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Part3 骨関節領域
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骨の正常変異②大腿~下腿
前項に引き続き骨の正常変異について述べる.本項は最も正常変異が多い大腿~下腿領域について記載するが,重要なことであるため復習すると正常変異はいくつかの機序に分けられる.具体的には①骨化中心や軟骨結合に関連したもの,②靭帯や腱の付着部であることに起因した変化,③発生異常によるもの,④腫瘍類似病変だが病的意義がないもの,⑤正常構造(だが一見すると異常のようにみえるもの)である4).
以下に大腿~下腿の骨正常変異について具体的に述べる.
大腿~下腿の骨正常変異
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irregular tibial tuberosity:大腿四頭筋の付着部である脛骨粗面に生じ,13~17歳に好発
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distal femoral cortical irregularity:大腿骨の内側顆直上の腓腹筋内側頭付着部で10~15歳に好発
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knee epiphyseal irregularity:大腿骨内側顆の関節面に生じる不整像で,10歳前後に好発
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focal periphyseal edema:大腿骨遠位の骨端線に隣接したmetaphysis主体に生じるMRIの異常信号域で,15歳前後に好発
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herniation pit:大腿骨頸部の外側前面に認められる硬化縁を伴う類円形透亮像
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fabella:大腿骨外側顆の後方に存在する種子骨
- partite patella:膝蓋骨の(上)外側に存在し,辺縁が丸みを帯びる
irregular tibial tuberosity
irregular tibial tuberosity(脛骨粗面不整)は,最もtrickyな骨正常変異の1つであり,冒頭で紹介した骨正常変異のいくつかの機序のうち「②靭帯や腱の付着部であることに起因した変化」に属する.Osgood-Schlatter病との境界も曖昧であるが,13~17歳で全く症状がない場合は,Osgood-Schlatter病といってはならない.画像所見が派手であるために「正常変異であり問題ない」というのには勇気がいるが,無症状でMRIでも異常信号がない場合には,正常変異であるirregular tibial tuberosityの可能性をあげるべきである(図1)8).
膝の屈伸運動を行う際に最も重要な働きをなす大腿四頭筋は,脛骨近位の前面にある脛骨粗面に付着(停止)する(図2).バレーボール,バスケットボール,走り高跳びといったジャンプする(跳躍型)スポーツでは膝の屈伸を繰り返すため,この脛骨粗面に強い負荷がかかる.一方でこの脛骨近位が成長期においてepiphysis(骨端)とmetaphysis(骨幹端)が互いに骨化していく過程を図3に示すが,13~17歳頃ではこの脛骨粗面付近が舌状の形態をとる.特にこの時期にクラブ活動などで前述のジャンプするスポーツを行っていたりすると,この脛骨粗面の舌状形態が不規則に誇張されて剥離骨折のように見えることがあり,これをirregular tibial tuberosityとよぶ.同じく前述のジャンプするスポーツによるoveruse(使いすぎ)で起こるOsgood-Schlatter病とは紙一重であり,画像所見も単純X線写真はOsgood-Schlatter病に類似するが,Osgood-Schlatter病と異なり疼痛の症状がなく,MRIでも異常信号域を認めない.13~17歳くらいの年齢で脛骨粗面に舌状の形態を認めた時は,単純X線写真のみで安易に異常所見と断定しないことが重要だ.もし疼痛などの症状があれば,さらにMRIで異常信号(STIRでの高信号など)の有無を確認しよう.
図1 irregular tibial tuberosity
脛骨近位の前面(脛骨粗面)がやや不規則に舌状にもち上がっているが,13~17歳くらいの年齢ではこれを安易に異常所見と断定してはいけない.
図2 大腿四頭筋と脛骨粗面
膝の屈伸に最も重要な大腿四頭筋は,膝蓋骨を経由して脛骨粗面に付着(停止)する.
図3 脛骨近位においてepiphysisとmetaphysisが骨化していく過程
成長期において,脛骨近位のepiphysis とmetaphysis は少しずつ骨化していくが,完全に骨化して癒合する(18歳以降)前に,脛骨粗面の部位が舌状の形態をとる( ).ここにジャンプするスポーツなどで大腿四頭筋の牽引力が加わると,この舌状形態が不規則になりirregular tibial tuberosity を生じる.
distal femoral cortical irregularity
(別名:corical desmoid あるいは avulsive cortical irregularity)
distal femoral cortical irregularity(大腿骨遠位皮質不整)も,冒頭で紹介した骨正常変異の機序のうち「②靭帯や腱の付着部であることに起因した変化」に属する4,8).
