第65回 画像診断クイズ(脊椎/脊髄)
正解
正解は選択肢4 神経鞘腫
画像所見および経過
単純CT(軟部条件)で仙骨管内から仙骨前部に突出する境界明瞭な腫瘤を認める。腫瘤の大部分は筋肉と比較して低吸収だが一部は等吸収を示している。内部に石灰化を認めない。単純CT(骨条件)で病変に接する骨はやや菲薄化している。仙骨左側部の骨欠損像は前仙骨孔の拡大と考える。腫瘍はこの部分を経由して仙骨内外に広がっている。
MRI T1強調像で腫瘤は筋肉よりやや低信号を示し、T2強調像および脂肪抑制T2強調像では高信号で多房性嚢胞の像を示しており、内部には複数の液面形成があり腫瘍内出血を反映した所見と考えられる。ガドリニウム造影脂肪抑制T1強調像で仙骨前部腫瘤の辺縁および隔壁様構造に造影効果を認める。一方、仙骨管内では充実性の造影効果を認める。
CT ガイド下生検を施行し確定診断に至った。
診断
神経鞘腫
解説
脊髄の神経鞘腫は脊髄神経根の Schwann 細胞から発生する良性腫瘍である。多くの場合腫瘍は小さいが、時に巨大になることがある。神経鞘腫のうち1~5% が仙骨に発生し、仙骨を破壊し、骨盤および仙骨管にまたがり、さらに背側の筋肉や脂肪にまで及ぶこともある。
神経鞘腫は嚢胞化や腫瘍内出血を伴う頻度が高く、本例のような多発液面形成を示す場合も稀ではない。症状としては疼痛や感覚障害をきたすが、本例のように無症候性の場合もある。なお、強い運動麻痺があれば悪性の可能性が高くなると言われている。
仙骨前に大きな腫瘤を形成する腫瘍として脊索腫や軟骨肉腫が考えられるが、これらが多発液面形成を伴うことは通常ない。一方、骨巨細胞腫は仙骨に好発し得るが、骨は腫瘍により膨張性変化をきたすのが普通であり、本例は腫瘍の進展、発育形式が骨巨細胞腫のそれとは異なる。
参照文献
Akira Ogose et al.
Diagnosis of Periferal Nerve Sheath Tumors around the Pelvis
Japanese Journal of clinical Oncology , volume 34, Issue7, July 2004, Pages 405-413,
柳下章 編, エキスパートのための脊椎脊髄疾患のMRI 第3版
出題者からのコメント
仙骨の骨破壊をともなう巨大腫瘍の症例であり、脊索腫、軟骨肉腫などの悪性腫瘍がまず頭に浮かぶと思います。仙骨部の神経鞘腫が巨大化しやすく、骨破壊を来し得ることや、腫瘍内に多発液面形成を伴う場合があることを知っていれば、正しい診断に至ることが可能と考えます。また骨破壊に見える部分の正体が前仙骨孔の拡大と解釈できれば診断はより容易になると思います。