症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

原発性アルドステロン症に対する副腎静脈サンプリング前CT

施設名: 自治医科大学附属病院
執筆者: 画像診断部 伊東 典子 先生、山越 一統 先生
作成年月:2024年10月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

症例背景

60歳代, 男性, 86.5kg, 原発性アルドステロン症

検査目的

副腎静脈サンプリング前のプラニングCT

使用造影剤

イオプロミド370注シリンジ100mL「BYL」/ 100mL

症例解説

高血圧, 低K血症の精査で左副腎腫瘤が指摘され, 負荷試験の結果, 原発性アルドステロン症の診断となった, 副腎静脈サンプリング前に,プランニング目的のCTが施行された, その後の副腎静脈サンプリングでは, 左副腎からの片側性のアルドステロン過剰分泌が認められ, 手術の方針となった.

画像所見

図1.平衡相 横断像
左副腎に低吸収結節を認める(矢頭)

図2.後期動脈相 冠状断像
右副腎静脈および下大静脈開口部(矢頭)

図3.門脈優位相 冠状断像
副肝静脈および下大静脈開口部(矢頭)

図4.後期動脈相 冠状断像
左副腎静脈および左腎静脈開口部(矢頭)

図5.仮想透視画像
右副腎静脈と副肝静脈,下横隔静脈と左副腎静脈の走行と位置関係

図6.右副腎静脈造影
右副腎静脈の下大静脈開口部(矢頭)

図7.左副腎静脈造影
左副腎静脈(矢頭)および下横隔静脈(矢印)

撮影プロトコル

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使用機器CT機種名/メーカー名SOMATOM Definition Flash / Siemens
CT検出器の列数/スライス数64列 / 128スライス
ワークステーション名/メーカー名Ziostation2 / アミン

撮影条件

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撮影時相単純後期動脈相門脈相優位相平衡相
管電圧設定CAREkv (semi
100kv :Dose
Saving Level 3)
CAREkv (semi
100kv :Dose
Saving Level 3)
CAREkv (semi
100kv :Dose
Saving Level 3)
CAREkv (semi
100kv :Dose
Saving Level 3)
管電圧 (kV)100100100100
AECCARE Dose 4DCARE Dose 4DCARE Dose 4DCARE Dose 4D
(AECの設定)Quality Ref mAs
220mAs/rot @120kv
Quality Ref mAs
220mAs/rot @120kv
Quality Ref mAs
220mAs/rot @120kv
Quality Ref mAs
220mAs/rot @120kv
CTDI vol(mGy)19.017.817.817.8
ビーム幅 (mm)38.438.438.438.4
撮影スライス厚 (mm)0.750.750.750.75
焦点サイズ(mm)0.9 x 1.10.9 x 1.10.9 x 1.10.9 x 1.1
スキャンモードspiral scanspiral scanspiral scanspiral scan
スキャン速度 (sec/rot)0.50.50.50.5
Pitch factor0.80.80.80.8
スキャン範囲全腹部全腹部全腹部全腹部
撮影時間 (sec)11101010
撮影方向頭⇒足頭⇒足頭⇒足頭⇒足

再構成条件

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 単純後期動脈相門脈相優位相平衡相
ルーチン:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)3 / 33 / 33 / 33 / 3
ルーチン:再構成関数/逐次近似応用法I40f / SAFIRE 1I40f / SAFIRE 1I40f / SAFIRE 1I40f / SAFIRE 1
3D/MPR用:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)1 / 0.81 / 0.81 / 0.8
3D/MPR用:再構成関数/逐次近似応用法I26f / SAFIRE 1I26f / SAFIRE 1I26f / SAFIRE 1
thinMIP用:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)3 / 23 / 2
thinMIP用:再構成関数/逐次近似応用法I40f / SAFIRE 2I40f / SAFIRE 2

造影条件

自動注入器機種名/メーカー名Dual Shot GX7 / Nemoto
造影剤名イオプロミド370注シリンジ

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撮影プロトコル後期動脈相門脈相優位相平衡相
造影剤:投与量(mgI/kg/sec)14
造影剤:注入速度(mL/sec), 注入時間 (sec)3.2, 30
生食:投与量 (mL)30
生食:注入速度 (mL/sec)3.2
bolus tracking法設定, 撮影タイミング横隔膜レベルの下行大動脈にお
いて, +100HU上昇をトリガーと
し, 20sec後に撮影開始
トリガーから40sec後, 撮影開始造影剤注入開始 120sec後, 撮影
開始
留置針サイズ (G)22
注入圧リミット (kg/cm2)10

当該疾患の診断における造影CTの役割

原発性アルドステロン症は, 治癒可能な二次性高血圧であり, 本態性高血圧より脳・心血管, 腎合併症の頻度が高く, その診断および治療の重要性が指摘されている, 片側性のアルドステロン症の場合, 外科的切除によりアルドステロン過剰の正常化, 高血圧および臓器障害の改善・防止が期待できる, このため, 手術が考慮される場合には副腎静脈サンプリングによる機能的局在診断を行う, 原発性アルドステロン症診療ガイドライン20211)では, この副腎静脈サンプリングの成功率を向上させる方法の一つとして, ダイナミックmulti-detector row CT(MDCT)が推奨されている, MDCTでは, 横断像やMPR(Multi planar Reconstruction)を用いて, 副腎静脈の走行やvariationの確認などを行うが, これに加え当院では,仮想透視画像を作成し, 右副腎静脈の下大静脈開口部のレベルや, 副肝静脈との位置関係など, 立体的な解剖学的把握を行っている, その結果, サンプリング時に, スムーズかつ的確なカテーテル操作が可能となる.

注意点としては, CTでは深吸気時に撮影されるのが一般的であるが, カテーテル操作は, 安静呼吸下で施行されるため, 副腎静脈の位置がやや異なることがある. 当院では, 呼吸性変動を踏まえて, 後期動脈相, 門脈優位相を呼気にて撮影し, 平衡相のみ吸気にて撮影している.

  • 1) 一般社団法人 日本内分泌学会, 原発性アルドステロン症 診療ガイドライン2021, 診断と治療社, 2021, P.25

CT技術や撮像プロトコル設定について

副腎静脈サンプリングにおけるIVR支援画像としての位置付けとなるため, CT検査においての安定した呼気停止の検査説明が重要となる. 当院では位置決め撮像(Topogram), 単純, 後期動脈相, 門脈優位相を呼気停止にて撮影, 平衡相のみ副腎の呼吸性移動を観察する目的で吸気撮影を行っている. 被検者への説明を丁寧に行い理解を得ることを心がけている.

本検査における後期動脈相は, 右副腎静脈と下大静脈との合流部, また左副腎静脈と下横隔静脈, 腎静脈との合流部の形態評価が求められる重要な撮影時相である. そのため30sec注入時間固定法とbolus tracking法の併用を行い, 腹部下行大動脈において+100HUのCT値上昇をトリガーとし, 20secのdelay timeにて後期動脈相の撮影を行っている. その後の門脈優位相は, トリガーから40secの撮影とし, 主に副肝静脈と下大静脈との合流部の形態評価が目的とされる. 造影コントラスト向上のため. 可能な限り低管電圧撮影が行えるよう留意している. なお, 本症例は, 造影剤量がプロトコルより少ない症例であったが, 低管電圧撮影や後期動脈相の最適な撮影タイミングにより, 副腎静脈を良好に描出し得た.