神戸大学医学部附属病院 放射線診断・IVR科
矢部 慎二 先生 祖父江 慶太郎 先生 村上 卓道 先生
肝細胞癌は世界で6番目に多い癌種であり, 癌関連死亡原因の第2位を占めている1). 慢性肝炎や肝硬変は肝細胞癌の発症リスクと関連しており,これらの患者では早期診断のために系統的なスクリーニングやサーベイランスが推奨されている.
EOB・プリモビスト注®シリンジは, シエーリングAG(現バイエルAG)が開発したガドキセト酸ナトリウム(以下, Gd-EOB-DTPA)を有効成分とするMRI用造影剤であり, 2008年に本邦で発売されて以来,肝腫瘍の診断に広く用いられている. Gd-EOB-DTPAは従来の細胞外液性造影剤における血流評価に加え, 肝細胞膜トランスポーター(OATP1B3)による正常肝細胞への取り込みを反映した肝細胞相の評価が可能である. 肝細胞相では, 正常肝実質とGd-EOB-DTPAが取り込まれない病変部の間で高いコントラストが得られるために, 特に小病変で高い検出感度及び診断能を有している2,3). このため,Gd-EOB-DTPA造影MRIは, 肝細胞癌の早期診断・精密診断において不可欠な役割を担っている.
前述のように, Gd-EOB-DTPA造影MRIでは他のmodalityでは同定が難しい小病変の評価が可能であるが, 同時に画像診断医には詳細で正確な評価が要求され, 診断医の経験などにより診断結果が左右されるという課題も存在している. 近年の画像診断医の負担増大,また地域による専門医の偏在などへの対応策として, 人工知能(Artificial Intelligence:AI)を用いた画像診断支援への活用が期待されている. AIによる画像診断支援では, 実際の症例画像を用いてディープラーニングに代表される
機械学習を行い, 高精度な病変検出機能の実現のために各分野で研究が進められている. AIによる画像診断支援を用いて画像診断医が診断を行うことで, 医師の負担軽減や病変の見落とし減少につながる可能性がある. Cal.Liver.Lesionは, 神戸大学大学院医学研究科放射線医学分野と株式会社HACARUSの共同研究のもと, 株式会社HACARUSにより開発された.Cal.Liver.Lesionは, 標準的なGd-EOB-DTPA造影MRI検査で撮像された画像から, 周囲と比べ信号値の異なる領域を自動抽出してその度合いを0.0~1.0で表し, 0.5以上である領域をMRI画像上でカラー表示したカラーマップを作成することで抽出領域の腫瘍視認性向上を図るプログラム医療機器である.高い診断能を有する
Gd-EOB-DTPA造影MRIとAIによる画像診断支援技術を組み合わせることで,より正確で適切な肝細胞癌サーベイランスの実現が期待される.
Achieva 3.0T/Philips Medical Systems
T1WI in/out of phase |
T2WI | DWI b=0,500,1000 (sec/m㎡) |
Dynamic study (造影前,動脈相, 門脈相,移行相) |
肝細胞相 (20min) |
|
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シークエンス | 2D-GRE Dual echo |
FSE | SE-EPI | 3D-GRE | 3D-GRE |
TR(msec) | 197 | 呼吸周期 | 呼吸周期 | 2.9 | 3.0 |
TE(msec) | 1.2/2.3 | 100 | 62 | 1.4 | 1.5 |
FA(deg) | 65 | 90 | 90 | 10 | 15 |
脂肪抑制 | 無 | 有 | 有 | 有 | 有 |
息止め | 有 | 無 | 無 | 有 | 有 |
FOV(mm) | 380 | 380 | 380 | 380 | 380 |
Matrix | 240×168 | 320×256 | 128×128 | 304×198 | 368×294 |
スライス厚/Gap(mm) | 6/0 | 6/0 | 6/0 | 4/0 | 4/0 |
撮像時間 | 17s | 2m48s | 3m36s | 15s | 18s |
造影剤はEOB・プリモビストを使用し, 投与量0.025mmol/kg, 投与速度1mL/sで投与後, 生理食塩水20mLで後押しを行った. Dynamic studyは, Fluoroscopic triggering techniqueを使用し, 動脈相(造影剤注入27-40秒後), 門脈相(同70秒後), 移行相(同120秒後)を撮像した.肝細胞相は造影剤注入20分後に撮像を行った.
70歳代男性. C型慢性肝炎に対して加療後で画像による経過観察が行われていた.
