSループスも疑われたが、経過中にLDH, sIL-2レセプターが急上昇し,臨床的には早期からIVLを疑われた症例である。皮膚生検,骨髄生検を複数回行ったが,3回目にしてようやく同定できた。現在R-CHOPとMTXにて症状が改善傾向である。
出題者からのコメント
血管内悪性リンパ腫は非特異的で稀な疾患のため診断困難で予後不良な病態とされてきたが,診断さえつけば化学療法による寛解を見込めるので早期診断の意義が大きい病態である。進行する認知機能低下を認め,血管姉妹領域に一致しない梗塞様の所見や橋の信号異常,髄膜の造影効果等がみられた場合,本症も鑑別に挙げる必要があると思われる。