化学療法後に消失した大腸癌肝転移のマネジメント
Management of disappearing lesions after chemotherapy for colorectal liver metastases: Relation between detectability and residual tumors
Tani K, et al. J Surg Oncol. 2018; 117: 191-197.
効能又は効果、用法及び用量、警告、禁忌を含む使用上の注意につきましては、添付文書をご参照ください。
Point of Article
大腸癌肝転移(CLM)に対する術前化学療法では,多くの症例で腫瘍の縮小が認められるが,それと同時に,CT画像上で消失する(検出不能となる)肝転移病変(disappearing liver metastases:DLM)が存在し,その頻度については7~37%と報告されている1-6).化学療法後の腫瘍縮小は,化学療法への反応性に関する指標として高い信頼性を有することが報告されているが7,8),一方で,CTでDLMと診断された部位において,遺残病変あるいはその後の早期再発が見られた割合が約80%であったとの報告がある1).そのため,DLMを切除しなかったり,アブレーション治療が行われなかった場合に再発のおそれがあると考えられる.近年,こうしたDLMを高い感度で検出するため,様々な画像診断が応用されている.
本研究では,CLMに対する術前化学療法後のDLMの検出能について,EOB-MRIと術中造影超音波検査(CE-IOUS)との後ろ向きによる比較検討を行った.その結果,化学療法後のDLMに対する正診率は, CE-IOUSで0.68だったのに対し, EOB-MRIでは0.88であった.
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対 象 |
2010年1月~2014年12月までに,CLMに対する化学療法後に根治的肝切除が施行された82例(いずれの症例も造影CTにてCLMと診断され,化学療法施行後にCLMの切除可否決定のため造影CT及びEOB-MRIを施行) |
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試験デザイン | 後ろ向き観察研究 |
試験方法 |
造影CTでCLMと診断された症例に対する化学療法施行後,造影CT画像上の病変消失を示す場合をDLMと定義し,それらを対象に,EOB-MRI及びCE-IOUSの検出能の比較を行った.さらに,DLM切除の可否,切除DLMにおける遺残病変の有無,経過観察中の非切除DLMでの腫瘍再増大の有無について評価した.切除DLMにおける遺残病変及び非切除DLMにおける腫瘍再増大は,切除病変の病理組織学的検査及び臨床所見に基づき確定した.なお,“化学療法前に病変が存在し,その後の造影CTで病変消失が確認された箇所周辺に認められた肝内再発”を腫瘍再増大と定義した. 術前画像診断 造影CTでCLMと診断された症例に対する化学療法施行後,CLMの切除可否を決定するため,EOB-MRI及び造影CTを施行した.
開腹時に超音波検査を施行し,術前に検出された病変の確認及び他の病変の探索を行った.続けて,造影超音波により肝臓全体をスクリーニングした.
DLMへの対応 DLMへの基本的対応は,CE-IOUSで検出可能な病変は全て切除を行い,そうでない病変も解剖学的ランドマーク(肝区域,肝内血管構造)をもとに可能であれば切除した.またアーチファクト等との鑑別が困難な場合,CE-IOUSによるKupffer相で欠損像として検出され,かつ必要な肝予備能が保持されている場合には切除した.再発評価のための経過観察では,腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)を1-2ヵ月ごとに測定し,さらには3-6ヵ月ごとにEOB-MRI又は造影CTを施行した. |
評 価 |
評価項目: ➀EOB-MRI,CE-IOUSのDLM検出能 DLMと判定された全病変を対象に,EOB-MRI及びCE-IOUSのDLM検出率を比較した. ➁EOB-MRI,CE-IOUSのDLM検出による臨床的アウトカム DLMを対象に,EOB-MRI,CE-IOUSのDLM検出/非検出による臨床的アウトカム(DLM切除の可否,切除DLMにおける遺残病変の有無,経過観察中の非切除DLMの再増大の有無)の評価を行った.
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対象患者82例において,化学療法施行前の造影CTで,619の肝転移病変が確認された.そのうち20例において,111病変(17.9%)が,化学療法施行後の造影CTで検出不能となったため,それらをDLMと判定した.DLM有無別の患者背景を表1に示す.DLMを認めた群では,そうでない群に比べ病変数が有意に多く(p<0.0001),最小腫瘍径が有意に小さかった(p<0.0001).両群間で生物学的製剤の使用比率に有意な差は見られなかったが,DLMを認めた群では,オキサリプラチンを含むレジメンによる治療が行われた症例数が有意に多く(p=0.017),一方,イリノテカンを含むレジメンによる治療が行われた症例数は有意に少なかった(p=0.047).
