中枢神経系の造影MRIにおけるガドブトロールの有効性と安全性 ─多施設無作為二重盲検比較試験からの結果─
Safety and Efficacy of Gadobutrol for Contrast-enhanced Magnetic Resonance Imaging of the Central Nervous System: Results from a Multicenter, Double-blind, Randomized, Comparator Study. Gutierrez JE, et al. Magn Reson Insights. 2015; 8:1-10. (Correction: doi:10.4137/MRI.S30060)
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Point of Article
本試験は,ガドテリドールを対照とし,ガドブトロールの有効性および安全性の比較を目的とした多施設無作為化二重盲検第Ⅲ相臨床試験である.本試験の結果から,ガドブトロールは中枢神経系のMRI用造影剤として良好な忍容性が認められた.また,ガドテリドールと比較し,中枢神経系の悪性病変検出における感度・正診度において有意に高い値を示した.
試験概要
対 象 | 2008年6月~2009年4月の間,7ヵ国(51施設)において,臨床症状または過去の画像検査から中枢神経系の造影MRI検査が適応となった男女18歳以上の患者402例が登録された(有効性解析例:336例). |
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試験デザイン | 第Ⅲ相,前向き,多施設共同(オーストリア,オーストラリア,コロンビア,ドイツ,日本,スイス,米国),無作為化,二重盲検,クロスオーバー,ガドテリドール対照. |
試験方法 | 投与方法:ガドブトロール0.1mmol/kgおよびガドテリドール0.1mmol/kgを自動注入器により2mL/秒で静脈内に単回投与後,生食20mLを同速度でフラッシュした. 造影剤の投与順序:患者は初回ガドブトロール投与群と初回ガドテリドール投与群に無作為に割り付けられ(1:1),盲検下で投与をおこなった.2回目の造影剤投与までの間隔は平均4.6日. MRI装置:1.5T 非造影画像:T1強調画像,T2強調画像,FLAIR画像/STIR画像 造影画像:T1強調画像 |
評 価 | 画像評価は,治験担当医および3名の盲検読影医(経験10年以上の神経放射線科医)によっておこなわれた. 主要評価項目:➀造影効果および➁辺縁明瞭度は4段階スケール(1=none~4=excellent),➂内部構造は3段階スケール(1=poor,2=moderate,3=good)により評価(優越性試験).➃検出病変個数(非劣性試験). 副次評価項目:➀画質評価は,盲検化したガドブトロールおよびガドテリドールそれぞれのT1強調画像を2つのモニターに無作為に表示し,盲検読影医により直接比較した.評価スケールは5段階スケール(ー2~+2)で,ガドブトロールの画質がガドテリドールよりも悪い場合は負の値を,ガドブトロールの画質がガドテリドールよりも良い場合は正の値をそれぞれ割り当てた.➁悪性病変の検出感度・特異度・正診度. |
中枢神経系の造影MRIにおけるガドブトロールの有効性と安全性─多施設無作為二重盲検比較試験からの結果─
主要評価項目:ガドブトロール造影画像と非造影画像の比較(優越性および非劣性の検証)
3名の盲検読影医の「造影効果」「辺縁明瞭度」「内部構造」の評価において,ガドブトロール造影画像と非造影画像の組み合せは,非造影画像に対して優越性を示した(p<0.0001,two-sided paired t-test)(表1).
検出病変個数におけるAverage reader(被験者ごとの3名の盲検読影医の平均値の平均)による評価は,非造影画像が8.08,ガドブトロール造影画像と非造影画像の組み合せで8.25,検出病変個数の差は0.17(95%信頼区間:-0.439, 0.780)であった(表2).95%信頼区間の下限値-0.439は,あらかじめ設定した非劣性マージン0.35を3名中1名の盲検医で下回り,非造影画像に対するガドブトロール造影画像および非造影画像の組み合せの非劣性は示されなかったが,補足的解析として実施したノンパラメトリック解析1)により,非劣性が示された(非造影画像に対するガドテリドール造影画像および非造影画像の組み合せについても同様に,補足的解析として実施したノンパラメトリック解析により,非劣性が示された).
