症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

前立腺癌ターゲット生検における造影MRIの役割

施設名: 弘前大学医学部附属病院
執筆者: 放射線診断科 対馬 史泰 先生、掛田 伸吾 先生
作成年月:2024年8月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

前立腺癌の侵襲の度合いは緩徐なものから致死率の高いものまで様々である。サブタイプによって致死率が異なるため正確な組織診断が重要である。経直腸的な超音波ガイド下での12コアの系統的生検は最も一般的であるが、見逃しや悪性度分類の誤りが指摘されている。近年の前立腺マルチパラメトリック磁気共鳴画像法(MRI)の進歩により、特に疑わしい局在に対してMRI-US fusion下によるターゲット生検が可能になった。

ガドビストを用いたMRI検査の方法

手順と撮像 Sequence Parameter

手順と撮像 Sequence Parameter

撮像パラメータ

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撮像名撮像
シーケンス
撮像時間
(min:sec)
TE
(msec)
TR
(msec)
TI
(msec)
FA
(deg)
Flipback
(有無)
Fat Sat
(種類)
ETL
(数)
P-MRI
(Reduction
Factor)
息止め
(有無)
NEX
(加算回数)
T2WI AxialFSE2:069030001602022
DWI AxialEPI3:0667.8600090SSRF28
T1WI AxialFSE1:307.9600160321
T2WI Sag 3DCUBE3:131162000T210021
T2WI CorFSE2:069230001602022
DWI AxialEPI3:0663600090SSRF28
Dynamic AxLAVA0:151.53.3515SpecIR21

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撮像名k-space面内分解能
(mm)
Slice厚
(mm)
FOV
(mm)
Rectan
gular
FOV(%)
位相方向
(step数)
リード方向
(matrix数)
Slice Gap
(mm)
Slice
枚数
3D
pertition
(数)
3D実ス
キャン
(%)
3D over
sampling
(%)
T2WI Axialcartesian1.04×0.634200100RL
(192)
3200.420
DWI Axialcartesian2.34×34300100AP
(128)
1000.420
T1WI Axialcartesian1.04×0.634200100RL
(192)
3200.420
T2WI Sag 3Dcartesian1.12×0.871.4250100AP
(224)
288-0.71921100default
T2WI Corcartesian1.04×0.693200100RL
(192)
2880.328
DWI Axialcartesian1.95×2.78425050AP
(64)
900.420
Dynamic Axcartesian1.56×1.173300100AP
(192)
256841100default
MRI装置Signa HDxt 3T
自動注入器Sonic Shot GX
ワークステーション

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造影条件
 
注入量(mL)注入速度 (mL/sec)撮像タイミング
ガドビスト0.1mL/kg1mL/sec撮像と同時に注入
撮像は15phase
後押し用
生理食塩水
30mL1mL/sec

症例

症例背景と造影MRI検査の目的

60歳代、男性、75kg、前立腺癌
PSA高値で系統的生検するも診断つかず、ターゲット生検目的

図1.T2強調画像
右葉移行域 11時方向に径12mm大の内部均一なレンズ状低信号域を認める。

図2.拡散強調画像
右葉移行域 11時方向に高信号域を認める。

図3.ADC map
右葉移行域 11時方向に低信号域を認める。

図4.ダイナミック造影75秒後
右葉移行域 11-12時方向に結節状濃染を認める。

図5.病理像
右葉移行域11時から12時にかけて径12x7mm大の病変を認める。GS 3+4=7であった。

症例解説

前立腺の系統的生検を以前に2回行うも癌の診断得られず。PSAが12.8まで上昇したため、ターゲット生検目的に造影MRIを撮像した。前立腺右葉移行域 11時方向に長径12mm大の病変を認め、T2強調画像で内部均一で境界不明瞭、レンズ状の低信号域(図1)、拡張強調画像で高信号(図2)、ADC map低信号(図3)、ダイナミック造影(75秒後)の結節状濃染(図4)を認めた。PI-RADSカテゴリーは4であった。

右葉移行域腹側を標的としたMRI-US fusion下ターゲット生検が行われた。3箇所よりGleason score (GS) 3+4=7, 4+5=9, 3+3=6 の検体が得られた。前立腺全摘術が施行され、病理診断では術前に指摘された病変を含め4箇所の腫瘍を認めた(図5)。右葉移行域腹側の病変が最大で径12x7mm大、GSは3+4=7であった。

当該疾患の診断における造影MRIの役割

前立腺癌移行域の局在診断は時として困難である。本症例ではT2強調画像、拡張強調画像、ADC mapからも疑わしい病変であったが、ダイナミック造影所見と合わせ、ターゲット生検の標的として適切な局在を示すことが出来た。超音波ガイド下生検と比較してMRI-US fusion下生検の生検ヒット率は高く、ターゲット生検は前立腺癌が疑われるにもかかわらず系統的生検陰性が続く症例には最も適応がある。局在診断における造影MRIの意義であるが、適切な画像であればT2強調画像/拡散強調画像のみで85-90%が診断可能であるが、10%前後の症例で診断が困難である。T2強調画像でわかりづらい前立腺癌について、ダイナミック造影所見で診断を確信する場合も少なくない。生検前にMRIを撮像し、PI-RADSに従って臨床的有意癌の可能性を判定することで、不必要な生検を回避し、かつ生検の精度を向上させることが可能と考える。

参考文献) 片平和博 画像診断Vol.40 No.6 2020