画像診断クイズ

画像診断クイズ

第50回 画像診断クイズ(脳・脊髄)

正解

正解は選択肢4 水痘・帯状疱疹ウイルス

解説

画像所見

入院時(発症5日目)の頭部単純CTでは左側頭葉に出血と低吸収域を認め、6日目にはこれが拡大し、対側の同部位にも出現している。中脳にも低吸収域が出現している。7日目ではこれらの病変の拡大を認める。MRIでは造影後T1強調像にて脳幹、小脳、両側シルビウス裂、大脳脳表の軟膜に沿った増強効果が認められ、FLAIRではこれらの近傍の脳実質に高信号域が認められる。脊髄の造影後T1強調像では脊髄の表面および髄内に増強効果が認められる。馬尾の増強効果も認める。脳出血を伴う脳脊髄髄膜炎の所見と考えられる。

経過

入院時(発症5日目)、一般身体所見で右背部Th10~12 レベルに帯状の水疱を伴う紅斑を認めた。特徴的な皮疹と神経学的所見から水痘・帯状疱疹ウイルス脳脊髄髄膜炎と考え、アシクロビル、ステロイドミニパルス療法などを行ったが次第に全身状態が増悪した。発症14日目の髄液検査でVZV-IgG 陽性,VZV-DNA 陽性(9×106 copy/ml)を認め、水痘・帯状疱疹ウイルス感染症と確定診断された。発症17日目に死亡した。病理解剖(開頭なし)では脊髄のうっ血、融解壊死、血管炎、前脊髄動脈周囲の白質内にVZV免疫陽性細胞が認められた。

水痘・帯状疱疹ウイルス感染症

帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化により発症するが、時に中枢神経合併症をきたす。加齢や悪性腫瘍、AIDS、自己免疫性疾患やそれに対する免疫抑制療法などが中枢神経合併症発症のリスクになる。中枢神経合併症は脳血管炎・血管症、髄膜炎、多発脳神経障害、Ramsay-Hunt症候群、脊髄炎など多彩である。皮疹出現後10日前後で神経症状を発症することが多い。血管炎では小血管から大血管までさまざまなサイズの血管が障害され、脳梗塞や脳出血を来しうる。病理学的には組織の壊死と出血、脱髄、血管壁の炎症細胞浸潤が特徴的とされる。疼痛のみで皮疹を欠く場合や神経学的症状が皮疹に先行する場合もあり、そのような症例では診断に苦慮することも多く、画像診断が重要となる。

画像所見

髄膜炎の場合には本症例のように髄膜の増強効果を認めうる。血管炎により脳梗塞、脳出血やくも膜下出血をきたす。大血管が障害される場合、血管造影検査やMR Angiographyにて脳主幹動脈の拡張および狭窄、動脈瘤、動脈解離が見られることがある。単純ヘルペス脳炎では病理学的に微小出血が認められることが多いのに対して、水痘・帯状疱疹ウイルス血管炎では本症例のように粗大な脳内出血を生じることが特徴とされる。脳炎は脳実質内の多発、融合状のT2強調画像での高信号域として認められ、脳表にも深部にも起こりうる。虚血により拡散強調画像での高信号/ADC低下を生じうる。小脳や脳幹に異常信号が認められることも多い。脊髄炎はさまざまなレベルにてT2強調像で高信号を認める。境界明瞭ないし不明瞭な病変が1~数髄節に及ぶ。不連続病変を複数認めることもある。横断性脊髄炎を呈し、腫脹を伴う場合もある。増強効果は様々で、中心部に不均一、斑状に認められる例や後根に増強効果を認めることもある。

参考文献

  1. 神経内科疾患の画像診断 第2版 学研メディカル秀潤社 P151
  2. エキスパートのための脊椎脊髄疾患のMRI 三輪書店 P525-527
  3. Jayaraman K, et al. Magnetic Resonance Imaging Findings in Viral Encephalitis: A Pictorial Essay J Neurosci Rural Pract. Oct-Dec 2018;9(4):556-560.

出題者からのコメント

特に免疫抑制状態にある患者において、出血を伴う脳炎、髄膜炎、脊髄炎を見た場合、水痘・帯状疱疹ウイルス感染症の可能性を考える必要があり、臨床上画像診断が重要な役割を果たす病態と考え提示させていただきました。