症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

腸管ガスが多いときの前立腺癌の評価:ダイナミック造影MRIの役割

施設名: 島根大学医学部附属病院
執筆者: 放射線部 松尾 和明 先生、麻生弘哉 先生 / 放射線医学講座 吉田 理佳 先生、楫 靖 先生
作成年月:2024年9月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

前立腺癌は泌尿器科領域で、最も頻度が高い悪性腫瘍である。罹患数の増加と前立腺特異抗原(prostate-specific antigen: PSA)検診の普及によってMRI検査が増加している。前立腺MRIは、撮像方法や読影方法が標準化され、治療介入が必要な前立腺癌、即ち臨床的に意義のある癌を効率的に検出できる。しかし、基礎疾患の多い高齢男性が多く、鎮痙薬も使いづらい。腸管ガスや蠕動によって画質が低下することが、臨床上問題となっている。

ガドビストを用いたMRI検査の方法

手順と撮像 Sequence Parameter

撮像パラメータ

表は横スクロールでご覧いただけます。

撮像名撮像シー
ケンス
撮像時間
(min:sec)
TE
(msec)
TR
(msec)
FA
(deg)
Flipback
(有無)
Fat Sat
(種類)
ETL
(数)
P-MRI
(Reduction
Factor)
NEX
(加算回数)
k-space
T2WI TRATSE3:47120667190171cartesian
asymmetric
T1WI TRATSE2:588.4542904SENSE22cartesian
asymmetric
DWI TRAsingle shot
EPI
4:4766422690SPAIREPI
factor117
CS-SE
NSE2
3single shot
T2WI CORTSE3:2712057619022CS11cartesian
asymmetric
+CE Dynamic
T1WI TRA
TFE0:111.633.311SPAIR30AI-CS
SENSE4
1cartesian
Linear
+CE T1WI
SAG
TFE0:141.643.310SPAIR30SENSE1.41cartesian
Linear
+CE T1WI
COR
TFE0:421.793.510SPAIR30SENSE11cartesian
Linear
+CE T1WI
TRA
TSE3:158.459590SPIR4SENSE22cartesian
asymmetric
option
TSE DWITSE4:0059400090SPAIR38SENSE33cartesian
Low-High

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撮像名面内分解能
(mm)
Slice厚
(mm)
FOV
(mm)
Rectangular
FOV(%)
位相方向
(step数)
リード方向
(matrix数)
実scan
(%)
Slice
Gap
(mm)
Slice
枚数
3D
pertition
(数)
3D over
sampling(%)
T2WI TRA0.57×0.73222089RL
(78%)
AP
384
recon
512
036
T1WI TRA0.86×1.07222094RL
(80%)
AP
256
recon
512
036
DWI TRA1.96×1.414220103AP
(140%)
RL
112
recon
256
0.422
T2WI COR0.57×0.762.5220100RL
(75%)
AP
384
recon
512
027
+CE Dynamic
T1WI TRA
1.04×1.023250100RL
(102%)
AP
240
recon
512
0301default
+CE T1WI
SAG
1.17×1.46328090AP
(80%)
RL
240
recon
512
0301default
+CE T1WI
COR
1.17×1.303280100RL
(90%)
AP
240
recon
512
0301default
+CE T1WI
TRA
0.86×1.07222094RL
(102%)
AP
256
recon
512
036
option
TSE DWI1.96×1.414220103AP
(140%)
RL
112
recon
256
0.422
MRI装置Ingenia Elition 3.0T (PHILIPS)
自動注入器Nemoto sonic shot 7
ワークステーション

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造影条件 注入量(mL)注入速度(mL/sec)撮像タイミング
ガドビスト6.7
(体重×0.1)
2dynamic
後押し用
生理食塩水
501

CS1はdenoise効果のみ利用
SENSE1は折り返しアーチファクト防止で利用
TSE DWIは直腸ガスによる影響がある場合に追加撮像
Dynamic 撮像はpre-13 phase撮像後に他断面撮像し,約6分後にdelay phaaseを撮像

症例

症例背景と造影MRI検査の目的

70歳代、男性、75㎏、前立腺癌
PSA高値精査(12ng/ml)

図1.T2強調画像
直腸ガスが多く、蠕動も併せて、画質に劣化が見られる。前立腺の辺縁、境界は不鮮明で、内部の信号にも不均一となっている。前立腺中部の高さ、左葉移行域の2時~3時方向に1㎝の低信号結節(矢印)を認める。

図2.T1強調画像
T2強調像同様に、画質劣化が高度である。前立腺の辺縁は不鮮明であるが、前立腺内部は比較的均一な低信号で、明らかな出血は認めない。

図3.拡散強調画像 b=1000, EPI
腸管ガスや体動によるひずみの影響が強いが、図1で見られた癌部(矢印)に一致して軽度高信号域を認める。

図4.拡散強調画像 b=1000, TSE
TSE-DWIが、図3のEPI-DWIに比較すると、背側方向に延びる位相ずれのアーチファクトのため癌部、非癌部のコントラストは低下しているが、ひずみは少ない画像である。

図5.拡散強調画像 computed DWI b=1400(TSE-DWI b=0, 1000で作成)
TSE-DWIを用いて作成したcomputed DWI b=1400では、癌(矢印)のコントラストは図4よりも改善し、ひずみの少ない画像となっている。

図6.ダイナミック造影動脈優位相
ダイナミック造影を行うと、病変の造影効果(矢印)が明瞭で、画質劣化の際にも癌と非癌部のコントラストがつきやすい。10数秒という短時間撮像のため、輪郭も明瞭である。

症例解説

本症例ではPSA高値を契機に前立腺MRI検査を施行した。便秘症があるため、直腸は拡張し、内部にガスを含む便塊を認める。鎮痙薬は、既往症のため、使用せず、検査前の排便も不可能であったために、画質劣化が避けられない。腸管ガスによるひずみの影響で、全ての撮像シーケンスで、前立腺の後方の辺縁は不鮮明で、内部の信号が不均一となる。特に空気や蠕動の影響を受けやすい、拡散強調画像での画質劣化が著しい。

当該疾患の診断における造影MRIの役割

近年、前立腺癌のMRI診断のばらつきを減らし、撮影・読影方法を標準化するために、Prostate Imaging and Reporting and Data System(PI-RADS)が広まっている。これは、治療介入が必要な前立腺癌の検出を目的としている。現在のPI-RADS v2.1では、T2強調画像、拡散強調画像、ダイナミック造影画像を個別に評価し、各画像でスコアを付け、定められたルールに基づいて統合し、臨床的に意義のある癌の疑い度合いを5段階で分類する。PI-RADS v2.1では、質の高いT2強調画像と拡散強調画像があれば、必ずしも造影検査は必要ない。

しかし、本症例のように腸管ガスや蠕動の影響で画質が劣化する場合は、撮像の工夫が必要になる。
拡散強調画像(DWI)では、腸管ガスによるひずみの影響を減らすため、echo planar imaging(EPI)を用いたDWIよりTurbo spin echo(TSE)を用いたDWIを使用する。high b valueの画像は、computed DWIで作成することで、実際の撮像よりもノイズを低減できる場合がある。また、ダイナミック造影MRIを追加すると、短時間撮影のため前立腺の輪郭も明瞭で、癌部と非癌部のコントラストがつき、病変の検出に役立つ場合がある。

  • 9.特定の背景を有する患者に関する注意【電子添文より抜粋】

    9.8 高齢者
    患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下している。