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MRIで生じるアーチファクト

認識、解明、除去 Harald H. Quick

アーチファクト例 - 生理的因子

生理的因子によるアーチファクトは、例えばMRIデータ収集中の呼吸、血流、拍動、患者の体動によって生じる。ここで挙げた生理的因子によるアーチファクトは、非常に特徴的な画像となる。

呼吸性アーチファクト

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どんなアーチファクトか--認識--

胸部および腹部領域のMR画像では、胸壁と皮下脂肪組織からのゴーストが重なった(ghosting:ゴースティング)画像として、明瞭で規則的に繰り返すアーチファクトがしばしばみられる。これらは呼吸性アーチファクトである(図5)。位相エンコード方向に、様々なゴーストがみられる。

図1

図5.呼吸性アーチファクトは、頻度の高い体動アーチファクト例である。高信号で動きのある部位から発生する特徴的なゴーストが、本来の画像上に重なって見える。このようなゴースティングは、常に位相エンコード方向で発生する(この例では身体の前後方向)。これは位相エンコード方向のデータ収集中の体動によって生じる。動きのあった部位のデータは、誤ったもしくは不明瞭な位相情報としてk-spaceに保存され、再構成後に位相エンコード方向においてMR画像の誤った位置に展開される。周期的な呼吸運動は、一定の間隔でゴーストを生じる。

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なぜこのアーチファクトが生じるのか--解明--

これらのアーチファクトは、MRIデータ収集時の胸部および腹部の呼吸運動によって生じる。データ収集時の身体の動きは、MRI信号の位置情報の誤認識につながる。読み取り周波数方向のデータ収集時間は数ミリ秒と高速に完了するが、位相エンコード方向における全てのデータ収集は繰り返し時間と画像マトリックスに従い測定を繰り返すため、はるかに長い時間を要し、この時間内の動きは画像に影響が出やすい。位相エンコード方向では、規則的な呼吸運動がさまざまな形となって画像上にゴーストとして現れる。

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どうすればこのアーチファクトを回避できるのか--除去--

呼吸性アーチファクトは、患者への説明/訓練および検査開始前に患者を楽な姿勢にすることで軽減することが可能である。患者に息を止めてもらうか、呼吸ベルトの使用により、呼吸性アーチファクトを減らすことができる。呼吸ベルトまたはナビゲーターシーケンスを用いることで、患者の呼吸運動とMRIデータ収集とを同期させることができる。データ収集時間が息止め時間を超えるMRI撮像の場合には、ラジアルサンプリングによりk-spaceを充填することで、体動補正機能を利用することができるようになってきている。

拍動アーチファクト

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どんなアーチファクトか--認識-

胸部、腹部、骨盤腔、下肢の横断像では、FOV内で大動脈などの比較的大きな動脈からの拍動アーチファクトが頻繁に生じる(図6および)。拍動アーチファクトは、位相エンコード方向において拍動する動脈の上方または下方に、規則的に等距離に繰り返される高信号のアーチファクトとして認められる。同様のアーチファクトは脊椎の画像でもみられる場合がある(図8)。この場合のアーチファクトは脊柱管内の脳脊髄液の拍動が原因で生じる。

図2

図6.骨盤腔の血管の拍動により、骨盤腔の横断像上に拍動アーチファクトが生じている。他の体動によるアーチファクトと同様に、拍動アーチファクトも位相エンコード方向(この例では身体の前後方向)に生じる。拍動と血流の動きにより、位相エンコード方向に、原因となっている血管の上方および下方に高信号な非連続性のアーチファクトが多数生じている。

図7

図7.大腿の血管の拍動による特徴的なアーチファクトが位相エンコード方向(身体の前後方向)に生じている。拍動と血流の動きにより、MR画像の位相エンコード方向に、アーチファクトの原因となる血管の上方および下方で、高信号な非連続性のアーチファクトが 多数生じている。このような信号成分は、この画像でみられるように体外にも認められる場合がある。

図7

図8.拍動アーチファクトは、脊柱管内で拍動している脳脊髄液(CSF)から生じる場合もある。これは、CSFが非常に高信号に描出される脊椎・脊髄のT2強調画像でみられることが多い。規則的な拍動により、位相エンコード方向(この例では身体の前後方向)に、非連続性のゴーストが等間隔で生じている。

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なぜこのアーチファクトが生じるのか--解明--

動脈血および脳脊髄液は、多くのシーケンスで高信号として観察される。どちらの液体も常に拍動による動きが存在する。MRIの横断像では、血液および脳脊髄液は画像断面に対して直交方向に拍動している。このため、これらの液体のスピンは位相変化を起こす。位相エンコード方向における個々のk-space上のラインに順次データを収集している間、拍動による信号は位相エンコード方向で繰り返され、画像上誤った位置に等距離でエンコードされることになり、画像上に重なった形で現れる。拍動アーチファクトで典型的にみられる高信号は、MR画像の位相エンコード方向に現れる。

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どうすればこのアーチファクトを回避できるのか--除去--

拍動アーチファクトは、例えばECGトリガーを用いて、MR画像のデータ収集を患者の心拍に同期させることで抑制することができる。より簡単で、一般的に普及している方法は、撮像断面に流入する動脈血および静脈血の信号を飽和させる、プリサチレーションパルスを用いる方法である。拍動アーチファクトは常に位相エンコード方向に生じるため、読み取り周波数方向と位相エンコード方向とを入れ替えることで、アーチファクトを画像上より影響の少ない方向に移動することができる。

フローアーチファクト

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どんなアーチファクトか--認識--

フローアーチファクトはあらゆる脈管の近傍に生じる可能性があるが、特に心臓のMRI検査でよくみられる(図9)。これらは高信号で不規則かつ広範囲に画像の劣化を生み、それらは位相エンコード方向へ広がり、本来のMR画像に重なって描出される。拍動アーチファクトと異なり、フローアーチファクトは不規則で、非連続性のゴースト像ではなく、高信号を示す画像のボケ(blurring:ブラーリング)として認められる。

図7

図9.MR撮像と心拍動が同調していないため、心臓領域に広範な体動アーチファクトがみられる。さらに、位相エンコード方向(この例では身体の前後方向)にフローアーチファクトが広く画像に重なっている。心臓は規則的に拍動するが、この動きは非常に複雑であり、この場合には個別の拍動アーチファクトにはならない。/p>

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なぜこのアーチファクトが生じるのか--解明--

動脈、静脈、心臓における血液の流れは、MRI検査中に起きる動きの代表例である。個々のk-space上のラインが順次データを収集中に、血流によって、広範に高信号を呈する構造物がMR画像の位相エンコード方向に描出される。これは拍動と異なり、規則的な動きではない。このタイプの動きは非連続性のゴースト像ではなく、ブラーリングや画像の歪みとして現れる。

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どうすればこのアーチファクトを回避できるのか--除去--

フローアーチファクトは拍動アーチファクトと同様に、隣接する画像面にプリサチレーションパルスを加えることで、大幅に抑制することが可能である。通常、画像面内に流入する血液信号は高信号であるが、これをプリサチレーションパルスで飽和させることでMR画像に障害となるアーチファクトが生じなくなる。