第43回 画像診断クイズ(頭部)
正解
正解は選択肢4
所見
両側大脳白質に対称性のT2延長病変を認め、脳脊髄液と同様の信号強度を呈する嚢胞構造が混在している。また大脳皮質下に拡散制限域も認めている。脳萎縮と側脳室拡大も認めている。
診断
遺伝子検査でEIF2B5変異を認め、Vanishing white matter disease (VWMD) と診断された。
解説
VWMDは左右対称性の白質脳症を呈する比較的まれな常染色体劣性遺伝性疾患で、主に小児期に発症するが、本症例のように成人期以降に発症することもある。原因として、mRNAの翻訳の開始において重要な役割を果たす転写調節因子である、eukaryotic translation initiation factor 2B (ElF2B) と呼ばれる遺伝子の変異が同定されている。症状としては、慢性進行性に経過する錐体路症状や小脳運動失調を特徴とするが、その他にもてんかんや認知機能障害、精神症状など、様々な症状を呈しうる。 特異的な治療法はない。
MRIの特徴としては、T2強調像, FLAIR像で大脳白質のびまん性、対称性高信号を呈するが、内包や脳幹被蓋、小脳白質にも同所見を呈しうる。さらに、進行すると同部位が希薄化し、地図状の大きな嚢胞変性、海綿状変性をきたす点が、特徴的である。また、進行に伴って大脳の容積減少と、それによる脳室拡大がみられる。また、過去の報告では、約70%の症例で、大脳皮質下 U-fiberをはじめ、小脳白質や錐体路、脳梁などに、拡散制限を認めたとされている。
鑑別疾患としては、嚢胞構造を認める点で、Megalencephalic leukoencephalopathy with subcortical cysts (MLC) が挙げられるが、MLCでみられる嚢胞構造は皮質下優位に多い点や発症年齢が若い(中央値6ヶ月)点が鑑別のポイントとなる。白質を中心に拡散制限を認める点で、Adult-onset leukoencephalopathy with axonal spheroids and pigmented glia (ALSP) も鑑別に挙がるが、本症例でみられる嚢胞構造は通常ALSPでは認められない点が鑑別のポイントとなる。
出題者からのコメント
VWMDは、比較的まれな遺伝性疾患で症状も多彩だが、大脳白質に地図状の嚢胞変性をきたす画像的特徴を有し、また大脳皮質下 U-fiberをはじめ、拡散制限もみられることが多いとされており、これらの画像的特徴を知っておけば診断に近づくことができると考え、症例を呈示した。