MRIで生じるアーチファクト
認識、解明、除去 Harald H. Quick
アーチファクト例 - 造影剤
造影剤を用いることは、MRI検査における診断能向上に寄与する。臓器診断および、病変や腫瘍の検索だけでなく、造影剤を用いたMRAでは血管や血流の診断に用いられる。造影MRAでみられるアーチファクトとしては、造影剤の投与とデータ収集開始のタイミングの差に関連して生じる特徴的なアーチファクト、血管ステント周囲に生じるアーチファクト、MRAデータセットの後処理に不備があったために生じるアーチファクトなどがある。最後に、造影剤の濃度が高いままだと、特定の領域の血管に限局的な低信号を生じる場合がある。
造影剤のタイミング
どんなアーチファクトか--認識--
造影MRAの最も重要なことは、静脈からの信号の重なりを無くし、目的とする血管領域において最適な動脈のコントラストを描出することである(図21)。造影剤投与のタイミングを誤った際に生じるアーチファクトは、動脈の信号強度が不十分、または静脈の信号の重なりにより、血管の解剖学的構造評価の妨げとなる(図22)。
図21.造影MRAのデータ収集と動脈および静脈中の造影剤の動態との関係を示す。撮像開始までのdelay時間を決定するためにあらかじめテストボーラス法で患者ごとの造影剤到達時間を確認する。これが造影剤投与から造影MRA撮像開始までの間に必要となる理想的な時間である。造影剤投与のタイミングおよび造影MRAの撮像開始が理想的に行われると、k-spaceの中心部の収集が目的とする血管の動脈相と一致する。すると、得られる造影MRA画像では読影の妨げとなる静脈の信号の重なりがなく、均一で良好な動脈相の画像が得られる。
図22.造影剤の到達と造影MRA撮像のタイミングが合わなかった例。MIP画像で、高信号に造強された心腔と、肺血管が描出された痕跡がみられる。腹部大動脈および骨盤から下肢にかけて血管内腔の造影が不十分であり、わずかに造影された血管の縁がみられるのみである。造影MRA撮像の開始が早過ぎた症例である。k-space中心部のデータ収集が行われている時間帯に、腹部大動脈が十分な造影剤で満たされていなかった。この特徴的なアーチファクトは、造影剤が動脈内を流れている間に、画像コントラストが決まるk-spaceの中心部(低周波成分)のラインが収集されるのではなく、辺縁部(高周波成分)のラインが撮像データとして読み込まれた場合に起こる。k-spaceの辺縁部のラインには、造影MRA撮像の画像データの輪郭や空間分解能の情報が含まれている。
なぜこのアーチファクトが生じるのか--解明--
造影MRAで最善の結果を得るためには、使用する造影MRA用シーケンスの撮像タイミングと、造影剤の投与を正確にコントロールしなければならない。画像コントラストに関連するk-spaceの中心部にデータが収集される間、信号を増強する造影剤ボーラスが標的血管領域の動脈に存在し続ける状態にすることで最善の画像が得られる。造影剤ボーラスが目標とする血管に到達する前に造影MRAの撮像が開始された場合、造影MRAにおける動脈のコントラストが不十分となる。一方で造影MRAの撮像開始が遅すぎると、動脈のコントラストは低下し、反対に静脈系の信号が増強され動脈の信号に重なり、評価の妨げとなる。
どうすればこのアーチファクトを回避できるのか--除去--
ここで述べた造影MRAにおけるアーチファクトは、正確なタイミングで造影剤を投与することで回避できる。実際の造影MRA検査を行う前に、患者個人の造影剤の循環時間を推定することが望ましい。例えば、予め少量の造影剤投与によるテストボーラスを行うことで、造影MRAシーケンスのコントラストを決定するk-space領域の中央部へのデータ収集を完全に同調させることができる。
ステント
どんなアーチファクトか--認識-
