第11回 画像診断クイズ(頭部)
正解
正解は選択肢3
所見
T2強調像やFLAIR像で、橋に境界不明瞭な高信号がある。腫脹はごく軽度である。
拡散強調像ではT2延長域に対応する異常信号はみられない。
T1強調像で病変は低信号で、造影T1強調像では点状、一部線状の増強効果を認める。小脳虫部や右小脳半球にも小さな増強効果がみられる(図5と6、矢印)。
脊髄の造影T1強調像でも髄内に増強される病変が複数みられた(参考画像1、矢印)。
診断
その後、小脳病変の生検が行われ、血管周囲のリンパ球浸潤はあるが、リンパ腫を示す腫瘍性の増殖はなかった。次いでステロイドパルス療法(2クール)と経口ステロイド療法が施行された。ステロイドパルス療法終了後1か月と3か月の造影T1強調像で病変の縮小、消退が認められた(参考画像2と3)。
これらの所見と経過からCLIPPERS (chronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroids) 症候群と診断された。
この疾患のポイント
CLIPPERS症候群は橋を中心とした中枢神経の炎症性疾患で、2010年にPittockらが提唱した比較的新しい疾患概念である1)。病名が示すように橋を主体に造影増強される病変を認め、ステロイド治療に反応性の炎症性疾患とされているが、病態はなお完全には解明されていない。病変は小脳、大脳半球、脊髄にもみられる2)。MRI上、上記のような部位に増強される散在性病変をみることに加え、mass effectが軽微なこと、拡散強調像での高信号(拡散の制限)がみられないことが特徴として挙げられる。ただし、類似の所見を呈して後に生検により原発性あるいは転移性悪性リンパ腫と判明することがあり、慎重な経過観察が重要である。
従って選択肢1、2、4は正しく、選択肢3の「放射線治療が治療法の第一選択」は誤りであり、問題の正解は3である。
鑑別診断
自己免疫疾患 | 神経Behçet病 神経サルコイドーシス 中枢神経限局性血管炎 Bickerstaff型脳幹脳炎 Sjögren症候群 |
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脱髄疾患 | 多発性硬化症 視神経脊髄炎 急性散在性脳脊髄炎 |
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腫瘍性病変 | 悪性リンパ腫 神経膠腫 リンパ球性肉芽腫症 Langerhans細胞組織球症 |
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血管好性の慢性感染症 | 結核 神経梅毒 Whipple病 |
出題者からのコメント
最近認知され、特徴的な画像と臨床像を示す疾患ですが、
- 画像診断上、比較的多くの疾患が類似の所見を示し、鑑別診断が重要である
- リンパ腫との異同が問題となり、最終的に悪性リンパ腫とされる症例があることを留意すべきである
これら2点を認識して頂きたく、呈示しました。