MRIで生じるアーチファクト
認識、解明、除去 Harald H. Quick
アーチファクト例 - インプラント
患者体内に留置された金属製インプラントは、MRI検査で非常によくみられるアーチファクトの原因となる。インターベンションや外科的処置において新たなデバイスが次々と登場するため、今日では多くの患者が体内にインプラントが留置されている場合があり、その機能、材料、構造、部位は様々である。インプラントの例をいくつか挙げると、歯科インプラント、血管クリップ、ステープル、血管内コイル、人工血管、人工関節、骨髄釘、外科用ネジ、人工内耳の磁石などがある。インプラントは、材料、構造、患者体内での位置が非常に多様であるため、様々なアーチファクトの原因となる。これらは通常、撮像部位によって画像への影響は異なるが、多くは金属によるアーチファクトである。
金属アーチファクト
どんなアーチファクトか--認識--
金属アーチファクトは、あらゆるタイプの金属異物および金属製インプラント周囲に、大きな信号欠損および歪みとして生じる。これらのアーチファクトにより、金属製インプラントに近い病変の診断がしばしば困難となる(図19および20)。
図19.人工内耳による金属アーチファクト。画像の左側に限局性の信号欠損がみられ、辺縁に多少の高信号を伴っている(A)。この信号欠損は、耳の後ろに埋め込まれた人工内耳インプラントの一部である小さな磁石により生じている。拡散強調画像(ADCマップ)では(B)、信号欠損がインプラントの何倍も大きくなっている。画像(A)は、SEシーケンスによるFLAIR調画像を、図(B)はEPIシーケンスによる拡散強調画像(ADCマップ)を示している。直接比較すると、SEシーケンスは、EPIシーケンスと比べ、磁化率アーチファクトおよび金属アーチファクトの影響が比較的少ないことが分かる。
図20.歯列矯正具からの金属アーチファクト。取り外し不可の歯列矯正具により、顔面骨の近くに、広範囲にわたる幾何学的歪みとともに大きな信号欠損がみられる。MR画像のデータ取得にあたり、歯列矯正具の金属ワイヤーと顔面骨の組織との間に局所的に大きな磁化率の差があり、この部位に通常と比べ強い磁場の乱れが生じる。その結果、著しい画像の歪みが生じ、解剖学的に不明瞭な画像として描出されている。
なぜこのアーチファクトが生じるのか--解明--
血管ステント、外科クリップおよびネジ、人工関節、歯科インプラントおよび歯列矯正具などの金属製インプラントは、インプラントの近くに大きな信号欠損および歪みとして現れ、金属アーチファクトの原因となる。金属アーチファクトは2種類の物理的影響により生じる。金属は磁化率が大きいため、特徴的な信号欠損を伴って、限局的な磁化率アーチファクトを生じる。これは特に、金属製インプラントに強磁性の物質が含まれている場合に顕著である。その場合には、信号欠損が実際のインプラントの何倍もの大きさになる場合がある。金属アーチファクトを生じさせる物理的影響の2つ目は、MR画像データ収集中に、導電性の金属製インプラントで渦電流が生じることである。MR画像の取得に必要となる高速にスイッチングされる傾斜磁場が、インプラントに電流を引き起こし、これによりインプラントの近くに局所的な磁場の乱れが生じる。これらは常にMRI撮像における実際のデータ収集および位置信号のエンコードを不確実にする。結果としてMR画像上のインプラントの近くに、大きな信号分散と画像の欠損が生じる。
どうすればこのアーチファクトを回避できるのか--除去--
SEシーケンスは、GREシーケンスと比べて金属アーチファクトを生じにくい。しかし、インプラントおよび金属異物の近くの金属アーチファクトを完全に除去することは不可能である。アーチファクトを低減し、インプラントの近くの診断を大幅に向上させる別の方法は、金属アーチファクトの低減を目的に新たに開発されたシーケンスを選択することである。これらはフリップ角の調整と物理的方法での補正を用いて信号欠損を低減することができる。