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MRIで生じるアーチファクト

認識、解明、除去 Harald H. Quick

アーチファクトの認識、解明、除去

  認識 解明 除去
呼吸アーチファクト 位相エンコード方向に規則的に繰り返す胸壁・腹壁からのゴースト画像。 撮像中にk-space個々のラインにおいて起こる呼吸運動により、位相エンコード方向に胸壁・腹壁からの多様な画像が現れる。 安定した呼吸をするように指示を出す、息止め撮像をする、呼吸ベルトを使用する、体動補正のあるシーケンスを使用する。
拍動アーチファクト 位相エンコード方向に規則的に繰り返す(等間隔)高信号のアーチファクトで、拍動する動脈の上下にみられる。 撮像中にk-space個々のラインにおいて起こる拍動により、位相エンコード方向に、拍動する動脈の多様な画像が現れる。 血液の信号を飽和させるため、スライス面の前後方向にプリサチレーションパルスを加えたシーケンスを用いる、読み取り周波数方向と位相エンコード方向を入れ替える。
フローアーチファクト 動脈または静脈から生じる、位相エンコード方向に不規則かつ広範に展開する高信号のアーチファクト。 撮像中にk-space個々のラインにおいての起こる血流や拍動により、位相エンコード方向に、広範な高信号の画像が現れる。 血液の信号を飽和させるため、スライス面の前後方向にプリサチレーションパルスを加えたシーケンスを用いる、読み取り周波数方向と位相エンコード方向を入れ替える。
折り返しアーチファクト FOVの片側で切り取られた画像そのものであり、FOVの反対側に重なって表示される。 位相エンコード方向でFOVが撮像対象よりも小さいと、位相エンコード方向において切り取られた画像そのものを正確な位置に配置することができないため、切り取られた画像の折り返しが生じる。 検査対象の長辺を読み取り周波数方向に設定する、FOV全体または位相エンコード方向のFOVを広げる、位相エンコード方向でオーバーサンプリングを使用する、読み取り周波数方向と位相エンコード方向を入れ替える。
磁場不均一 幾何学的歪み、信号消失、高信号と低信号の縞状(ゼブラアーチファクト)、そして何より撮像部位がFOVの辺縁である。 磁場が均一でない領域において、スピンの位相が乱される、幾何学的な歪み、限局的な信号分散による限局性の信号消失。 検査領域をできる限りアイソセンターにセッティングする、SEシーケンスはGREシーケンスに比べ歪みを生じにくい、手動で検査領域のシム調整を行う。
傾斜磁場の非線形 主に長軸方向の画像(脊椎、長骨)にみられる大きな幾何学的歪みと、FOV辺縁でそれが強調されること。 FOV全体で解剖学的に正確な画像を得るためには、撮像中は傾斜磁場の線形性が保たれている必要がある。
特にFOVが広い場合、FOVの辺縁で湾曲が生じる。
FOVが広い場合は「広いFOV用フィルター」または他の非線形補正を使用する、FOVを小さくする、撮像領域をできる限り磁場中心にセットする。
脂肪抑制不良による
アーチファクト
脂肪抑制を併用したにも関わらず、局所的に高信号の脂肪性構造物が残り、低信号領域と混在し、それらはFOV辺縁において顕著である。 脂肪抑制では、水の信号と脂肪の信号を区別するため、あらゆる部位で磁場の均一性が保たれている必要がある。磁場が不均一の場所では、この区別がうまく行えない可能性がある。 適切な脂肪抑制法を選択する、撮像領域を対象に手動でシム調整を行う、撮像範囲をできる限り磁場中心にセットする。
ケミカルシフト 臓器の周辺において、読み取り周波数方向に沿って、臓器辺縁に高信号または低信号となるレリーフ型の信号がみられる。 水と脂肪のプロトンはわずかに異なる共鳴周波数を有するため、得られたMR画像において、水と脂肪を含む組織が読み取り周波数方向に沿って位置ずれを起こして表示される。 位置ずれを起こした脂肪信号を抑制するため適切な脂肪抑制法を用いる。位置ずれを抑制するため受信バンド幅を大きくする。読み取り周波数方向と位相エンコード方向を入れ替える。
磁化率アーチファクト 空気、組織、骨の接する部位(顔面骨内や消化管など)に限局的な信号欠損および歪みが生じる。 組織は固有の磁化率を有しているため、お互いに異なる磁気特性を持つ。組織が接する境界面では局所磁場勾配が生じ、位相分散により信号低下が起こる場合がある。 SEシーケンスはGREエコーシーケンスと比べ磁化率アーチファクトを生じにくい。
