第78回 画像診断クイズ(胸部)
正解
正解は選択肢3 γグロブリン
解説
図1. X-8年術前胸部単純X線正面像で左肺門に重なり、hilum overlay sign陽性・心陰影と一部シルエットサイン陽性・下行大動脈とシルエットサイン陰性の腫瘤が認められ、前縦隔腫瘍と考えられる。図2. X-8年術前胸部単純X線像で腫瘍は、胸骨正中切開にて摘出されていることがわかる。その後のCTで、脂肪組織を含め、前縦隔の構造が消失して左右の肺が密接していることから、拡大胸腺摘出術が施行されたものと推察される。よって前縦隔腫瘍は、胸腺腫もしくは胸腺癌であると考えられる。
図3. X-6年胸部単純CTで、左下葉S6葉間胸膜沿いの肺結節の増大を認め、転移性肺腫瘍と推察される。図4.X-4年から、図5. X年にかけては、肺転移の増悪を認める。また、両肺下葉を主体に、気管支壁肥厚や気管支周囲の粒状影や浸潤影を認め、経過で増悪している。これらは慢性的な気管支炎・細気管支炎と考えられる。また図5. X年には、両肺上葉中枢優位にすりガラス影が出現しており、他の感染症が合併した可能性が考えられる。
実際、前縦隔腫瘍の病理組織診断は胸腺腫Type AB stageⅢであった。術後3年で多発肺転移が出現・増悪し、慢性的な細気管支病変も経過で増悪している。また、X年に出現した両肺上葉優位のすりガラス濃度についてはCMV抗原(+)であり、CMV肺炎と診断された。血液検査ではIgG 426.0の低ガンマグロブリン血症を認め、胸腺腫術後・多発肺転移に合併したGood症候群と診断された。
Good症候群は胸腺腫に伴う免疫不全で、胸腺腫と低ガンマグロブリン血症を呈したGoodらの報告が初。胸腺腫との合併頻度は、欧米では5~10 %、本邦では0.2~0.3 %と報告されている。術後でも胸腺からの分泌因子により発症する例がある。機序は、胸腺由来のCD8+T細胞が骨髄、CD4+T細胞がリンパ節を障害することによりB細胞の分化が阻害され、低~無ガンマグロブリン血症を呈する、など、いくつかの報告がある。液性免疫のみではなく、細胞性免疫の低下も示す。
Good症候群による副鼻腔気管支症候群やびまん性汎細気管支炎も報告されている。これは、低ガンマグロブリン血症でIL-10産生が低下し、過剰な好中球活性の制御ができないことにより、既存の気道感染に対する過剰な反応が惹起されることが機序とされている。
出題者からのコメント
Good症候群は比較的まれな疾患だが、胸腺腫またはその術後に慢性感染症や易感染性を来して予後不良であり、読影の際に念頭においておくべき疾患の1つと考える。