表1.DLM有無別の患者背景
DLM 有り(20例) | DLM 無し(62例) | p値 | |
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年齢*〔範囲〕,歳 |
57.5〔34-77〕 | 65〔31-87〕 | 0.057 |
男/女,例 |
10/10 | 34/28 | 0.799 |
原発巣(結腸/直腸),例 |
13/7 | 42/20 | 1.000 |
肝転移病変数*〔範囲〕,個 |
14.5〔4-39〕 | 3.5〔1-30〕 | <0.0001 |
最大腫瘍径*〔範囲〕,cm |
3.3〔1.2-10.0〕 | 3〔0.9-21.0〕 | 0.888 |
最小腫瘍径*〔範囲〕,cm |
0.6〔0.4-2.0〕 | 1.4〔0.3-13.0〕 | <0.0001 |
化学療法ライン数*〔範囲〕 |
1〔1-2〕 | 1〔1-4〕 | 0.689 |
化学療法サイクル数*〔範囲〕 |
7〔4-27〕 | 7〔1-59〕 | 0.607 |
使用薬剤〔%〕,例 |
|||
オキサリプラチン |
20〔100〕 | 47〔75.8〕 | 0.017 |
イリノテカン |
2〔10.0〕 | 21〔33.9〕 | 0.047 |
ベバシズマブ |
11〔55.0〕 | 34〔54.8〕 | 1.000 |
セツキシマブ又はパニツムマブ |
8〔40.0〕 | 22〔35.5〕 | 0.792 |
肝切除(系統的/非系統的),例 |
9/11 | 32/30 | 0.798 |
χ2検定,フィッシャーの正確確率検定
*中央値
対象患者82例に対する化学療法後,EOB-MRI及びCE-IOUSが施行されたが,EOB-MRI及びCE-IOUSはいずれも,化学療法施行後の造影CTで検出された508の肝転移病変全てを検出した.また造影CTで検出されなかったDLM111病変のうち43病変(38.7%)は,EOB-MRI及びCE-IOUSのいずれにおいても検出されたが,21病変(18.9%)はEOB-MRIでのみ,19病変(17.1%)はCE-IOUSでのみ検出された.なお残りの28病変(25.2%)はいずれにおいても検出されなかった.
EOB-MRI,CE-IOUSのDLM検出による臨床的アウトカム
DLM111病変に対し,EOB-MRI,CE-IOUSのDLM検出/非検出によるDLM切除の可否,切除DLMにおける遺残病変の有無,経過観察中の非切除DLMにおける腫瘍再増大の有無について評価を行った(図1).
DLM111病変を認めた20例に対し,78病変(70.3%)が切除されたが,残りの33病変(29.7%)は同定不能であったため切除されなかった.切除されたDLM78病変のうち54病変(69.2%)では,病理組織学的検査にて遺残病変が確認された.また非切除DLM33病変については,経過観察(中央値27.2ヵ月,範囲:7.3-56.7ヵ月)の結果,11病変(33.3%)で再増大(中央値7.9ヵ月,範囲:1.2-30.9ヵ月)が確認された.
図1.EOB-MRI,CE-IOUSによるDLM検出に基づく分類ダイアグラム
DLM111病変における,切除DLMでの遺残病変・非切除DLMでの腫瘍再増大の割合について表2に示す.EOB-MRI及びCE-IOUSの双方で検出されたDLM43病変全てで遺残病変を認めた.またEOB-MRIのみで検出されたDLM21病変についても,遺残病変あるいはその後の経過観察で腫瘍再増大を認めた割合は70%以上であった.一方,CE-IOUSでのみ検出されたDLM19病変の場合では15.8%,双方で検出されなかった場合では14.3%という結果であった.次に,DLMにおけるEOB-MRI,CE-IOUSによる遺残病変・腫瘍再増大の診断能について表3に示す.EOB-MRIの陽性尤度比は6.84,陰性尤度比は0.12であり,EOB-MRIがDLMに潜在する遺残病変・腫瘍再増大に対し高い検出能を有する可能性が示唆された.
