第61回 画像診断クイズ(頭部)
正解
正解は選択肢2 Wernicke脳症
解説
頭部MRIにて両側視床内側のDWI/FLAIR高信号を認め、ASLで視床内側、中脳水道周囲に高信号を認めた。臨床症状と合わせ、Wernicke脳症と診断された。ビタミン製剤を投与し、自覚症状、神経学的異常は速やかに改善した。
Wernicke脳症はビタミン欠乏症による脳症であり、意識障害、眼球運動障害、失調性歩行を特徴とする。低栄養またはビタミン欠乏症の認識に基づき、臨床的に診断される。典型例では診断が容易だが、症状が非典型な場合は頭部MRIが診断に役立つことがある。
MRI所見は第3脳室周囲(視床内側)、中脳水道周囲、第4脳室底、乳頭体、小脳虫部にT2WI/FLAIR高信号を認める。造影効果を呈することもあり、特に乳頭体で見られることが多い1。画像所見も典型例では特徴的な分布から本疾患を疑うことが可能だが、所見が軽微になると難しくなる。
特徴的な症状、上記の画像所見に加えて、ASLの所見にも注目したい。Ko SBらは、Wernicke脳症患者10人を遡って検討したところ、全ての患者で好発部でのASL高信号を認め、ASLはWernicke脳症の診断の手がかりになる可能性があると考察している2。
提示症例も視床内側の信号変化は特徴的な分布であった。中脳水道のあたりは信号変化が微妙な点で鑑別に迷ったが、ASLでの高信号の分布と併せてWernicke脳症を疑うことができた。
Wernicke脳症は早期診断、早期治療が有用な疾患であり、無治療では死亡率は10~20%、生存患者の80%で障害の進行し、記銘力障害、逆行性健忘、作話を特徴とするKorsakoff 症候群に移行する。診断の見逃しがないよう、特徴的な症状、特徴的な画像所見に加えて、ASLが有用な可能性がある点は知っておくと役に立つ。
参考文献
1) | 画像診断別冊KEY BOOKシリーズ よくわかる脳MRI 改訂第4版 P604-605 |
2) | Ko SB, Kim TJ, Sohn CH, et al. Focal hyperemia in Wernicke's encephalopathy: a preliminary arterial spin labeling MRI study. Neuroradiology 2020; 62:105-108. |
出題者からのコメント
両側対称性の病変は意識していないと見落としのリスクがあり、Wernicke脳症のASLは所見が拾い上げやすい点でありがたい。どういう症例にASLを撮影するかは施設によってさまざまだと思いますが、参考にしていただけると幸いです。