症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

外傷性血気胸による肺内血管外漏出

施設名: JA尾道総合病院
執筆者: 放射線科 森 浩希 先生
作成年月:2025年7月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

症例背景

80歳代、女性、42kg、外傷性血気胸、肺挫傷

検査目的

自動車運転中の自損事故、多発外傷

使用造影剤

イオプロミド300注シリンジ100mL「BYL」/ 84mL

症例解説

CTでは多発肋骨骨折、外傷性血気胸、肺挫傷、胸壁内気腫が認められた。
挫傷した肺内には結節状構造がみられ、肺気瘤の形成が示唆される。造影CTではこの内部に点状の濃染影が認められ、肺実質内血管外漏出(extravasation in the lung:EVIL)が疑われた。

画像所見

図1.単純CT肺野条件
肋骨骨折、血気胸、肺挫傷が認められる。矢印は肺気瘤

図2.単純CT縦隔条件
矢印は肺気瘤

図3.造影CT動脈相
肺気瘤の内部に血管外漏出が認められる(矢印)

図4.造影CT平衡相
肺気瘤内の血管外漏出が持続して認められる(矢印)

図5.造影CT平衡相(胸部冠状断像)
肺気瘤内の血管外漏出(矢印)

撮影プロトコル

表は横スクロールでご覧いただけます。

使用機器CT機種名/メーカー名Discovery CT750HD /GE
CT検出器の列数/スライス数64
ワークステーション名/メーカー名

撮影条件

表は横スクロールでご覧いただけます。

撮影時相単純動脈相平衡相
管電圧 (kV)120120120
AECありありあり
(AECの設定)NI:11.5NI:11.5NI:11.5
ビーム幅 (mm)404040
撮影スライス厚 (mm)555
焦点サイズLargeLargeLarge
スキャンモードHelicalHelicalHelical
スキャン速度(sec/rot)0.50.50.5
ピッチ0.9890.9890.989
スキャン範囲胸部~骨盤胸部~骨盤胸部~骨盤
撮影時間 (sec)101010
撮影方向頭→足頭→足頭→足

再構成条件

表は横スクロールでご覧いただけます。

 単純動脈相平衡相
ルーチン:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)5 / 55 / 55 / 5
ルーチン:再構成関数/逐次近似応用法Std ASiR-V 40%Std ASiR-V 40%Std ASiR-V 40%
3D/MPR用:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)0.625 / 0.6250.625 / 0.6250.625 / 0.625
3D/MPR用:再構成関数/逐次近似応用法Std ASiR-V 40%Std ASiR-V 40%Std ASiR-V 40%

造影条件

自動注入器機種名/メーカー名
造影剤名イオプロミド300注シリンジ

表は横スクロールでご覧いただけます。

撮影プロトコル動脈相平衡相
造影剤:投与量 (mL)84 (600mgI/kg)
造影剤:注入速度(mL/sec)、注入時間 (sec)2.8、30
生食:投与量 (mL)
生食:注入速度 (mL/sec)、注入時間 (sec)
スキャンタイミングBT法(腹部大動脈/200HU)
ディレイタイム動脈相後70秒
留置針サイズ (G)20
注入圧リミット (kg/cm2)10.0

当該疾患の診断における血管造影の役割

肺挫傷や血気胸は単純CTでも確認できるが、造影CTを追加することで肺内血管外漏出(EVIL)の有無を確認することができる。
血管外漏出は活動性出血の存在を示唆する兆候で、外傷時のCTではまず確認すべき重要な所見である。腹部や骨盤部での血管外漏出は直ちに手術やIVRの適応になることが多いので、読影の際に見落としてはならない所見として認知されているが、肺挫傷で血管外漏出の有無を確認することの重要性はあまり知られていない。
肺挫傷では肺組織に含まれる組織因子が血管内に遊離することで凝固外因系の活性化が生じる。これによりトロンビンの活性化からフィブリン血栓形成が始まり、二次線溶反応が起こる。肺挫傷の場合は出血だけでなく、ショックやアシデミア、低体温が加わりやすく、線溶反応の亢進や著明な出血傾向に陥りやすくなる。つまり広範な肺挫傷やEVILを認めた場合には、凝固破綻に移行しやすくなることを想定して治療にあたる必要がある。

CT技術や撮像プロトコル設定について

本CT装置は64列のマルチスライスCTである。検出器は4cm幅のため、冠動脈や全脳パーフュージョンの撮影には適していないが、躯幹部での動脈相撮影には充分対応できる。動脈相で確実に撮影するためにボーラストラッキング法を採用している。造影剤量は600mgI/kgとすることで、可能なかぎり量を減らすようにしている。

参考文献

妹尾聡美:外傷CT読影-ここに注意!.画像診断Vol.44 No.4増刊号109-116.2024.

使用上の注意【電子添文より抜粋】

  • 9.特定の背景を有する患者に関する注意

    9.8 高齢者
    患者の状態を観察しながら使用量を必要最小限にするなど慎重に投与すること。本剤は主として、腎臓から排泄されるが、高齢者では腎機能が低下していることが多いため、高い血中濃度が持続するおそれがある。[8.6、9.2.1、9.2.2 参照]