肝S8に15mmの腫瘤性病変を認める( ). 脂肪抑制T2強調画像で淡い高信号を示し, 拡散強調画像では高信号を示す(図1). Gd-EOB-DTPAによるダイナミック造影では, 動脈相での早期造影効果と門脈相でのwashoutを示し,移行相/肝細胞相では周囲肝実質と比較して低信号を呈しており(図2), 肝細胞癌と診断された.
図1
図2
Cal.Liver.LesionでのAI自動解析では, 周囲と比べて信号値の異なる度合いが強いことを示す高いスコア(0.973±0.025、病変全体0.947±0.035)で抽出された(図3). 20mm未満の小肝細胞癌であっても典型的な画像所見を示す多血性肝細胞癌であれば, 視覚的に認識しやすい表示がなされていることが分かる.
図3
80歳代男性. 近医で肝腫瘍マーカー(AFP)高値を指摘され, 精査となった.
脂肪抑制T2強調画像で肝S3に37mm( ), S5に10mm( )の淡い高信号を呈し, 拡散強調画像で高信号を示す結節を認める(図1). Gd-EOB-DTPAによるダイナミック造影では動脈相での早期造影効果と門脈相でのwashoutを示し, 移行相/ 肝細胞相で低信号を呈する(図2). 肝細胞癌の診断で手術が施行され, 組織学的にも肝細胞癌と確認された.
図1
図2
Cal.Liver.LesionでのAI自動解析では, S3病変は高いスコア(0.888±0.131、病変全体0.991±0.046)で抽出されたが, S5病変は抽出できなかった(図3). S5病変が抽出できなかった原因として, 小さな病変かつ特徴的な画像所見がやや不明瞭な病変であったためと推察される.
図3
70歳代男性. 肝機能障害のフォロー中にエコーで肝腫瘤を指摘され, Gd-EOB-DTPA造影MRIが撮像された.
肝S8に78mmの腫瘤を認め( ), ダイナミック造影の動脈相で早期造影効果と門脈相でwashoutを示す多血性肝細胞癌と診断された(図1). また, S3にも20mmの淡い脂肪抑制T2強調画像で高信号を示し, 拡散強調画像でごく淡い高信号を呈する腫瘤を認める( ) . ダイナミック造影では動脈相では早期造影効果は明らかではないが門脈相でwashoutを示し, 移行相から肝細胞相にかけて周囲肝と比較して不均一な低信号を示す. S3病変は経過観察で増大及び多血化が見られ, 組織学的に肝細胞癌と診断された(図2)
図1
図2
Cal.Liver.LesionでのAI自動解析では, S8病変は高いスコア(0.961±0.092、病変全体0.949±0.067)で多血性肝細胞癌の指摘箇所が抽出された(図3). また, S3病変は中等度のスコア(0.841±0.033、病変全体0.717±0.117)で抽出された. 多血性肝細胞のみならず, 乏血性肝細胞癌に対しても病変抽出ができていた. 乏血性肝細胞癌では,動脈相での早期造影効果など, 多血性肝細胞癌と比べて正常肝実質との信号差が乏しいことからスコアは低下したものと推察される.
図3
ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したものであり, 全ての症例が同様の結果を示すわけではありません.
また,製品版で作成されるカラーマップはSC画像であり,スコアを定量測定することはできません.
1)Tang, An, Oussama Hallouch, Victoria Chernyak, Aya Kamaya, and Claude B. Sirlin. “Epidemiology of Hepatocellular Carcinoma: Target Population for Surveillance and Diagnosis.” Abdominal Radiology (New York) 43 (1): 13‒25. 2018.
2)Haradome, Hiroki, Luigi Grazioli, Rita Tinti, Mario Morone, Uta roh Motosugi, Katsuhiro Sano, Tomoaki Ichikawa, Thomas C. Kwee, and Stefano Colagrande. “Additional Value of Gadoxetic Acid-DTPA-Enhanced Hepatobiliary Phase MR Imaging in the Diagnosis of Early-Stage Hepatocellular Carcinoma: Comparison with Dynamic Triple-Phase Multidetector CT Imaging.” Journal of Magnetic Resonance Imaging: JMRI 34 (1): 69‒78. 2011.
3)Ichikawa, Tomoaki, Katsuhiro Sano, and Hiroyuki Morisaka. “Dia gnosis of Pathologically Early HCC with EOB-MRI:Experiences and Current Consensus.” Liver Cancer 3 (2): 97‒107. 2014.
管理医療機器 MR装置ワークステーション用プログラム
販売名 画像解析ソフトウェア Cal.Liver.Lesion
認証番号 304AGBZX00095000
製造販売業者 株式会社HACARUS