症例・導⼊事例

※ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

閉塞性動脈硬化症を原因とした左下腿壊死の一例

施設名: 福井大学医学部附属病院
執筆者: 放射線科 若林 佑 先生 / 放射線部 嶋田 真人 先生
作成年月:2023年9月

※ 効能又は効果、用法及び用量、警告・禁忌を含む注意事項等情報等については、電子添文をご参照ください。

はじめに

症例背景

60歳代、男性、61kg、閉塞性動脈硬化症

検査目的

下肢血流評価目的。

使用造影剤

イオプロミド370注シリンジ「BYL」/ 81mL

症例解説

60代男性。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙など多数の既往がある。他院にて進行する下肢壊疽を認め、切断目的に当院に転院。入院1日目に下肢造影ダイナミックCTが施行された。動脈相で両側浅大腿動脈近位に閉塞を認めた。右下肢では側副路を介して膝窩~下腿三枝の細い描出が確認されたが、左下腿三枝の描出は認められなかった。左下腿の軟部組織は腫脹し、対側にくらべ造影効果の減弱と多量のガス像も見られたことから左優位の閉塞性動脈硬化症に伴う左下腿壊疽と診断した。感染コントロール困難で入院2日目に急変し死亡した。

画像所見

図1.MIP(maximum intensity projection)像、両下肢
両下肢動脈において左側優位に多数の石灰化や血管の狭窄が確認できる。

図2.浅大腿動脈レベル、横断像、動脈相
両側浅大腿動脈は閉塞している(黄矢印)。両側とも深大腿動脈の描出は確認できる(赤矢印)。

図3.MIP(maximum intensity projection)像、両下腿
左下腿3枝動脈は閉塞している。対側は側副路を介して描出されている。

図4.下腿三枝レベル、横断像、動脈相
左下腿三枝の描出は確認できず、左下腿軟部組織に多量のガスを認める(黄矢印)。

撮影プロトコル

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使用機器CT機種名/メーカー名SOMATOM Force / SIEMENS Healthneers
CT検出器の列数/スライス数96列 / 192スライス
ワークステーション名/メーカー名ZIO station2 / AMIN株式会社

撮影条件

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撮影時相単純血管相血管相2平衡相
管電圧 (kV)100909090
AECCARE Dose4DCARE Dose4DCARE Dose4DCARE Dose4D
(AECの設定)ON / ref.mAsは下記ON / ref.mAsは下記ON / ref.mAsは下記ON / ref.mAsは下記
管電流時間 (Eff.mAs)250250250250
ビーム幅 (mm)57.657.657.657.6
撮影スライス厚 (mm)0.60.60.60.6
焦点サイズsmallsmallsmallsmall
スキャンモードspiralspiralspiralspiral
スキャン速度(sec/rot)0.5110.5
ピッチ0.8およそ0.71.20.8
スキャン範囲総腸骨分岐~足先総腸骨分岐~足先膝~足先総腸骨分岐~足先
撮影時間 (sec)12301012
撮影方向頭→足頭→足頭→足頭→足

再構成条件

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 単純血管相血管相2平衡相
ルーチン:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)3mm / 3mm3mm / 3mm3mm / 3mm3mm / 3mm
ルーチン:再構成関数/逐次近似応用法Br44 / ADMIRE2Br44 / ADMIRE2Br44 / ADMIRE2Br44 / ADMIRE2
3D/MPR用:再構成スライス厚/間隔 (mm/mm)1.0 / 0.61.0 / 0.6
3D/MPR用:再構成関数/逐次近似応用法Bv44 / ADMIRE3Bv44 / ADMIRE3
※追加項目欄iBHC ONiBHC ON

造影条件

自動注入器機種名/メーカー名Dual Shot 7 / 根本杏林堂
造影剤名イオプロミド370注シリンジ

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 血管相血管相2平衡相
造影剤:投与量(mgI/kg)500
造影剤:注入速度、注入時間可変注入(可変定数0.6) 30秒注入
生食:投与量 (mL)35
生食:注入速度、注入時間2.5mL/s 14秒
スキャンタイミングBT法 (左右総腸骨動脈分岐手前 / 200HU)
ディレイタイム (sec)107(CTA1相目撮影終了後)210(造影剤注入後)
留置針サイズ (G)22
注入圧リミット (kg/cm2)10

CTAは30秒の可変注入を行うことで,下肢全体という広い撮影範囲においても頭尾方向でCT値差が極力でないような設定としている.また,造影剤注入後は続けて生食の後押しを行うことでデッドスペースに残る造影剤を無駄なくCTAの撮影に充てることが可能である.
下肢CTAでは造影剤を追い抜いてしまうことも考えられるので,CTAは2相目を予備で組んでおり,追い抜いた場合などはすぐ2相目の撮影がスタートする.

当該疾患の診断における造影CTの役割

下肢造影CTを撮像すると下肢動脈の狭窄形態や病変前後の血管走行、石灰化やプラークなど血管壁の性状評価、側副血行路の評価、多発病変の有無、その他に潰瘍病変、動脈瘤、解離の有無など非常に多くの情報を得ることができる。症例によっては遅延相を追加することで静脈の走行や位置関係の他、静脈内血栓の評価も行うことができる。さらに多断面再構成像や3次元像を構築することで血管の状態をイメージしやすくなり、その後の治療においてはカテーテルによる血行再建術のリファレンスとして使用するなど治療にも大変有用な検査と考えられる。治療後においては効果判定や合併症の有無、その後の経過観察に有用である。

注意点としては下腿三枝など特に細い血管では描出に限界があることや、石灰化と造影剤の区別が難しい場合があることなどが挙げられる。その他造影剤使用による一般的な合併症(アレルギーやアナフィラキシー、造影剤誘発性腎障害、被ばくのリスク、注入時の皮下漏れなど)は常に注意しておかなければならない。またアレルギーや腎機能障害などにより造影剤の使用が困難な場合もあるため、既往歴などを確認し、リスクベネフィットを鑑みて検査を行うことが肝要である。

CT技術や撮像プロトコル設定について

2管球を搭載したSIEMENS社のCTで撮影を行っている。下肢血管の造影プロトコルとして,当院では可変注入(可変定数:0.6)で30秒の注入を行っており,CTAの撮影も下肢全体を30秒かけて撮影を行っている.この方法では必ずしも個々の循環動態に合わしたタイミングの撮影ではないかもしれないが,造影剤を追い抜かないよう低速での撮影で,加えて総腸骨動脈分岐部~下腿3分枝まである程度造影効果が一定にするという目的で撮影プロトコルを設定している.また,この装置の特徴として,管電圧を10kV stepで調整することができ,造影後は80kVもしくは90kVの撮影を行っている.下肢のような体厚が小さい部位では,低管電圧を用いることで造影剤を増やすことなく造影効果を向上させることができる.本症例ではDVT(deep vein thrombosis)の検索も依頼目的にあったため,ヨード量は500mgI/kgとしているが,患者の腎機能に合わせて,ヨード量を7~8割に低減することも可能であり,低管電圧を使用した際に問題となる両下肢の骨間のストリークアーチファクトもビームハードニング補正をかけることで低下させている(画像非提示).

使用上の注意【電子添文より抜粋】

  • 9.特定の背景を有する患者に関する注意

    9.8 高齢者
    患者の状態を観察しながら使用量を必要最小限にするなど慎重に投与すること。本剤は主として、腎臓から排泄されるが、高齢者では腎機能が低下していることが多いため、高い血中濃度が持続するおそれがある。[8.6、9.2.1、9.2.2 参照]