
画像診断に絶対強くなる
ツボをおさえる!
Part1 頭頸部領域
01
脳のvascular territoryと脳葉の画像解剖

本項では頭部のCT,MRI診断などにおいて重要な脳のvascular territory(血管支配域)と脳葉の画像解剖についてのツボを,シェーマを交えつつ概説する.

脳のvascular territoryと脳葉の画像解剖
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脳のvascular territoryは,まず主要な脳動脈がそれぞれどう走行しているかをイメージし(図1),それらの主要脳動脈分枝が行き着いた先がそれぞれの脳のvascular territoryということで理解するとよい(図2).
- 脳葉の画像解剖では,「中心溝で前頭葉と頭頂葉が境される」ということが一番のポイントになる(中心溝の同定については次項02「中心溝を同定するツボ」にて解説).横断像(軸位断像)が正しい基準線であるOM lineやAC-PC line(本文で詳述)で撮像された場合,頭頂寄りのスライスでは「前半分が前頭葉,後ろ半分が頭頂葉」という分布となる(図3,4).
vascular territoryの解剖
まずは実際の症例をご覧いただきたい.症例1は70歳代女性で,乳癌および膵癌の既往があり,肝転移にて経過観察中に意識障害をきたしたため,精査目的で頭部MRI検査が施行された.FLAIR画像(図5)では,右側の前頭葉と後頭葉の2カ所に高信号域が認められる().肝転移を有する担癌患者さんであり,まずは「脳転移とそれに伴う浮腫だろうか?」と想起される.ところがほぼ同じレベルの拡散強調画像(図6)ではどうであろうか?右前頭葉の病巣が,拡散強調画像で高信号を示しているだけでなく,
のvascular territory境界部でピッタリと高信号域の広がりが止まっており,画像診断の専門医がみれば(いや画像診断の専門医でなくとも)急性期脳梗塞であることは明らかである.ちなみにこの高信号域は内側も穿通枝領域との境界でピッタリと止まっている.
さらに別の症例2もご覧いただこう.70歳代女性で,自宅のトイレで気を失って倒れているのをヘルパーさんが発見.救急搬送時の単純CT(図7)では,強い頭部打撲による皮下血腫もみられるが(),右前頭葉から側頭葉の低吸収域は完全にvascular territoryに一致しており(
),外傷による脳実質損傷ではなく脳梗塞であることが明らかである.右中大脳動脈には血栓性閉塞を示すhyperdense MCA signも認められる(
).
これらの症例のように,vascular territoryの解剖は救急診療の差し迫った状況において必須の知識なのだ.
脳葉の解剖と基準線
頭部CTやMRIの横断像(軸位断像)の撮像は,CTではOM line(orbitomeatal line:眼窩耳孔線),MRIではAC-PC line(anterior commissure-posterior commissure line:前交連-後交連結合線)が基準線とされている.
OM lineは眼窩中心(または外眼角)と外耳孔を結ぶ線で,AC-PC lineとほぼ同じ角度になる.
AC-PC lineは前交連(anterior commissure:AC)と後交連(posterior commissure:PC)とを結ぶ線で,図8のに相当する.ただしAC-PC lineを認識するにはやや解剖学的な専門知識が必要になるため,臨床現場のMRI検査では鼻根部と橋-延髄移行部(橋下端)とを結ぶ線(図8
)で近似されている.鼻根部とは「正中矢状断像で前面の輪郭の一番くぼんだ部位」(図9
)を指す.橋は当然ながら図9の
である.また脳のルーチン画像はAC-PC lineやOM lineであるが,眼窩や頭蓋底の検査の場合はAC-PC lineではなくドイツ水平線が基準線とされている.ドイツ水平線は,鼻根部と中脳-橋移行部(橋上端)とを結ぶ線(図8
)で近似される.
これら基準線の知識は,撮影を担当する技師のみが知っていればよいのではなく,読影する放射線科医や臨床医も「ちゃんとした基準線で撮像されているか?」を確認するために知っておくことが重要である.特に他院で撮られた画像と自分の施設で撮られた画像とを比較する際に両者の画像で基準線が異なる場合は,この基準線の知識がないと「何か画像が違う.何かがおかしい...何だろう?」というレベルで判断が止まってしまう.読影の際に「位置決めの矢状断像」で基準線の確認をすることは重要なのだ.

- :前大脳動脈
- :中大脳動脈
- :後大脳動脈
- :上小脳動脈
- :前下小脳動脈
- :後下小脳動脈
(下面から眺めたシェーマで,右側では小脳および側頭葉前方の脳実質をはずしてある)
図1 脳動脈のシェーマ
文献1より引用.












図2 脳のvascular territory
大脳の動脈の3本柱
- 前大脳動脈(ACA:anterior cerebral artery)領域
- 中大脳動脈(MCA:middle cerebral artery)領域
- 後大脳動脈(PCA:posterior cerebral artery)領域
小脳の動脈の3本柱
- 上小脳動脈(SCA:superior cerebellar artery)領域
- 前下小脳動脈(AICA:anterior inferior cerebellar artery)領域
- 後下小脳動脈(PICA:posterior inferior cerebellar artery)領域
穿通枝領域,他
- 穿通枝領域:主に前大脳動脈(ACA)より
- 穿通枝領域:主に中大脳動脈(MCA)より
- 穿通枝領域:主に後大脳動脈(PCA)および後交通動脈(P-com:posterior communicating artery)より
- 穿通枝領域:前脈絡動脈(anterior choroid artery)より
- 椎骨動脈(VA:vertebral artery)および脳底動脈(BA:basilar artery)より直接分岐した枝で支配
文献1より引用.
脳葉の広がりを外側面から眺めた像を図3に,横断像(軸位断像)における脳葉の広がりを図4に示す.ピンク色で示す前頭葉と水色で示す頭頂葉は中心溝で境されるため,正しい基準線(OM lineやAC-PC line)で撮像された場合,頭頂寄りのスライスでは「前半分が前頭葉,後ろ半分が頭頂葉」という分布となる(図4 ⑩~⑫).また前頭葉と緑色で示す側頭葉とはシルビウス裂で境される(図4 ④,⑤).

図3 脳葉の広がりを外側面から眺める(基準線はOM line)
文献1より引用.












図4 脳葉の広がり(基準線はOM line)
:側頭葉,
:前頭葉,
:後頭葉,
:頭頂葉
文献1より引用.

図5 症例1:FLAIR画像
文献1より引用.

図6 症例1:拡散強調画像(図5と同一時期に撮像)
文献1より引用.

図7 症例2:単純CT(救急搬送時)
文献1より引用.

図8 位置決め画像(正中矢状断像)と基準線
:AC-PC line(≒OM line)
:鼻根部と橋-延髄移行部とを結ぶ線
:鼻根部と中脳-橋移行部とを結ぶ線(ドイツ水平線はこの線で近似)
文献1より引用.

図9 鼻根部()と橋(
)
文献1より引用.
vascular territoryの解剖は救急診療の差し迫った状況において必須の知識.脳葉の解剖や撮像の基準線の知識とあわせて,ツボを押さえつつマスターしていこう!