表1 非造影画像とガドブトロール造影画像の比較(n=336)
表は横スクロールでご覧いただけます。
非造影画像 | 組み合せ [非造影画像+造影画像] | スコア差 | p値* | |
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造影効果[mean (SD)] | ||||
3名の読影医の平均 | 0.97 (0.15) | 2.26 (0.52) | 1.29(0.56) | <0.0001 |
辺縁明瞭度[mean (SD)] | ||||
3名の読影医の平均 | 1.98 (0.30) | 2.58 (0.43) | 0.60(0.53) | <0.0001 |
内部構造[mean (SD)] | ||||
3名の読影医の平均 | 1.32 (0.24) | 1.93 (0.36) | 0.61 (0.42) | <0.0001 |
*two-sided paired t-tests.
文献Gutierrez JE, et al.のtable 2より一部改変.
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表2 検出病変個数における非造影画像とガドブトロール造影画像の比較
表は横スクロールでご覧いただけます。
非造影画像 | 組み合せ [非造影画像+造影画像] | 検出病変個数の差 | 95%信頼区間 | |
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下限 | 上限 | |||
8.08 | 8.25 | 0.17 | -0.439 | 0.780 |
References
1)Kunz M. Stat Med 33(17):2939-2952, 2014.
ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したものであり,全ての症例が同様の結果を示すわけではありません.
副次評価項目:造影画像の画質・悪性病変検出におけるガドリニウム造影剤間の比較
ガドブトロールおよびガドテリドールによる造影T1強調画像の画質評価では,ガドブトロール造影画像が優れると評価された患者割合は盲検読影医1から順に36%,35.1%,62.2%で,ガドテリドールが優れると評価された患者割合は7.5%,7.5%,24.4%であった(図1).また,3名の読影医の平均スコアは,0.33~0.53であった(各読影医でp<0.0001,Wilcoxon signed-rank test).
悪性病変検出の感度および正診度におけるMajority reader(診断が一致した盲検読影医3名中2名以上)による評価は,ガドテリドールの60.2%,85.6%に対し,ガドブトロールでは66.7%,87.7%で,感度および正診度においてガドブトロールがそれぞれ有意に高い値を示した(p=0.014,p=0.034,Wilcoxon signed-rank test)(図2).一方,特異度はガドテリドールと同様97.5%であった.
肺を原発とする転移性脳腫瘍患者の造影T1強調画像では,ガドテリドール造影画像で同定可能な病変を認めなかったのに対し,ガドブトロール造影画像では信号増強を認めた微小病巣がみられ(図3),全3名の盲検読影医が転移性腫瘍または癌腫症と判断した.
また,神経膠腫と診断された患者の経過観察の評価では,ガドブトロール造影画像はガドテリドール造影画像と比べて,病変の辺縁が明瞭に描出された(図4).
図1 ガドブトロールまたはガドテリドールによる造影画像が優れると評価された割合
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図2 悪性病変検出における 感度・特異度・正診度
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中枢神経系の造影MRIにおけるガドブトロールの有効性と安全性─多施設無作為二重盲検比較試験からの結果─
安全性
ガドブトロール投与で40例(10.0%),ガドテリドール投与で38例(9.7%)に,治験薬と関連性のある有害事象の発現がみられた.
また,重大な有害事象の発現率は,ガドブトロール投与で2例(0.5%),ガドテリドール投与で1例(0.3%)であった.
図3 転移性脳腫瘍症例の造影MRI画像(A:ガドブトロール,B:ガドテリドール)
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図4 神経膠腫症例の造影MRI画像(A:ガドブトロール,B:ガドテリドール)
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結 論
中枢神経系の造影MRIにおいて,ガドブトロールは有効で良好な忍容性を示す造影剤であることが第Ⅲ相試験より示された.非造影画像に対して,ガドブトロール造影画像は造影効果,辺縁明瞭度,内部構造の評価において有意な向上がみられた.また,ガドテリドールとの比較では,悪性病変検出における感度・正診度において有意に高い値を示した.
PP-GAD-JP-0442-20-11