表2.切除DLMの遺残病変・非切除DLMでの腫瘍再増大の割合
病変数 | 病変数に対する遺残病変あるいは腫瘍再増大の割合 | |
---|---|---|
EOB-MRI、CE-IOUSの双方で検出される |
43 | 43/43(100%) |
EOB-MRIのみで検出される |
21 | 15/21(71.4%) |
CE-IOUSのみで検出される |
19 | 3/19(15.8%) |
EOB-MRI、CE-IOUSの双方で検出されない |
28 | 4/28(14.3%) |
表3.DLMにおけるEOB-MRI,CE-IOUSによる遺残病変・腫瘍再増大の診断能
EOB-MRI | CE-IOUS | |
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感度 | 0.89 | 0.71 |
特異度 | 0.87 | 0.65 |
正診率 | 0.88 | 0.68 |
陽性尤度比 | 6.84 | 2.03 |
陰性尤度比 | 0.12 | 0.45 |
本研究では,化学療法後の造影CT画像上の消失病変(DLM)について,EOB-MRI及びCE-IOUSの検出能の比較を行った.さらに両モダリティによる切除DLMにおける遺残病変及び非切除DLMにおける腫瘍再増大の診断能についても比較した.その結果,EOB-MRI及び/又はCE-IOUSで検出されたDLMにおいて,病理組織学的あるいは臨床所見に基づく評価により,遺残病変・腫瘍再増大が確認された割合は73.5%を占め,特に,EOB-MRIで検出されたDLMで割合が高かった.
DLMの頻度については,これまでに5~38%と報告されており1-5,9),本研究でも17.9%という結果であった.しかしながら,本研究の結果も示す通り,画像診断に基づく化学療法後の完全寛解(CR)と病理学的完全寛解(pCR)は同等ではない.画像診断によるCRは画質等に大きく左右され,pCRとの一致度はこれまでに20~100%と報告されている1-3,9).そのため,DLMへの対応には注意が必要であり,追加画像診断によるDLMの検出を行い,切除することが望まれる.MRIはCTに比べて術前のCLMの評価に優れると報告され10),またMRIにおけるDLMの非検出はpCRと高い相関を示すことも報告されている5).本研究におけるEOB-MRIでは,DLM中の遺残病変検出において高い陽性尤度比と低い陰性尤度比を同時に達成しており(表3),既存の報告を裏付ける可能性を示した.
実際には,DLMが術前の他の画像診断で同定されていた場合であっても,IOUSで検出されない病変を切除することは容易でない.CE-IOUSはDLMの検出能が触診や非造影超音波に比べて高いと報告されているが11),本研究ではDLM111病変のうち49病変はCE-IOUSで同定されず,そのうち33病変(67.3%)は切除されなかった.
33病変のうち11病変(33.3%)では,経過観察期間中に腫瘍の再増大を認めた.この11病変のうち9病変は術前のEOB-MRIで検出されたことを考慮すると,術前のEOB-MRIで検出されたDLMの患者に対し,肝切除時に最大限の切除を試みるほか,術後の十分なアジュバント療法を考慮するとともに,少なくとも注意深い経過観察が必要と考えられる.
以上のことから,実践的には術前のEOB-MRIでDLMを可能な限り検出した上で,術中の触診やCE-IOUS等により慎重に病変を探索することが妥当だと判断される.また技術的に切除可能であれば,EOB-MRIあるいはCE-IOUSで検出された全ての病変を切除することが望ましい(図2).肝切除に当たっては,たとえCE-IOUSで検出されなかった場合でも,EOB-MRIで検出されたDLMは腫瘍再増大の可能性が高い(表2)ことから,EOB-MRIはDLMを有する患者のリスクの層別化に使用可能と思われる.
本研究における結論として,化学療法後,造影CTにてDLMと判断された症例における遺残病変の検出において,EOB-MRIはCE-IOUSよりも優れる(表3).また,EOB-MRIで検出されたDLMに対しては,肝切除時に最大限の切除の試みが必要とされる.
図2.DLMに対する治療アルゴリズム
※カッコ内の数値は,本試験の結果を治療アルゴリズムに当て嵌めた場合の“遺残病変・腫瘍再増大が占める割合”を示す
※本論文のデータに一部誤りがあり、後日修正版※がpublishされております。この資材では修正版のデータを使用しています。
J Surg Oncol 2018 Nov 118(6) 1058)
References
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