画像診断クイズ

画像診断クイズ

第47回 画像診断クイズ(消化管)

正解

正解は選択肢3 好酸球性食道炎

解説

胸部食道周囲に液体貯留を認め、食道壁肥厚がみられた。食道穿孔を示唆する縦隔気腫や魚骨などの異物を疑う所見は指摘できなかった。

上部消化管内視鏡検査:食道に縦走溝と多発する白斑を認めた。穿孔や異物は認めなかった。食道粘膜生検:乳頭状に増殖する食道扁平上皮内に好酸球主体の炎症細胞浸潤がみられた(好中球20個以上/HPF)。

Quiz_One

画像7 : HE染色 20倍
画像8 : PAS-alcian blue染色 40倍

臨床経過

上部消化管内視鏡検査所見で好酸球性食道炎が疑われ、病理結果で同様の診断となった。採血検査では白血球9560 /μL(Neu 67.3 %、Eosino 5%)と末梢血の好酸球上昇は認めなかった。より詳しい問診、診察では来院2日前にイカ刺身、前日にアジフライの摂食歴、重度のアトピー性皮膚炎と花粉症の既往があった。プロトンポンプ阻害薬(PPI: proton pump inhibitor)とTh2サイトカイン阻害薬(アイピーディカプセル、一般名:スプラタストトシル酸塩カプセル)の内服加療を行い、症状は軽快。1週間後に撮影したCTでは食道壁肥厚は改善し、食道周囲の液体貯留は消退していた。アレルギー検査を行ったが、花粉症アレルゲン(スギ、ヒノキ)や環境アレルゲン(ハウスダスト、ダニなど)での値の上昇を認めたものの、食事関連のアレルゲンは検査上はっきりしなかった。

重要事項

好酸球性食道炎は食道上皮への多数の好酸球浸潤を特徴とする慢性炎症によって食道運動障害や器質的狭窄を来たす疾患であり、1990年代後半から提唱されている。男性に多い疾患で、2000年代以降に欧米で先行して急増し、我が国でも増加傾向にあり、上部消化管領域のトピックとなっている。小児~成人に起こり、小児では哺乳障害,嘔吐,腹痛などを主症状とするが,成人では食物のつかえ感,嚥下障害,food impaction(食物の食道嵌頓)を主訴とする場合が多い。成人では喘息やアトピー性皮膚炎などアレルギー素因のある中年男性の有病率が高いとされる。当初は胃食道逆流症との鑑別のため、診断基準としてPPI抵抗性であることが重要視され、本症例のようにPPI反応性の症例はPPI-responsive esophageal eosinophilia (PPI-REE)と区別されていた。近年PPI-REEは臨床的・病理組織学的にも食道上皮における遺伝子発現パターンにも差がないことが示され、最新のガイドラインではPPI-REEの概念は除外され、PPIは診断目的ではなく、治療の選択肢の位置づけとなった。PPI無効症例には局所ステロイド療法などが選択される。特徴的な内視鏡所見(縦走溝、輪状多発収縮輪、白斑など)を呈し、CTでは食道壁肥厚がみられるとされる。
本邦の診断基準(2015)は以下の通りである。

1. 症状(嚥下障害、つかえ感等)を有する。
2. 食道粘膜の生検で上皮内に20/HPF以上の好酸球が存在している。(生検は食道内の数か所を行うことが望ましい。)
1. 内視鏡検査で食道内に白斑、縦走溝、気管様狭窄を認める。
2. プロトンポンプ阻害薬に対する反応が不良である。
3. CTスキャンまたは超音波内視鏡検査で食道壁の肥厚を認める。
4. 末梢血中に好酸球増多を認める。
5. 男性

本症例はアトピー性皮膚炎の既往のある30代男性であり、消化器症状、病理所見や画像所見が上記の診断基準を満たしたため、好酸球性食道炎の診断となった。

参考文献

幼児・成人好酸球性消化管疾患診療ガイドライン 2020年8月5日(案)、厚生労働省好酸球性消化管疾患研究班編集

Katre et al. Cardiopulmonary and Gastrointestinal Manifestations of Eosinophil-associated Diseases and Idiopathic Hypereosinophilic Syndromes: Multimodality Imaging Approach, Radiographics 2016;36(2):433-51. doi: 10.1148/rg.2016150145.

出題者からのコメント

内視鏡所見が特徴的な疾患で、本症例も内視鏡を行った医師から好酸球性食道炎だと思うと意見を頂き、病理で確定診断がついた症例でした。患者年齢、性別、背景を含めて典型的な症例であったため、今後の診療の参考になると考え、出題しました。