コラム

肝細胞癌を診る

- 内科医のための肝臓MRI入門

コラム

Break1.

Gd-EOB-DTPA造影MRIでは平衡相と後期相が併記されるのは何故?

 最近、Gd-EOB-DTPA造影MRIでは平衡相を後期相(Late Phase)と呼ぶ動きがある。平衡相の概念が“細胞外液[血管内腔と外腔(細胞間質)]の造影剤濃度が平衡状態にある相”であるのに対し、“投与数分後のGd-EOB-DTPA は徐々に肝細胞内に移行しているため、肝実質の造影効果を考える場合、必ずしも細胞外液の平衡状態を反映した画像ではない”ということが理由であり、代替名称として後期相と呼ばれる機会が増えてきている。しかし、この名称も統一されたものではなく、遅延相やいまだ平衡相と呼ばれることもあるのが現状である。このような状況をふまえて本冊子では”平衡相”と”後期相”を併記することにした。従って、Gd-EOB-DTPA造影MRIの平衡相(後期相)で認められる低信号は門脈血流の低下と細胞間質量の低下に肝細胞機能の低下も加味していることになるが、肝細胞癌の検出においてこの現象の違いが影響する機会は少なく、従来どおりwash-outを確認する相として読影すればよいと考える。

細胞外液性造影剤の平衝相イメージ

細胞外液性造影剤の平衝相イメージ

Gd-EOB-DTPAの後期相イメージ

Gd-EOB-DTPAの後期相イメージ

Break2.

画像ビューア上の表示に関する、放射線科との合意

 MRIはCTに比べて画像の種類が多く、得られる情報が多い。しかし、放射線科から詳細な読影レポートを提供される前に画像を読影しなければならなかった場合や、読影レポートに記載されている所見を画像で確認する場合は、”画像の種類が多い”ことが足枷となる。この足枷を軽減する1つの手段が前述の読影手順であるが、電子カルテの端末(または画像ビューア)などから画像を参照する場合や、膨大な枚数のフィルムから肝細胞造影相を特定することにすら難儀した経験はないだろうか?

 そこで放射線科と画像ビューア上での撮像シリーズの順序を合意し、固定してもらうことをお勧めする。

 例えば、Gd-EOB-DTPAを用いたMRI検査では最初に造影前のT1強調画像、ダイナミック相[動脈相、門脈相、平衡相(後期相)]と続き、最後に肝細胞造影相が撮像されていることが多く、T2強調画像などは、平衡相(後期相)と肝細胞造影相の間に撮像されることが多い。したがって、画像ビューア上の表示をこの順序に固定してもらえば、最後の画像をみた後に最初に戻ればよいことになる。また、撮像断面を決めるためのリファレンス画像は参照不要であることを伝える。わかりやすいファイル名(シリーズ名)をつけてもらえれば、さらに特定しやすくなる。当院では画像サーバー転送時にシリーズごとにシーケンス名と造影画像には造影剤投与から撮影開始までの時間が入力され、画像ビューア参照時のサムネイルに表示されるようにしてあり、造影前画像の後に造影後の動脈相から肝細胞造影相までの画像が一番後ろにまとめて保存されている。

画像ビューア上の表示に関する、放射線科との合意

画像提供:川崎医科大学

ポイント
画像ビューア参照時に表示される撮像シリーズをわかりやすい順序で固定してもらう(最初)造影前のT1強調画像、ダイナミック相・・・肝細胞造影相(最後)

Break3.

患者への説明とMR画像の活用

 肝細胞癌がみつかった患者へ治療方針を説明する際に画像を用いている場合、MR画像は種類が多く、どの画像を用いるか悩んだ経験があるかもしれない。画像を用いて患者に説明するならば、Gd-EOB-DTPA造影MRI肝細胞造影相の画像をお勧めする。肝細胞造影相の画像は腫瘍と肝臓のコントラストがよく、肝細胞癌を指し示しやすい。例えば、初発の患者で肝細胞造影相で検出された乏血性結節が経過観察になった場合でも、結節を画像でみせておけばこれまでより間隔の短い来院や次回の検査予約も同意が得やすくなる。

 また、患者を前にした限られた時間で肝細胞癌のある断面を抽出することは容易ではないため、可能であれば放射線科からの読影レポートに肝細胞造影相画像の貼付を依頼する。貼付された画像を参考にすれば容易に断面を抽出できる。

 CT画像やイラストで説明できる場合など、MR画像がすべての患者への説明に必要な訳ではないが、CTでは検出されずMR画像で検出される肝細胞癌が存在することも考えると、MR画像を用いて説明できることが望ましい。

ポイント
患者への治療方針説明に際しMR画像を用いる場合には、肝細胞造影相を用いる