バイエル画像検査室
線量管理室
国内外における医療放射線管理の変遷 ― 2018 ―
2018年は線量管理元年という言葉を聞きましたが、何が変わったのですか?
日本においては2015年のJapan DRLs 2015公開後から線量管理に対する関心は徐々に高まりましたが、2018年にはより大きな動きがありました。
日本では、2018年度の診療報酬改定により、画像診断管理加算3および頭部MRI撮影加算が新たに設けられ、それらを取得する施設要件の一つとして、線量管理が必要となりました。本通知によると線量管理とは、施設内すべてのCT検査の線量情報を電子的に記録し、患者単位および検査プロトコル単位で集計・管理の上、被ばく線量の最適化を行っていること、とあります1)。また、厚生労働省の政策会議の中で、医療放射線の適正管理に関する検討会が2017年4月19日の初回から2018年9月28日までの間に7回開催され、その中で被ばく線量が相対的に高い検査における被ばく線量の記録や、診断参考レベルに基づく線量及び放射性医薬品の投与量の管理を行う体制を確保するとの方針が発表されています2)。
厚生労働省は2020年度4月を目標に、医療法施行規則を改正し、放射線に係る安全管理体制を整えたいとしています。この取り組みが順調に進めば、2020年には各施設内で放射線安全管理責任者を配置し、CTや血管造影検査において患者被ばく線量と相関を持つ線量指標、核医学検査時の投与各種のエネルギー量を、記録・管理していくこととなります。
具体的にどの線量指標をどのように管理すべきか、明確ではない部分もありますが、線量管理が必要であるという事実は変わらないと考えられます。
一方、海外では何年も前から線量管理に取り組んでいる国や地域があります。
アメリカにおいては、2008年頃に発生した放射線過剰照射の医療事故後から、特にCTにおける医療放射線の管理が重要視され始めました。ACR(:American College of Radiology)は国内で医療に用いられる放射線の量を調査するために、2011年からDIR(線量登録制度:Dose Index Registry)を開始しており3)、DICOMやIHE(:Integrating the Healthcare Enterprise)などの標準化された規格に基づいて各施設から線量情報を収集・分析することで、病院規模や地域等による線量の実態と傾向を明確にしてきました。また、この情報をもとにDRL(:Diagnostic Reference Level)の策定も行われました。ACR-DIRへの参加施設は、2013年に492施設,2016年には1387施設と非常に多くの施設が参加しています。
この様な線量登録制度への参加施設数が増加している背景には、2つの要因があると考えられます。一つは、州法により線量管理が義務付けられている州があること。そしてもう一つは医療施設認定合同機構(TJC:The Joint Commission)による認証を取得するためです。2015年から、線量管理がTJC取得の要件として追加されています4) 5)。
欧州においても線量管理の重要性は周知されています。2013年にはCONCIL DIRECTIVE 2013/59がEuropean Commissionから 発令され、EU加盟国に対し診断参考レベルの利用や照射線量の記録を行うことを各国の法令に取り入れるよう、指令がありました。CTやIVRにおいては、照射線量を評価するためのデバイスを装置等に搭載しなければならない、と言う指令も発せられ、欧州においても線量管理システムの導入は更に加速していくと考えられます6)。
海外や日本における今後の動向に注目し、線量管理の体制整備やシステムの導入などを事前に検討することも必要かもしれません。
【文献】
1) | 厚生労働省: 特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(通知). |
2) | 厚生労働省: 医療放射線の適正管理に関する検討会. |
3) | American College of Radiology: Dose Index Registry. |
4) | Rehani M, Frush D: Tracking radiation exposure of patients. Lancet 376: 754-755, 2010 |
5) | The Joint Commission: Diagnostic Imaging Requirements. |
6) | European Commission: COUNCIL DIRECTIVE 2013/59/EURATOM of December 5, 2013 laying down basic safety standards for protection against the dangers arising from exposure to ionizing radiation, and repealing Directives 89/618/Euratom, 90/641/Euratom, 96/29/Euratom, 97/43/Euratom and 2003/122/Euratom. Official Journal of European Union 57, 2014 |