金属アーチファクト 強力な磁化率アーチファクトとして描出され、あらゆるタイプの金属異物およびインプラントの近くに生じる、大きな歪みと信号消失を生じる場合がある。 金属異物およびインプラントは、組織に対して局所的な磁場不均一をきたし、歪みや位相分散による信号低下を生じる。 SEシーケンスはGREシーケンスと比べ金属アーチファクトを生じにくい。金属アーチファクトを低減する特殊なシーケンスを使用する。
造影剤のタイミング 造影MRAやDynamic撮像において、目的とする動脈相が最適な時相で描出されていない。造影MRAにおいて静脈が重なって描出されている。 画像コントラストを決めるk-space領域のデータ収集時に造影剤が動脈内に存在するよう造影剤の投与と、撮像シーケンスを正確に同期させなければならない。 造影剤投与と撮像シーケンス開始のタイミングを患者ごとに最適化しなければならない。造影剤到達のタイミングを計測する手法(bolus timing、Care bolus など)を用いる。
ステント 本来は均一に増強されている血管において、ステントの近傍に信号減弱または信号消失が生じ、ステントの血流が良好な場合であっても狭窄または閉塞と誤って認識されることがある。 金属製のステントは金属アーチファクトを生じ、さらにステント内部からのMRI信号を遮断する。 ステントが留置されている場合は、常に元画像を確認し、必要に応じ多方向の再構成画像を作成する。撮像パラメータのフリップ角を少し高めにするとステント内の信号強度を上げることができる。
MRA後処理(再構成) 3D後処理(再構成)において、造影した血管群で描出されない血管や血管領域があり、狭窄や閉塞と誤って認識されることがある。 MRAデータの3D後処理では、目的とする血管全体を網羅する必要がある。3Dデータを作成する際に重要な血管領域が不適切に処理されている可能性がある。 MRAデータの評価は、必ず画像の元データを用いて行うべきである。疑わしい血管領域は元データを再確認する。
T2*アーチファクト 造影MRAにおいて、造影剤投与側の鎖骨下動脈に限局的な信号欠損が認められ、狭窄または閉塞と誤って認識されることがある。 血管内で希釈されるまで上腕静脈には高濃度の造影剤が残っている。局所的に造影剤のT2*減衰が優位となり、磁化率アーチファクトによって近くの鎖骨下動脈に信号欠損が生じる。 造影MRAの診断および評価を行う場合には、上腕静脈および鎖骨下動脈に特異的に生じるアーチファクトを認識しておく必要がある。
RFアーチファクト しばしば特徴的なパターンを伴う画像の不具合(ジッパーアーチファクトとも呼ばれる)で、位相エンコード方向に沿って交互に現れる明るい縞状または点状の信号。散発的に縞状のみがみられることもあれば、画像全体に生じることもある。 データ収集時のRF関連のアーチファクトは、受信される本来の信号に畳み込まれている。信号受信時の不具合は特定の周波数を有しているため、常に読み取り周波数方向の同じ位置に生じ、画像の位相エンコード方向に沿って分離した線またはパターンを生じる。 RF関連の不具合を回避する:RFコイルのプラグを抜き差しする、MRI室のドアをしっかり閉める、MRI室内に設置された機器の電源を切るか撤去する、再撮像する。
スパイクアーチファクト しばしば格子状に発生、濃淡が交互に現れる斜め方向の縞状および特定のパターンを伴う画像の不具合。通常、画像全体にこれらのアーチファクトが重なって生じる。 データ収集時のMRI検査室内において電気および静電気の放電により、k-spaceに不要な高信号が生じる場合があり、画像再構成後の画像全体に特徴的なパターンとして確認される。 散発的な静電気の放電を防ぐためには、MRI室の湿度を50%以上とする。スパイクノイズが頻繁にみられる場合は、MRI装置の製造業者のサービス担当者にMRI装置の確認・調整を依頼することが望ましい。

表1 代表的なアーチファクトの概要と、「認識、解明、除去」に関連する対処方法。RF = radio frequency(ラジオ波)、
FOV = field of view(撮像視野)、MRA = Magnetic Resonance Angiography(磁気共鳴血管画像法)、CA = contrast agent(造影剤)