第73回 画像診断クイズ(消化管)
正解
正解は選択肢4 膀胱炎を併発している場合、本疾患と特定できる
画像所見
小腸腸管壁の全周性の肥厚が広範にわたり認められる。粘膜層の濃染像が認められ、粘膜下の著明な浮腫が認められる。腸管壁の三層構造が認められ、target signを呈している(画像1矢印)。腸管周囲の血管拡張が認められる。腸管膜や漿膜下の拡張した血管の配列が認められ、comb signを呈している(画像2矢印)。
臨床経過
この画像所見は、腸炎一般において認められる非特異的なものであるが、血液所見上、感染症状に乏しく、腸管虚血を支持するものである。尿所見より腎機能障害が疑われた。若年女性であることを考慮し、ループス腸炎、ループス腎炎が疑われ、腎生検にてループス腎炎の診断となった。血液所見より抗核抗体陽性及び抗ds-DNA抗体高値であり、全身性エリテマトーデスの診断となり、ステロイド投与開始となった。
診断
ループス腸炎(虚血性腸炎型)
解説
SLE(全身性エリテマトーデス)は全身の小血管に自己免疫性の血管炎を生じる。SLEの消化管病変は、血管炎に起因する病態がループス腸炎と蛋白漏出性胃腸症が認められる。ループス腸炎は、小腸主体の虚血性腸炎型と大腸主体の多発潰瘍型に分類される。
虚血性腸炎型の主な病態は、漿膜側の血管炎による虚血と腹膜炎が主たる病態である。これにより、小腸粘膜下の浮腫が生じ、CTではtarget signといわれる腸管壁の三層構造を程する。また、腸管膜の血管拡張を示唆するcomb signも認められる。さらに、腹水や腸間膜脂肪織の濃度上昇やリンパ節腫大も認められる。
多発潰瘍型では、抜き打ち状の多発潰瘍がS状結腸から直腸に好発し、穿孔を来す。
虚血性腸炎型では、ステロイドが著効することが多く、多発潰瘍型はステロイド抵抗性であることが多い。
SLEの血管炎による病態にループス膀胱炎があり、ループス腸炎の10%に合併する。ループス膀胱炎にはループス腸炎が必発である。血管炎による腸炎と膀胱炎はHenoch-Schönlein紫斑病(IgA血管炎)や結節性多発性動脈炎においても認められ、鑑別疾患として留意する必要がある。
参考文献
- 藤井俊光, 岡本隆一, 渡辺守:【UC、CD以外の希少性難治性炎症性腸疾患を知る!】膠原病に伴う消化管病変.IBD Research 14巻4号 Page255-260, 2020.
- Adalberto Gonzalez, et.al: Lupus enteritis as the only active manifestation of systemic lupus erythema-tosus: A case report. World J Clin Cases 7(11):1315-1322, 2019.
出題者からのコメント
本症例は、腹痛を契機にSLEの診断に至った症例です。CTによるtarget signやcomb signは腸炎一般に認められる所見であり、非特異的なものです。虫垂炎の診断の下、開腹下や腹腔鏡下で切除された症例も報告されており、血液所見等の臨床所見を総合した上で的確に診断することが重要であると考えられたため、出題しました。