第80回 画像診断クイズ(消化管)
正解
正解は選択肢3 S状結腸間膜窩ヘルニア
所見
左内腸骨動脈腹側にSac-like appearanceを呈するclosed loopの形成を認める。左結腸動動脈の背側(図矢印:左結腸動脈)、左卵巣動静脈と左総腸骨動脈の腹側に位置している。口側の小腸は拡張している。腹水がみられるが、消化管の造影効果は保たれており絞扼を疑う所見は指摘できない。
診断
S状結腸間膜窩ヘルニア
解説
内ヘルニアは腹腔内の裂孔,陥没,および嚢状部などに消化管や腹腔内臓器が迷入した状態をいう。内ヘルニアの画像診断ではclosed loopの同定、ヘルニア嚢とヘルニア門の同定、ヘルニアによって偏位している血管を同定といった順に読影していくことが重要である。S状結腸間膜は2層の漿膜からなり、S状結腸を骨盤壁に固定している。その付着部は左内腸骨動静脈分岐部付近を頂点とし、左下方は左大腰筋内側部に沿い、右下方は第3仙椎正中部に達する逆V字型の形態である。V字型の頂点では背側の壁側腹膜と固定されるが、S 状結腸は下行結腸に比べ伸長を示すため、S 状結腸間膜背側に癒合不全領域が生じこれがS状結腸間膜窩となる。この窩に小腸が嵌入した状態をS状結腸間膜窩ヘルニアという。
S状結腸間膜に関連する内ヘルニアは、1964年にBensonらにより提唱された3つ分類①S状結腸間膜窩ヘルニア(S状結腸間膜付着部の陥凹部に腸管が陥頓する)②S状結腸間膜裂孔ヘルニア(S状結腸間膜の2葉ともに欠損し貫通した腸間膜裂孔に陥頓する)③S状結腸間膜内ヘルニア(S状結腸間膜の1葉のみ欠損した非貫通性欠損部に陥頓し間膜内にヘルニア嚢を有するもの)がある。S状結腸間膜のヘルニアは内ヘルニアの3~5%程度と稀な疾患である。CTで結腸間膜を把握するにはその内部を走行する血管を同定することが重要で、S状結腸間膜の把握には下腸間膜動静脈の同定がポイントとなる。S状結腸間膜窩ヘルニアの診断にはclosed loopと下腸間膜動静脈(およびその分枝)、腸骨動静脈との位置関係に注目することで診断に至ることができる。
参考文献
高木 一、森 宣: S状結腸間膜. 画像診断 17(3): 265-275, 1997.
本郷 哲央、森 宣、沖野 由理子ら:腹部間膜と内ヘルニア.画像診断 31(12):1156-1167,2011
Benson JR.Kilien DA:Internal hernias involving the sigmoid mesocolon. Ann Surg 159.382-4,1964
出題者からのコメント
S状結腸間膜窩ヘルニアは稀な疾患ですが、closed loopと下腸間膜動静脈、腸骨動静脈との位置関係を注意深く観察することで診断に至ることができます。日常診療の中で、腸閉塞の読影時には腸管と血管走行の位置関係を丁寧に観察してもらいたいという意図で出題しました。