造影MRAでは、均一に造影された血管において、金属製血管ステントの周囲にのみ信号不均一(図23)、信号減弱、信号欠損を認める場合がある。これらの信号減弱は、血流障害がない場合でも、誤ってステント内の狭窄(または完全閉塞)を疑う原因となりうる(図24)。
図23.大動脈ステントが留置されている患者の、造影MRAの最大値投影法(MIP)画像。大動脈ステントグラフトのワイドメッシュ状の金属部分の周囲に信号不均一がみられる。ステントグラフトがワイドメッシュ状であることと比較的大きいことから、ステント内部からの血液の信号は遮られていない。信号不均一を除けば、ステントの内腔は評価しやすい。
図24.左大腿動脈に留置されたステントにより、あたかも広範囲にわたって血管閉塞が生じているかのように描出されている。下肢血管のMRAを最大値投影法(MIP)にて作成した冠状断を示している。金属製人工血管(ステント)は通常、2種類のアーチファクトを生じる。金属部が周囲組織に磁化率アーチファクトおよび信号欠損を生じる。もう一つは、導電性のステント金属部が、ステント内部からのMRI信号を遮る。どちらの影響も、ともにステントによって広範囲に血管信号が欠損する原因となる。このため、ステント内部の評価は困難あるいは不可能なことすらある。ゆえに、MRAの評価において、このようなステントの存在、部位、長さを知ることは非常に重要である。
なぜこのアーチファクトが生じるのか--解明--
金属製の血管補助具およびステントは、すでに述べた限局的な信号欠損を伴う金属アーチファクトをきたす。さらにステントの金属部の長い円筒形が、ステント内部からのRF信号を遮るシールドのような役割を果たす。これらの2つの理由によりステント内部からのMRI信号が大幅に減弱し、ときに完全に消失する。
どうすればこのアーチファクトを回避できるのか--除去--
ステントが留置されている場合、最大値投影法(MIP)で得られたMRAの3Dデータに加え、2Dの元画像も確認することを推奨する。ステント内腔を評価するため、さらに異なる方向から(ステントに対する横断像)MPRにて画像再構成するのも有用な場合がある。MRAの撮像パラメータにおいてフリップ角を少し高めにすると、MRA画像全体の信号強度が上昇するため、ステント内腔の信号低下が部分的に補われる。
MRAの後処理
どんなアーチファクトか--認識--
均一に造影された多くの血管を3次元最大値投影法(3D-MIP)で確認する際に、個々の血管の狭窄、または部分的に不明瞭な欠損がみられ、狭窄または閉塞と誤って認識される場合がある。しかしこれらは3DMRAデータの後処理によって生じたアーチファクトである可能性がある(図25)。
図25.誤った画像後処理による偽狭窄。骨盤から下肢の造影MRAにおける冠状断MIP画像で、右大腿動脈の狭窄所見がみられる(Aの矢印)。(B)の矢状断MIP画像では、画像後処理中に削除範囲が適切に考慮されていなかったことが分かる。3D-MRAデータセットの前面側が不適切に切り取られているため、最終的なMIP画像では、この領域からの一部の信号が欠如し、血管狭窄または閉塞があるかのように見えている(Bの矢印)。図(C)は同じMRAデータセットから改めて再構成したものだが、対象となる血管が損なわれることなく正しく確認できる。この種のアーチファクトは、造影MRA撮像の位置決め設定の際にも生じることがある。このため、撮像範囲は収集するボリューム内に必要な血管全体が完全に含まれていることを確認しなければならない。
なぜこのアーチファクトが生じるのか--解明--
MRAデータの3D後処理では、関心領域全体の血管を含める必要がある。後処理のフレームワーク内では、MIP画像は、局所の血管と背景のコントラストを向上させるため、余分なボリュームデータを手動で削除しながら作成することが多い。この際、重要な血管構造がボリュームデータとともに削除されている可能性がある。これにより、再構成される3D-MIP画像の投影角度によっては、血管の狭窄または閉塞があるような印象を与える画像を作成してしまう可能性がある。