「ふくらはぎ」の主要な筋肉である腓腹筋内側頭は,大腿骨遠位の内側顆(medial condyle)直上に付着する.特に10~15歳くらいでは,この付着部の皮質が単純X線写真にて不整に見えたり,透亮像として認識されたりすることがあり,distal femoral cortical irregularityとよばれる(図4).腓腹筋内側頭の牽引力によるストレス性変化が原因であるため,MRIでも軽度の異常信号(STIRでの高信号など)を呈したり,FDG-PETで集積することがあり9),悪性腫瘍と誤認されたりする.しばしば両側性であるが10),10~15歳を過ぎると自然消失する.
図4 distal femoral cortical irregularity(corical desmoid)
大腿骨遠位の内側顆直上は腓腹筋内側頭の付着部に相当し,10~15歳ではこの部位の皮質が不整に見えたり,透亮像として認識されたりするが,10~15歳を過ぎると自然消失する.
knee epiphyseal irregularity(別名:femoral cortical irregularity)
knee epiphyseal irregularity(膝関節骨端不整)は,冒頭で紹介した骨正常変異のいくつかの機序のうち「①骨化中心や軟骨結合に関連したもの」に属する.大腿骨内側顆(内顆)の関節面が10歳前後では一時的に不整になることを指し(図5)6, 8),荷重負荷が関与していると推察される.離断性骨軟骨炎(離断性骨軟骨損傷)との鑑別を要するが,離断性骨軟骨炎と違って通常無症状であり,MRIで軟骨が保たれ骨髄浮腫もない.またknee epiphyseal irregularityの場合は10歳前後を過ぎると自然に消失する.
focal periphyseal edema(FOPE)
多くの正常変異は単純X線写真で認められるものであるが,このfocal periphy- seal edema(FOPE:傍骨端線部限局性骨髄浮腫)はMRIのみで認められる正常変異である(図6) 4,11,12).組織コントラストの描出に優れた「MRIならではの」正常変異といえる.22でも述べたように,「physis」には成長帯(骨端線)という意味があり,骨端線のすぐ隣(periphyseal)に認められる限局性(focal)の骨髄浮腫(edema)で,focal periphyseal edemaとよぶ.
具体的には大腿骨遠位の骨端線に隣接したmetaphysis主体に,脂肪抑制T2強調画像やSTIR(short tau inversion recovery)で縦長の帯状の淡い高信号域が出現し,造影増強効果も認められる4,11,12).「そんな,造影増強効果もあるようなものが正常変異なのか?」とお思いかもしれない.思春期,特に15歳前後くらいでは大腿骨遠位の骨端線が閉鎖しはじめる.この骨端線の閉鎖は中心部(大腿骨の正中部)からはじまって,両側の辺縁部に向かって遠心性に閉鎖が進行する.ちょうど骨端線の閉鎖が中心部しか起こっていないと,荷重負荷が(より強靭な)骨端線の閉鎖部分のみ集中するため,相対的に同部の荷重がoverloadになり,ミクロレベルでの骨髄浮腫や骨挫傷の状態になる.そのため骨挫傷のように造影増強効果を示すが,臨床的に骨髄浮腫や骨挫傷と診断するほどの状況ではないため,一応ギリギリであるが正常変異に入る.
図5 knee epiphyseal irregularity(femoral cortical irregularity)
大腿骨内側顆の関節面に不整像が認められる. 10歳前後に好発するが,その年齢を過ぎれば自然に消失する.
図6 focal periphyseal edema
15歳前後では大腿骨遠位の骨端線に隣接したmetaphysis主体に,縦長の淡い帯状の異常信号域が認められる.荷重負荷が骨端線の閉鎖した中心(正中)部分のみに集中することに起因している.
herniation pit
herniation pit(大腿骨頸部ヘルニア窩)は,冒頭で紹介した骨正常変異のいくつかの機序のうち,広義には「②靭帯や腱の付着部であることに起因した変化」(ただしherniation pitの場合は靭帯や腱でなく滑膜)に属する.大腿骨頸部の外側前面に硬化縁を伴う類円形の透亮像として認められる(図7) 4, 6, 8).滑膜の折り返し部分の機械的刺激による骨表面のerosionといわれている.erosionであるため,造影増強効果を有することもあるが,基本的には病的意義に乏しく正常変異に属するが,一方で大腿骨寛骨臼インピンジメントとの関与も示唆されている4).成人のどの年齢でも認められうる.
