症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

肺動静脈奇形

施設名: 埼玉医科大学病院
執筆者: 放射線科 松浦 紘一郎 先生、井上 快児 先生
作成年月:2024年5月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

症例背景

50歳代、女性、46㎏、肺動静脈奇形

検査目的

脳膿瘍にて加療中。膿瘍の原因と思われる肺動静脈奇形が前医CTで疑われており精査目的に造影CT施行。

使用造影剤

イオプロミド300注シリンジ「BYL」/ 100ml 1本

症例解説

症例は50歳代女性。小児期に脳出血の既往があり、視野欠損あるがADLは自立している。
勤務中に寒気と呂律障害出現し前医に救急搬送される。喚語困難、意識障害を呈し、右後頭葉に膿瘍を指摘され手術目的に当院に紹介となった。前医単純CTで肺動静脈奇形を疑われており、膿瘍の原因として考えられるため精査目的にイオプロミドを用いて造影CT撮影を行った。

画像所見

図1.非造影CT 肺野条件
左肺舌区末梢に大きさの異なる結節が並んでいる(→)。

図2.肺動脈相 水平断
結節は肺動脈と同等の強い造影効果を示す(→)。

図3.肺動脈相 冠状断
結節は管状に連続しており脈管構造と思われる(→)。

図4.肺動脈相 ボリュームレンダリング画像
水平断で結節様に見えた構造に連続して流入動脈、流出静脈がそれぞれ1本ずつ明瞭に描出され、同部位で交通していることがわかる。

撮影プロトコル

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使用機器CT機種名/メーカー名SOMATOM Definition Flash / SIEMENS
CT検出器の列数/スライス数64列 / 128
メーカー名シーメンス

撮影条件

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撮影時相単純肺動静脈相遅延相
管電圧 (kV)120100100
AECCARE DOSE 4DCARE DOSE 4DCARE DOSE 4D
(AECの設定)80mAs 120kV140mAs 120kV100mAs 120kV
管電流時間 (Eff.mAs)58114106
ビーム幅 (mm)38.438.438.4
撮影スライス厚 (mm)525
焦点サイズ0.9×1.10.9×1.10.9×1.1
スキャンモードFlash spiral (2管球)Flash spiral (2管球)ヘリカルスキャン
スキャン速度(sec/rot)0.280.280.5
ピッチ2.62.50.8
スキャン範囲胸部胸部胸部
撮影時間 (sec)1.141.146.09
撮影方向頭⇒足足⇒頭頭⇒足

再構成条件

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 単純肺動静脈相遅延相
ルーチン:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)5.0 / 5.02.0 / 2.05.0 / 5.0
ルーチン:再構成関数/逐次近似応用法31f medium smooth /
SAFIRE1
31f medium smooth /
SAFIRE1
31f medium smooth /
SAFIRE1
3D/MPR用:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)0.75 / 0.51.0 / 0.8
3D/MPR用:再構成関数/逐次近似応用法I31f / SAFIRE強度1I31f / SAFIRE強度1

造影条件

自動注入器機種名/メーカー名デュアルショット / Nemoto
造影剤名イオプロミド300注シリンジ

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 肺動静脈相遅延相
造影剤:投与量 (mL)計60
造影剤:注入速度(mL/sec)、注入時間 (sec)①造影剤12ml/4.0ml/s+生理食塩水
12ml/4ml/s(テストインジェクション)
②造影剤24ml/2.4ml/s+生理食塩水
16ml/1.6ml/s
③造影剤24ml/4.0ml/s
④生理食塩水30ml/4.0ml/s
生食:投与量 (mL)計58
生食:注入速度 (mL/sec)、注入時間 (sec)造影剤の欄を参照してください
スキャンタイミングTI法
ディレイタイム造影剤注入開始22秒後造影剤注入開始78秒後
留置針サイズ (G)18
注入圧リミット (kg/cm2)13

肺動静脈を分離できるタイミング決定のために初めに造影剤を生理食塩水で薄めて投与し(Test Injection:TI)時間濃度曲線(Time enhancement curve:TEC)を取得する。これをもとに本番のTECを計算し、後に濃い造影剤を注入して撮影をしている。

当該疾患の診断における造影CTの役割

肺動静脈奇形は肺動脈・静脈が正常の毛細血管を介さずに短絡する血管奇形であり、肺動静脈瘻と呼ばれることもある。臨床症状としては低酸素血症や喀血、稀に血胸を示す。また、脳膿瘍や奇異性脳梗塞などの合併症を伴う可能性が知られている。しかし無症候性に肺結節として偶発的に指摘される例も少なくない。流入動脈、流出静脈がともに1本の場合をsimple type、複数の場合をcomplex typeと分類する。

造影CTでは肺動脈と同等の強い造影効果を呈し、単純CTに比して詳細な評価が可能となる。動静脈奇形の大きさ、流入動脈・流出静脈の数や吻合の位置をあらかじめ確認することで、治療計画に有用である。また、3D画像を再構成することでより立体的に形状を把握することができ、任意の方向から画像を観察することで塞栓時のアクセスルートを決定する一助となる。

CT技術や撮像プロトコル設定について

あらかじめ濃度の低い造影剤を少量投与する(TI)ことでTECを取得し、後に濃い造影剤を注入することで最適なタイミングで肺動静脈を撮影している。

TI法ではボーラストラッキング法に比べ、本番のスキャンとテスト用スキャンの2回の撮影が必要となるため手順は煩雑となるが柔軟に撮影のタイミングを設定できる。

希釈した造影剤を用いてのTI法では少量の造影剤を用いてTIを行う場合に比べ簡単な演算で本番スキャン時の造影剤注入条件におけるTECを推定することが可能となる。