バイエル画像検査室

MR室

外部からのノイズによるアーチファクト

技師長!大変です。先ほど始業点検でファントムを撮像したら,こんなアーチファクト(図1)が発生しました.装置の故障でしょうか.装置メーカーに修理を依頼した方がいいですか?

図1

図1

連絡する前に,このアーチファクトがなぜ画像上に現れたのか考えてみましょう.その後も同様のアーチファクトが確認されていますか.それともこの時だけですか.

 多くの方がこのように白く棒状に描出されているアーチファクトを見かけたことがあると思います.いわゆるジッパーアーチファクトの一つですね.このくらい大きなアーチファクトが発生すると単純にドキドキしますね.
 理由は幾つか考えられると思います。主に次の3つでしょうか。

Raw data(k-space)に

  1. MR信号が混入した
  2. 励起パルスが混入した
  3. (装置の)外部からRFノイズが混入した
外部からのノイズによるアーチファクト

画像引用:弊社冊子「MRIで生じるアーチファクト」57ページ図29より

 まず確認したいのは装置の不具合なのか否かです。数回撮像して再現性のあるアーチファクトなのか確認します。再現性があるなら装置のトラブルを疑います。もちろん間欠エラーとして発生する場合もありますから,装置のトラブルを否定するものではありません.仮に1,2が起因であれば,RF送信系や送受信系の接続ライン上の不具合が考えられます.この場合は点検・修理を依頼することになります.3の場合は原因を確定させるのが少々厄介な印象です.私が最初に確認するのは検査室の扉の開閉です。その後は,RFコイルのコネクターの接続状況(グラついていないか,再度抜き差しする)を確認.被検者の金属類の持ち込み確認.検査室内の機器(インジェクターや監視システムなど)の電源のON/OFFを含めた稼働状態を確かめます.まずないと思いますがRFシールドの破損も考えられます,何かしらが関連して再現性があればノイズの発生源として特定できます.しかし,間欠エラーで再現性が無い場合は解決できるのか不安もあり,ちょっと切なくなります.アーチファクト発生の原因を突き止めるに苦労した例を2つほどお話しします.
 一つ目は,室内に設置された電源(コンセント)が非シールドだった例です.検査室内にコンセントが設置されることは珍しくありません.持ち込み機器の電源などに使用できて便利です。通常はノイズフィルターを通して電源が供給されるため気にしないのですが,これが発見を遅らせる要因でした.検査室内の電源はシールドされているはず!という思い込みですね.間欠エラーとして確認していたので,発生する時の状況を記録しながら詰めていきました.インジェクターのバッテリーを充電している時にアーチファクト発生しているようなので,充電機器を疑いながらも最終的に電源(コンセント)にたどり着きました。
 もう一つは,患者ポジションと室内照明の例です。この例では通常使用では発生せず、再現する条件を見つけるまでに時間がかかりました,最終的に判ったことは患者さんのポジショニングがfoot-firstでガントリーに入り,頭の上で両手を組んだ状態で室内の照明が点灯しているときです.患者さんの体格や撮像部位にも条件があって,ある程度ガントリーから離れた位置に組まれた両腕が置かれる必要がありました,組まれた両腕がアンテナとなって室内照明からノイズを拾っていたようでした.両腕を組むことを止める,または照明を消すと発生しないのです.こんなこともあるのですね,という例です.

 MR信号は波の集まりです.k-spaceの各座標は波の数といえます.各ポイントのデータをIFFTするといろいろな縞模様(縦,横,斜め,太い,細い,などの振幅や濃淡の異なる)が得られます(図3).これらを全て重ね合わせることで普段見ているMR画像ができています.波の数は時間軸で得られるMR信号をk-space上に空間周波集として収めたものであり,波の振幅はMR信号の大きさを示しています.

バイエル画像検査室

図3

と,いう事は本来あってはならない信号がどこかのポイントに混入する,それも大きな信号であった場合にはその信号を基に縞模様を重ね合わせるとその信号が必要以上に強調された画像になります.それが今回のアーチファクトの大元といえます.図2Cの右下にある山がDの縞模様を作ってしまったノイズですね.このように画像上のアーチファクトの形からどのような信号がどこに混入したのかが想像できます.また,撮像シーケンスの種類やデータの配置が判れば縞模様の形から,撮像中のどのタイミングなのかも想像できます.それらを踏まえて,再現性の有無を確認することで装置の不具合なのかを判断する材料になります.

あ!そういえば、MRI室の扉をきちんと閉めなかったような気がします...。

たぶん扉がきちんと閉まっていなかったため外部からノイズが入ったのでしょう.扉を閉めてアーチファクトが発生しないか確認してください.MRI室はRFシールドされています.外部電波の影響だけでなく撮像時に発生している高い出力の高周波を外部に出さない役割もありますから,きちんと扉は閉めましょう.