図7 herniation pit
大腿骨頸部の外側前面に硬化縁を伴う類円形の透亮像として認められ,どの年齢でも認められ得る.
fabella
fabella(腓腹筋頭種子骨)は,種子骨(sesamoid bone)の1つである.種子骨は一見するとaccessory bone(過剰骨,副骨)と似ているが,存在する機序が異なる.accessory boneは前述のごとく骨の発生過程において二次骨化中心が癒合しないで残った余分な骨であるが,種子骨は腱などが摩擦を受けやすい部位に生じ,その摩擦や衝撃を吸収する役割を担っている.人体で最大の種子骨は膝蓋骨である.
fabellaは腓腹筋外側頭に存在する種子骨であり8, 13),膝の単純X線写真にて大腿骨外側顆の後方に認められる(図8).常に存在する骨ではないため,偶然に見つけたときに関節鼠あるいは(大腿骨と近接していた場合は)骨折による剥離骨片などと誤認しないように注意が必要だ.
partite patella
partite patella(分裂膝蓋骨)は,冒頭で紹介した骨正常変異のいくつかの機序のうち「①骨化中心や軟骨結合に関連したもの」と「②靭帯や腱の付着部であることに起因した変化」が組合わさって生じる4, 8).
膝蓋骨が1つの骨化中心から発生するのは全体の約3/4で,残り1/4は複数の骨化中心から発生するとされている4).その「複数の骨化中心」が外側広筋の牽引力などにより癒合しないで残ったものがpartite patellaである1).「bipartite patella (二分膝蓋骨)」という言葉が有名であるが,必ずしも2つとは限らず3つに分裂 するものも存在するため(tripartite patella),総称してpartite patellaとよぶ.
そのほとんどは(上)外側に分節骨片が存在する形態を呈する(図9).古典的に用いられていたSaupe分類のうち5%を占めるとされていたⅠ型(下方に分節骨片が存在)は,膝蓋靭帯による剥離骨折を見ていたとする説が現在は有力である4).
膝蓋骨の骨折との鑑別が問題となるが,①分節骨片の部位が(上)外側であること,②骨折と異なり辺縁が直線でなく丸みを帯びていることの2点が鑑別ポイントとなる.外側広筋の牽引力などがかかわっていることもあり男性に多い.また両側性のpartite patellaもしばしば存在する4,8).どの年齢でも認められうる.
partite patella自体は正常変異であるが,これが存在することでスポーツなどの際に無理な負荷がpartite patellaに生じ,疼痛の原因となり得る.この場合は病的状態であり有痛性分裂膝蓋骨(symptomatic or painful partite patella)とよばれる4,8).正常変異であるpartite patellaと異なりMRIで異常信号を呈し,治療(partite patellaの切除など)の対象となる.
図8 fabella
腓腹筋外側頭に存在する種子骨で,大腿骨外側顆の後方に存在する余分な骨として認められる.どの年齢にも認められうる.
図9 partite patella
膝蓋骨の(上)外側に認められ,骨折と異なり辺縁が丸みを帯びている().どの年齢にも認められうる.
- irregular tibial tuberosityは13~17歳という年齢と特徴的な部位で診断し,Osgood-Schlatter病の可能性にも注意する.
- distal femoral cortical irregularityは10〜15歳という年齢と,大腿骨の内側顆直上という部位で疑い,MRIの異常信号やFDG-PETの異常集積もきたしうることに留意する.
- knee epiphyseal irregularityは10歳前後に大腿骨内側顆の関節面に生じる不整像で,離断性骨軟骨炎との鑑別に注意.
- focal periphyseal edemaは15歳前後に大腿骨遠位の骨端線近傍に生じるMRIの異常信号域.
- herniation pitは成人のどの年齢にも認められうる大腿骨頸部外側の類円形透亮像.
- fabellaはどの年齢にも認められうる大腿骨外側顆の後方に存在する種子骨.関節鼠や骨折による剥離骨片と誤認しないように注意.
- partite patellaはどの年齢にも認められ,膝蓋骨の(上)外側という特徴的な部位と「辺縁の丸み」で骨折と鑑別する.