症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

MRI用造影剤ガドビストを用いた非浸潤性乳管癌の広がり診断

施設名: 産業医科大学病院
執筆者: 放射線科 是枝 侑希 先生、青木 隆敏 先生
作成年月:2024年10月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

乳癌は女性で最も罹患率が高い癌である1)。検診ではマンモグラフィーやエコーが用いられることが多いが、MRIは広がり診断においてマンモグラフィーやエコーより精度が高く、乳癌診療において大きな役割を担っている2)。近年では、超高速造影ダイナミックMRI(UF-DCE MRI)も可能となり、良悪性の評価や化学療法の治療効果予測に有用であると報告されている3)。当院でもUF-DCE MRIを行っており、術前の広がり診断評価でMRIが有用であった1例を紹介する。

参考文献

  • 1) 一般社団法人 日本乳癌学会: 乳癌診療ガイドライン②疫学・診断編2022年版, 236‐239(2022)
  • 2) 公益社団法人 日本医学放射線学会: 画像診断ガイドライン 2021年版, 434-437 (2021)
  • 3) Cao Y et al. Early prediction of pathologic complete response of breast cancer after neoadjuvant chemotherapy using longitudinal ultrafast dynamic contrast-enhanced MRI.Diagn Interv Imaging. 605-614 2023

ガドビストを用いたMRI検査の方法

手順と撮像 Sequence Parameter

手順と撮像 Sequence Parameter

撮像パラメータ

表は横スクロールでご覧いただけます。

撮像名撮像シーケンス撮像時間TE (msec)TR (msec)TI (msec)FA (deg)Flipback (有無)Fat Sat (種類)ETL (数)P-MRI (Reduction Factor)NEX (加算回数)
locarizer3Rsingle shot FSE14sec63500902(ARC)1
Vibrant Flex Ax3DGRE-Flex1:02sec1.2, 2.34.212Dixon2(ARC)2
T2 Flex AxFSE-Flex2:06sec904000110Dixon2(ARC)1
DWI Axsingle shot
EPI-DWI
2:40sec65750022090STIR
+SSRF
2(ASSET)1
R) T2fsat-FSE SagT2-FSE fsat1:36sec856800110chess161
L) T2fsat-FSE SagT2-FSE fsat1:36sec85680090chess161
IDEAL-IQ3DGRE-6po
intFlex
51sec0.9~4.35.83Dixon33(ARC)1
pre Dyn Vibrant Ax3DGRE-Flex7 secx 8134.212Aspir2(ASSET)
CE+ 1~8phase
Ultra fast Dyn Ax
3DGRE-Flex7sec2.13.612Aspir3(ASSET)
CE+1~4 phase Dyn
Vibrant Ax
3DGRE-Flex1:06sec× 4134.212Aspir2(ASSET)

表は横スクロールでご覧いただけます。

撮像名k-space面内分解能(mm)Slice厚(mm)FOV
(mm)
Rectan
gular
FOV(%)
位相方向 (step数)リード方向(matrix数)実scan
%
Slice Gap
(mm)
3D partition
(数)
3D over
samplin
g(%)
locarizer3Rsingle shot1.3×1.810400100AP
300
RL
200
recon
512
50
Vibrant Flex
Ax
cartesian
linear
1.5×0.80.5350100RL
416
AP
244
recon
512
T2 Flex Axcartesian
linear
0.8×0.95330100RL
384
AP
416
recon
512
0.5
DWI Axcartesian
linear
2.6×1.0536070RL
256
AP
140
recon
512
0
R) T2fsat-FSE Sagcartesian
linear
0.9×1.15230100AP
224
SI
288
recon
512
0.51default
L) T2fsat-FSE Sagcartesian
linear
0.9×1.15230100AP
224
SI
288
recon
512
0.5
IDEAL-IQcartesian
linear
2.8×1.74440100RL
256
AP
160
recon
512
pre Dyn
Vibrant Ax
cartesian
centric
0.9×0.90.5340100RL
400
AP
400
recon
512
CE+ 1~8phase
Ultra fast Dyn Ax
cartesian
linear
1.4×1.41.2320100AP
308
AP
162
recon
512
CE+1~4
phase Dyn
Vibrant Ax
cartesian
centric
0.9×0.90.5340100RL
400
AP
400
recon
512
MRI装置Signa premier
自動注入器Nemoto sonic shot 7
ワークステーションAdvantage Workstation

表は横スクロールでご覧いただけます。

造影条件 注入量注入速度撮像タイミング
ガドビスト0.1mL/kg2mL/secUltrafast Dynamic 開始5sec後
後押し用
生理食塩水
20mL20mL

症例

症例背景と造影MRI検査の目的

40歳代、女性、非浸潤性乳管癌 ductal carcinoma in situ (DCIS)
右乳腺AC-C区域を中心に複数の低エコー域を認めた。針生検でDCISと診断され手術加療の方針となり、術前広がり診断目的でMRI撮像した。

図1.脂肪抑制T2強調画像
対側に比較して右乳腺はC区域を主体に高信号を呈している。

図2.造影Dynamic 造影前(脂肪抑制T1強調画像)
右乳腺C区域に高信号の索状構造を認め、乳管内血性分泌物を疑う。

図3.造影Dynamic 早期相
右乳腺にはC区域を主体に多数の小濃染結節が区域性に認められる。

図4. 造影Dynamic 遅延相
右乳腺C区域の濃染像は持続している。

図5.超高速造影ダイナミックMRI画像
病変部における造影早期の血行動態をより詳細に観察できる。

図6.拡散強調画像
造影にて濃染する結節に一致して高信号領域を認める。

症例解説

40歳代女性。201X年より超音波検査で低エコー領域として描出される両側乳腺症に対してフォローアップされていた。初回より12年後のフォローアップで、右乳腺C区域からAC区域に広がる低エコー域に血流シグナルを認め悪性の可能性が示唆された。
針生検の結果、ductal carcinoma in situ (DCIS)が疑われた。手術加療の方針となり、術前の広がり評価目的に造影MRIを撮像した。乳房全切除術及びセンチネルリンパ節生検を施行し、最終病理診断はDCISであった。

当該疾患の診断における造影MRIの役割

乳腺MRIは乳癌の広がりを高精度に診断できる。この症例においてもマンモグラフィーでは病変を指摘出来なかったが、MRIでは病変が明瞭に描出され、エコーで捉えられる領域よりも広範に及んでいる事が示された。3D解析を用いることでより俯瞰的な評価ができ、術式の選択や切除範囲の一助となった。
近年では、圧迫センシングなどの撮像技術の進歩によりUF-DCE MRIが可能となった。造影直後の超早期からの数秒毎の撮像を行うことで、乳腺組織とのコントラストを高め、血流豊富な腫瘍と腫瘍関連血管の評価に優れている。使用する造影剤量の増加や撮像時間の延長なく、良悪性の鑑別や薬物療法の治療効果予測に役立つと報告されており、更なる臨床応用が期待されている。

参考文献
Kataoka M et al. Ultrafast Dynamic Contrast-Enhanced MRI of the Breast: From Theory to Practice. J Magn Reson Imaging. 401-416(2024)