MRIで生じるアーチファクト
認識、解明、除去 Harald H. Quick
MRIの基礎
個々のアーチファクトについて述べる前に、MRI装置がどのように構成されているかを概説する。MRI装置では、電磁場とラジオ波を用いてデータ収集を行い、収集したrawデータを保存し、MR画像に再構成する。
画像取得に欠かせない基本的な要素である、静磁場・傾斜磁場・RFシステムは、構造の種類にかかわらず全てのMRI装置に備わっている。これら3つの主要コンポーネントは、遮蔽空間に設置され、ファラデー箱として作成した検査室のRFシールドにより外部からの電磁干渉から隔離されている。
物理学的には、主磁石は中心部で可能な限り優れた均一性をもって経時的に安定した強静磁場であるB0[T]を生成する。静磁場内で組織中の水素原子核(プロトン)のスピンに分極が生じ、磁化される。超伝導体を用いたガントリーの円柱構造により、磁場中心(磁石のアイソセンター)においてヒトの診断用MRIで通常使用する1.5~3.0テスラの均一性の高い球径磁場が生成される。主磁石の磁場均一性は特定の球径領域に規定されており、通常は直径50cm程度である(図3)。
傾斜磁場システムは、静磁場に置かれた3つの空間方向Gx、Gy、Gzにおいて経時的に変動し、高速に切り替え可能な、できる限り線形性の高い傾斜磁場を生成する。これにより、MRI装置の磁場中心における撮像有効磁場が時間的にも空間的にも調整可能となり、MRI信号の位置をエンコードできるようになる。傾斜磁場勾配は、パラメータである振幅[mT/m]およびスルーレート[mT/m/ms]により決定される。振幅が大きく、スルーレートが大きいほど、MRI検査を短時間で行うことができる。撮像視野(FOV)が広範囲でも歪みの少ない空間的に正確な画像を生成するためには、勾配磁場は3つのすべての空間方向においてできる限り線形である必要がある(図3)。
RFシステムは、MRI検査において水素原子核を励起し、その後、身体の内部から発生するMRI信号を検出するために用いられる。送信の際は、撮像シーケンスにおける共鳴周波数(ラーモア周波数)でのラジオ波(RF)パルスが増幅され、内蔵されたRF送信コイルを介して組織に照射される。受信の際は、多数配置されたRF受信コイルがラーモア周波数でのMRI信号を検出する(図3)。
図3.矢状面から見たMRI装置の構造。外側から内側へ向かって順に、スピン磁化のための静磁場(1.5または3.0テスラなど)を生成するマグネットコイル、MRI信号の位置をエンコードするため経時的および局所的に変動する多様な傾斜磁場を生成するための傾斜磁場コイル、プロトンの励起のためのラジオ波(1.5テスラで64MHzまたは3.0テスラで128MHzなど)を生成するラジオ波(RF)送信コイル。3つのコイル群すべてによって、MRI装置の中心部で撮像用の球径領域が作り出される。磁場中心では、傾斜磁場はほぼ線形であり、静磁場とRF励起は非常に均一である。患者の体内で励起されたスピンに対するRF信号の受信は、撮像する関心領域(FOV)の上または下に配置された1つ以上のRF受信コイルで受信される。アーチファクトの無いMR画像を生成するためには、画像化する身体の関心領域をMRI装置の磁場中心にセッティングする必要がある。検査室はRFシールドが施されたキャビンによって外部からの電磁干渉から保護されている。
MRI装置のハードウェア構成に加え、画像のrawデータ(k-space)の構造とデータ収集について知ることは、様々なアーチファクトの原因、MR画像への影響、それらを回避する方法を理解するために重要である(図4)。MRI信号またはRFエコー信号は、データ収集中に空間周波数のCartesianデータマトリックスにラインごとに充填される。繰り返し時間(TR)のたびに、読み取り周波数方向とk-spaceに充填された新規のラインに沿って新たなエコー信号が生成される。次の繰り返し時間では、撮像シーケンスの位相エンコード方向の傾斜磁場がわずかに変化し、隣接するラインがk-sapceに充填される。すべての位相エンコードが完了し、すべてのエコー信号がrawデータマトリックスに充填されたあと、2次元逆高速フーリエ変換(IFFT)を用いてMR画像が再構成される。MRI信号は空間周波数としてk-spaceにエンコードされており、k-spaceの各ポイントは、MR画像全体で検出される空間周波数をエンコードしている。再構成されたMR画像には、読み取り周波数方向と位相エンコード方向がある(図4)。
MRIのアーチファクトは、読み取り周波数方向または位相エンコード方向のいずれかに沿って生じることが多いため、これらのアーチファクトは画像内の方向から原因を特定できることがある。
MRI信号生成の基礎にある物理的過程は、関連するMRI装置の構成要素である、磁場均一性、傾斜磁場の線形性、RF送受信の感度に大きく依存している。実際の患者の組織分布と一致した、空間的に正確でノイズの少ない高画質なMR画像は、これらの完全な条件下でのみ得られる。
図4.k-spaceからMR画像へ:k-space(rawデータマトリックス)では、MRI信号は系統的に個別のラインに充填される。それぞれの繰り返し時間(TR)でスピンエコー(SE)またはグラディエントエコー(GRE)が生成され、直前に生成されたラインの次段へ各ラインごとにk-spaceに充填される。256×256の画像マトリックスでは、256個の個別エコーに対し、位相エンコード方向のステップに従い徐々に充填される。この場合、256回の繰り返しが必要である。このため位相エンコード方向における画像データの取集は比較的遅く、必然的にMRI検査における撮像時間を決定する因子となっている。また、位相エンコード方向における画像データの収集が遅いことは、体動、拍動、血流といった「動き」が主に位相エンコード方向に影響をきたす理由でもある。一方、読み取り周波数方向におけるエコーからのデータ読み出しは比較的速い。このため読み取り周波数方向において、「動き」はほとんど画質に影響しない。