第72回 画像診断クイズ(肝)
正解
正解は選択肢4 肝炎症性偽腫瘍
画像所見と経過
単純CT上肝S6末梢に辺縁不整な低吸収域を認める。造影CTでは辺縁のリング状造影と中心部の遅延性造影を認める。肝表面は限局性に陥凹し、病変より末梢肝実質の増強もみられる(図1)。MRI上T1強調像では低信号を呈するが、out-of-phase上信号抑制はみられず、脂肪含有は指摘できない。T2強調像では、中心部は周囲肝実質より低信号を呈し、辺縁に淡い高信号帯を伴う。多時相造影で早期濃染は認めず、求心性、遅延性に増強され、肝細胞相ではEOBの取り込み欠損を呈する(図2)。拡散強調像では周囲肝実質より低信号を呈した(非呈示)。
CT、MRI所見ともに造影パターンなど性状はHCCの特徴と異なるが、確定診断に至らず、混合型肝癌、肝内胆管癌など悪性疾患も除外できないため、手術が施行された。病理所見では、中心部は泡沫状マクロファージの集簇と炎症細胞浸潤を伴う肉芽組織を形成し、xanthogranulomatous typeの炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor:IPT)と考えられた。浸潤している形質細胞にIgG4陽性細胞は認めなかった。肝表面陥凹部分には被膜の線維性肥厚、病変に連続する線維性結合織、炎症細胞浸潤を認めた。術後5日目のCT上S8、S7に新たに不整な低吸収域を認めたが(図3)、経過中消失が確認され、切除に起因したIPT異時性多発が示唆された。
解説
画像診断の普及、進歩により肝IPTの報告例は増加傾向にある。病理組織学的特徴によりFibrohistiocytic type(線維組織球型)、Lymphoplasmacytic type(リンパ球形質細胞型)に大別され、後者は大部分がIgG4関連疾患と捉えられている。本症例は病理所見よりFibrohistiocytic typeと考えられる。肝IPTは炎症浸潤や線維化の程度、時期により多彩な増強パターンや信号強度を呈し、特徴像に乏しいとされている。本症例における中心部の遅延性造影やT2強調像、拡散強調像での信号低下は豊富な線維化を反映した所見と考えられる。経過中増大を認める症例も報告され、肝細胞癌、肝内胆管癌、転移性肝癌、悪性リンパ腫など、悪性腫瘍との鑑別がしばしば問題となり、癌と診断され、切除後に肝IPTと判明した報告もみられる。肝生検の有用性が報告されているが、正診率は40~50%台に留まり、播種のリスクに加え、検体量不十分による悪性所見を見逃す危険性についても考慮が必要である。診断確定後は、自然退縮の報告もあり、保存的治療や経過観察が第一選択となる。
出題者からのコメント
肝IPTは報告例が増加しているが、画像所見は多彩で、悪性腫瘍との鑑別がしばしば問題となる。本症例は、悪性腫瘍との鑑別が困難で手術により肝IPTとの確定診断に至った後、切除に起因するIPTの異時性多発を認め、さらに経過中自然退縮を確認できた貴重な症例と思われ、出題した。非典型所見がある場合には、肝IPTも鑑別に挙げ、診断を進めていく必要がある。