症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断

施設名: 東京医科大学病院
執筆者: 放射線医学分野 山本 真美 先生、石田 尚利 先生、齋藤 和博 先生
作成年月: 2025年11月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

症例背景

40歳代、男性、100kg、肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症

検査目的

左下腿浮腫、疼痛、労作時息切れあり精査目的に造影CT施行

使用造影剤

イオプロミド370注シリンジ100mL「BYL」/ 87mL

症例解説

症例は40歳代男性。左下腿の浮腫、疼痛と労作時息切れを認め、血液検査にて血清D-dimerが高値であったため、肺血栓塞栓症の精査目的に造影CTが施行された。両側肺動脈と両側下肢静脈に造影欠損域を認め、それぞれ肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症が考えられた。その後、抗凝固療法が施行されて血栓は縮小し、退院となった。

画像所見

図1.肺動脈相(70keV)
右肺動脈中枢側~上葉枝に造影欠損域を認める。

図2.肺動脈相(70keV)
右肺動脈下葉枝に造影欠損域を認める。

図3.肺動脈相(70keV)
左肺動脈下葉枝に造影欠損域を認める。

図4.静脈相(50keV)
左浅大腿静脈に造影欠損域を認める。

図5.静脈相(50keV)
両側膝窩静脈に造影欠損域を認める。

図6.ヨードマップ
両側膝窩静脈に造影欠損域を認める。

撮影プロトコル

表は横スクロールでご覧いただけます。

使用機器CT機種名/メーカー名Revolution CT / GEヘルスケア
CT検出器の列数/スライス数256 / 256
ワークステーション名/メーカー名AW workstation 4.7 / GEヘルスケア

撮影条件

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撮影時相単純肺動脈相静脈相
管電圧 (kV)12080-14080-140
AECAuto mAAuto mAAuto mA
(AECの設定)ononon
ビーム幅(mm)808080
撮影スライス厚(mm)0.6250.6250.625
焦点サイズLargeLargeLarge
スキャンモードHelicalHelicalHelical
スキャン速度(sec/rot)0.50.50.5
ピッチ0.9920.9920.992
スキャン範囲胸部胸部上腹部から足先
撮影時間 (sec)449
撮影方向頭→足頭→足頭→足

再構成条件

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 単純肺動脈相静脈相
ルーチン:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)555
ルーチン:再構成関数/逐次近似応用法DLIRDLIRDLIR
3D/MPR用:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)0.6250.6250.625
3D/MPR用:再構成関数/逐次近似応用法DLIRDLIRDLIR
※追加項目欄カラーマップ作成

造影条件

自動注入器機種名/メーカー名Dual shot GX7 / 根本杏林堂
造影剤名イオプロミド370注シリンジ

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撮影プロトコル肺動脈相静脈相
造影剤:投与量 (mL)87
造影剤:注入速度 (mL/sec)、注入時間 (sec)4.0、22
生食:投与量 (mL)なし
生食:注入速度 (mL/sec)、注入時間 (sec)なし
スキャンタイミングBT法
ディレイタイムトリガーHU50、造影剤が肺動脈に来たらすぐ注入後210sec後
留置針サイズ (G)22
注入圧リミット (kg/cm2)8.0

当該疾患の診断における造影CTの役割

肺血栓塞栓症(PE)の診断にはCTが第一選択となる。肺血栓塞栓症の原因の多くは深部静脈血栓症(DVT)であるため、PEが疑われる場合には速やかにDVTの検索も同時に行われることが望ましい。DVTの検査法としては、超音波検査も挙げられるが、胸部の肺動脈相を撮像の後に骨盤部~下肢の静脈相を撮像することで一度に塞栓源の検索が可能となる。これにより速やかな診断と方針決定に寄与することができる。CTではPE、DVTともに血管内の造影欠損を確認することにより診断となる。その他、右心系の負荷評価や他疾患の鑑別も容易になること、低侵襲的に検査できるといった点がCTの利点として挙げられる。一方で、末梢の微小血栓が描出困難な場合や呼吸変動によるアーチファクトで画質低下が生じることがある。また被曝量が比較的多く、臨床情報から適応を判断することが重要である。

CT技術や撮像プロトコル設定について

GEヘルスケア製Revolution CTに搭載されたDual-Energy CT(DECT)は、140kVpと80kVpの2種類の管電圧を瞬時に切り替える「fast kVp switching」方式を採用している。2種類のエネルギー情報を利用することで血栓と造影剤を明瞭に識別できるため、従来のSingle-Energy CT (SECT)に比べて微小塞栓の検出感度が向上する。またDECTではヨードマップを作製することも可能である。ヨードマップとは得られた造影剤の分布・濃度を色分け画像で可視化するもので、臨床的には血流低下部位や腫瘍・炎症部の灌流度を定量評価できる点が大きな意義となる。本症例においても、例えば両側膝窩静脈に造影欠損域を認め、ヨードマップではより視認性を持って、血栓の存在を確認することができる。