第45回 画像診断クイズ(肺)
正解
正解は選択肢4 胸腔内結石(Thoracolithiasis)
解説1
胸腔内結石(Thoracolithiasis)は稀な良性病変(頻度0.01%未満)で、しばしば石灰化を含み、胸膜腔内を移動する胸膜内遊離体である。通常は無症状であり、単純X線撮影やCT撮影などの画像検査の他、胸部病変の手術時(自然気胸・炎症性偽腫瘍・後縦隔神経鞘腫など)に偶発病変として認められる。左右いずれの胸腔内にも発生しうる。ほとんどの例は単発結節だが、稀に複数結節を有する例も存在し、また両側性に認められる例も報告されている。
解説2
成因は未だ不明だが、これまでの報告では胸腔内に何らかの核となるものが存在し、その周囲を巣状に線維組織が被胞し硝子化が生じ、結石形成に至るとされる。核になる候補として、以下の4つが推察されている。
1) | 胸腔内もしくは心膜前脂肪組織の脂肪が血流障害など何らかの原因により脱落したもの |
---|---|
2) | 胸腔内に発生した脂肪腫 |
3) | 陳旧性結核病巣塊 |
4) | 肺内のsilicaや炭粉をマクロファージが取り込んで形成された結合組織 |
解説3
画像所見(X線検査やCT検査)は、境界明瞭な孤立性石灰化結節として認められ、異なる時期の検査で病変移動が確認される。10mm前後の大きさを示すものが多く、後方視的な検討では、X線検査やCT検査で80%弱の病変が診断可能とされる。
胸腔内結石は、移動が確認できれば摘出手術は不要であり、経過観察で十分と考えられる。ただし移動の確認できる病変は60%未満に留まるという報告もあるため、病変の移動や石灰化がはっきりしない場合には、他の肺・胸膜疾患との鑑別が必要となり、診断には注意を要する。
解説4
本例では、短期間のうちに石灰化結節が移動しており、胸腔内結石と診断した。入院の契機となった肺炎は一旦増悪したものの、抗生剤変更により改善し、無事退院となった。
術前・術後の過去CT検査を改めて見直すと、術前CTで右房に接して存在した石灰化が、術後CT(9年前)では右横隔膜上へと移動している。今回入院時に撮影したCTでは、1回目で9年前とは異なる位置に石灰化が移動していることが確認され、さらに2回目でも1回目とは異なる位置に石灰化が移動していた。
- 画像1:
- (A)単純CT(今回1回目)(B)単純CT(今回2回目)
(A)・(B)石灰化の存在位置が変化している(矢印)。
- 画像2:
- (A)術前造影CT(10年前)(B)術後造影CT(9年前)(C)術後単純CT(今回1回目)
(A)右房に接して石灰化が存在する(矢印)。右乳癌病変を認める(矢頭)。
(B)・(C)右房に接して存在した石灰化は消失している。右乳房切除後。
- 画像3:
- (A)術前単純CT(10年前)(B)術後単純CT(9年前)(C)術後単純CT(今回1回目)(D)術後単純CT(今回2回目)
(B)右横隔膜レベルに石灰化が出現している(矢印)。
(A)・(C)・(D)同部位に石灰化を指摘できない。
参考文献
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内藤雅仁,三窪将史,中島裕康ら.胸腔鏡下に摘出した胸腔内結石の3例. 日呼外会誌 2014; 28:809-15.
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三木 誠,蘆田 寛,西島 博之ら.CT検査で陰影の移動を認めた胸腔内結石(胸腔内遊離体)の1例.人間ドック 2015; 29:737-741.
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Kamaya A, Federle MP, Desser TS. Imaging Manifestations of Abdominal Fat Necrosis and Its Mimics. RadioGraphics 2011; 31:2021-2034.
出題者からのコメント
腹腔内に生じた同様の石灰化病変は、fat necrosisとして馴染みがあり、日常臨床でよく遭遇します(参考文献3)。
胸腔内に生じる例は多くありませんが、過去画像と対比することで、腹腔内病変と類似した所見であることが思い浮かべば、診断にたどり着けると考え、提示させて頂きました。