症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

pilocytic astrocytomaの1例

施設名: 公立館林厚生病院
執筆者: 放射線診断科 遠山 兼史 先生
作成年月:2025年6月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

pilocytic astrocytomaは、よく分化したastrocytomaの亜型であり、小児~若年成人に多く発生し、小脳や視神経に多く発生することが多いが、脳幹や大脳発生も報告されている。WHO grade 1の腫瘍であり、完全摘出できれば長期予後が望める一方で、不完全な摘出では再発することがある。術前の画像検査にて局在を見極めることが重要である。

ガドビストを用いたMRI検査の方法

手順と撮像 Sequence Parameter

手順と撮像 Sequence Parameter

撮像パラメータ

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撮像名撮像シーケンス撮像時間TR
(msec)
TE
(msec)
TI
(msec)
FA
(deg)
b-value
(sec/mm2)
Fat Sat
(種類)
ETL,TF
(数)
Parallel
Imaging
(倍速数)
NEX,Averages
(加算回数)
flair traFLAIR2:42900011425001701821
diffusion
resolve
DWI1:464800731801000CHESS8221
t1 starvibe
fs sag
T1WI 3D3:443.291.89CHESSnonenone1
t2 tse traT2WI2:12400085160922
t2 tse tra
3mm
T2WI2:0335008717012none1
t1 tse tra
3mm
T1WI2:06539131603none1
t1 se tra
fc ce
造影T1WI2:504001780nonenone1
t1 se sag
fc ce
造影T1WI3:394001780nonenone1
t1 se cor
fc ce
造影T1WI3:124001780nonenone1
Gd t1 tse
tra 3mm
造影T1WI2:06539131603none1
t1 starvibe
fs sag ce
造影T1WI 3D3:443.291.89CHESSnonenone1

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撮像名FOV
(mm)
面内分解能
(mm)
リード方向
(matrix数)
位相方向
(step数)
Slice厚
(mm)
Slice Gap
(mm)
Slice枚数Deep Learning Recon
(有無)
flair tra2201.01×0.86AP 256RL(85%) 1977221none
diffusion
resolve
2201.35×1.15AP 192RL(70%) 1637221none
t1 starvibe
fs sag
2500.98×0.98HF 256AP 151(7/8)10.2192none
t2 tse tra2200.88×0.57AP 384RL(65%) 2267221none
t2 tse tra
3mm
1800.67×0.47AP 384RL(60%) 26930.617none
t1 tse tra
3mm
1800.78×0.47AP 384RL(60%) 23030.617none
t1 se tra
fc ce
2200.98×0.69AP 320RL(70%) 2077221none
t1 se sag
fc ce
2200.98×0.69AP 320RL(70%) 22471.421none
t1 se cor
fc ce
2200.98×0.69AP 320RL(70%) 2137220none
Gd t1 tse
tra 3mm
1800.78×0.47AP 384RL(60%) 23030.617none
t1 starvibe
fs sag ce
2500.98×0.98HF 256AP 151(7/8)10.2192none
MRI装置Magnetom Aera
自動注入器
ワークステーションZiostation 2 plus

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造影条件 注入量(mL)注入速度(mL/sec)撮像タイミング
ガドビスト5.51.0・造影T1強調画像(全脳) Tra
→造影剤投与後2分30秒
・造影T1強調画像(全脳) Sag
→造影剤投与後5分50秒
・造影T1強調画像(全脳) Cor
→造影剤投与後9分30秒
・造影T1強調画像(病変部3mm) Cor
→造影剤投与後13分10秒
・造影 脂肪抑制T1強調画像(3D) Sag
→造影剤投与後15分30秒
後押し用
生理食塩水
201.0

症例

症例背景と造影MRI検査の目的

40歳代、女性、55kg、pilocytic astrocytoma
2か月前から頭重感および嘔気が持続しており、他院の単純CTにて左小脳腫瘍が疑われた。当院紹介となり、造影MRIが撮影された。

図1.単純MRI T2強調画像
左小脳延髄角部に境界明瞭な腫瘤あり、内部に嚢胞成分と隔壁を認める。

図2.単純MRI T2強調画像
図1よりやや尾側のスライスでは、T2WIで高信号を呈する充実成分を認める。

図3.拡散強調画像
充実成分は軽度の拡散制限を認める。

図4. 造影MRI 脂肪抑制T1強調画像 軸位断
図1と同位置のスライスでは、充実成分に中等度の造影効果あり、嚢胞部分は造影されない。

図5.造影MRI 脂肪抑制T1強調画像 軸位断
図2と同位置のスライスでは、充実成分に中等度の造影効果を認める。

図6.造影MRI 脂肪抑制T1強調画像 冠状断
尾側の充実成分に中等度の造影効果を認める。

症例解説

本症例では左小脳延髄角部に嚢胞成分を伴う腫瘍が存在し、左下位脳神経からの発生、もしくは小脳実質内腫瘍の鑑別が重要であった。前者であれば神経鞘腫、後者であればpilocytic astrocytomaの可能性が高くなる。3Dの脂肪抑制T1強調画像を撮影し、小脳実質内の可能性が高く、pilocytic astrocytomaを上位に考えた。手術が施行され、無事に完全摘出され上記の診断となった。

当該疾患の診断における造影MRIの役割

小脳腫瘍の鑑別において、造影MRIは必須である。本症例のように若年者の小脳実質内腫瘍の場合、特に血管芽腫との区別が重要となる。血管芽腫も嚢胞成分を伴う腫瘤を呈することが多いが、充実成分は強い造影効果を呈する。本症例は血管芽腫を疑うような強い造影効果とは言えず、pilocytic astrocytomaを疑うことが可能であった。