同様の影響は、3D撮像における撮像範囲の設定が不十分な場合にも生じうる。3D-MRA撮像の設定した範囲に必要な血管が含まれていなかった場合、MRAシーケンスが自動的に撮像部位の補正を行うことはなく、必要な画像が後から表示されることもない。
どうすればこのアーチファクトを回避できるのか--除去--
MRAデータの評価は、必ず元画像で評価することが望ましい。追加で3D-MIP画像の確認を行う時に、多方向からの観察やtargetMIP処理を行うと、さらに詳しい診断に役立つことがある。しかし手動の後処理が必要となるため、さらにアーチファクトが生じる可能性があることを考慮しなければならない。疑わしい場合は、その領域を元画像で再確認するべきである。
3D-MRAの撮像設定において必要な血管領域が含まれていないと、後処理のミスに似た影響が生じる。撮像範囲設定を誤った場合は、改めて全ての関連する血管を評価するために、もう一度検査をやり直さなければならない。これが造影MRAの場合、その影響はより大きい。
T2*アーチファクト
どんなアーチファクトか--認識--
ガドリニウムをベースとした造影剤は優れた信号増強効果をもたらすが、特定の領域で信号欠損を生じる場合がある。これはT2*アーチファクトと呼ばれる。鎖骨下動脈上部の一部において、造影MRAの造影剤投与側に限局的な信号欠損が生じ、狭窄または閉塞と誤解される場合がある(図26)。泌尿器系を介して造影剤は排泄されるが、排尿直前での膀胱では濃縮された造影剤の沈降がみられ(図27)、これにより2つ目の特徴的なT2*アーチファクトが生じる。
図26.大動脈弓部から頭頸部の頭側血管の造影MRA。最大値投影法(MIP)で、鎖骨下動脈(矢印)周囲に信号消失が生じており、狭窄あるいは閉塞と誤って認識される可能性がある。これが、造影MRAにおける特定の血管領域に時として認められるT2*アーチファクトである。このアーチファクトの原因は、造影剤が近傍を走行する静脈(鎖骨下静脈)の下流から投与され、この血管の一部で造影剤濃度が相対的に高いことによる。投与直後は静脈にガドリニウム系造影剤が高濃度のまま存在しており、そのため周囲組織と比べ磁化率が高くなっている。この影響で生じる磁化率アーチファクト、および信号消失が近傍を走行する動脈に影響し、動脈の信号に限局的な信号欠損として描出される。
図27.膀胱のT2*アーチファクトの例。造影剤投与前の骨盤領域の横断像では、膀胱内に均一なMRI信号がみられる(A)。投与から数分後に、造影剤は腎臓を介して膀胱へ到達する。膀胱内の造影剤濃度が高くなり、臥位になっている患者の膀胱の下方領域に造影剤の沈降がみられる(B)。溜まった尿中の造影剤濃度が高いため、この領域では造影剤のT2*減衰が優勢となっている。迅速に信号の分散が起こり、その結果膀胱内に溜まった尿の一部が低信号として描出されている(B)。
なぜこのアーチファクトが生じるのか--解明--
例えば、T2*アーチファクトは胸部の造影MRA施行中に生じる可能性がある。ガドリニウム系造影剤は、患者の血管中で希釈されていくが、造影剤投与側の上腕静脈の肩関節の高さでは高濃度で存在している。すべての動脈は高信号となり造影される。しかし造影剤投与側の上肢の静脈では、局所の造影剤濃度が相対的に高いため、造影剤のT2*による信号減衰が優勢となり信号欠損をきたす。結果としてこの部位の上肢の静脈に磁化率アーチファクトが生じ、このアーチファクトは上肢の静脈を超えて広がり、近くにある鎖骨下動脈にも限局的な信号欠損をきたす。これが狭窄または閉塞と誤解される可能性がある。
どうすればこのアーチファクトを回避できるのか--除去--
このアーチファクトは特定の検査で非常に特徴的な所見を呈し、造影MRAで造影剤投与側にのみ起こり、通常は鎖骨下動脈にみられる。このため、この血管の領域では注意深く観察する必要があり、T2*アーチファクトの可能性を考慮するべきである。